第21話 城を奪い取った

「ちょっ、えっ!?」


 まさか背中を向けた状態で、こちらの攻撃を防ぐとは思ってもおらず、ティナは戸惑う。


 だが今のはまぐれかもしれない。

 すぐさま気持ちを切り替え、第二撃目を放った。


 ガキンッ!


 しかしまたしても剣で防がれてしまう。

 エデルはまだ背中を向いたままで、それどころか、こちらを振り返ろうともしない。


「ど、どうなってんの!?」


 慌てながらも次々と剣を繰り出すティナ。

 けれど何度やってもエデルの背中に届くことはない。


 まるで後ろに目が付いているかのようだ。

 いや、よしんば背中に目が合っても、人間の関節の仕様上、背後からの攻撃をこんなに容易くガードできるはずがない。


「後ろを向いたままティナの連撃を防いでる!?」

「あんなの初めて見たんだけど……っ?」


 仲間の女子たちも目を見開く中、エデルが彼女たちに向けて言った。


「みんなも攻撃してきていいよ」


 どうやら彼は、たった一人でティナを含む四人を相手にするつもりらしい。


「……い、言ったわね!」

「なんか面白そう!」

「あとから後悔しても知らないわよ!」


 普段から仲の良いこの四人組は、クラス内でも女の子らしい女子が集まっているのだが、そうは言っても英雄学校に通う女子たちである。

 勝ち気さは男子にも引けを取らず、挑発されて黙っていられるはずもない。


 背後はティナに任せ、正面と左右から同時に躍りかかった。

 幾らなんでも、さすがにこれには対応できまいと、四人とも確信していたが、


 ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!


「ぜ、全部ガードされてる!?」

「どういうこと!? 何で一人で四人分の攻撃を防いでるの!? しかも全方向からの!」

「腕の動きがまったく見えないんだけど!」


 信じられないことに、エデルはたった一人ですべての斬撃を完璧に捌いてしまう。

 あまりの神業に、女子四人は唖然とするしかない。


 しかもまったく疲れる様子もなく、むしろ先にへばったのは彼女たちの方だった。


「ハァハァハァ……も、もう無理……っ!」

「どうなってるの!?」

「エデルくん、ヤバすぎ!」

「ぜぇぜぇ……」


 体力の限界がきて、その場に座り込む女子たち。


「僕の勝ちだね」


 一方のエデルは涼しい顔で勝利を宣言してみせる。

 息を荒らげながらティナが訊いた。


「エデルくん、何でそんな真似ができるの?」

「え? うーん、腕が百本ある魔物と戦ったこともあるし、それと比べたら全然だね」

「「「そんな魔物いる!?」」」


 もちろん魔界の魔物である。

 ヘルナイトと呼ばれるスケルトン系最上位の魔物であり、剣を有した百本の腕を自在に操って攻撃してくるため、一本の剣でそれを捌き切るのは至難の業だった。


「……冗談じゃなくて本当に魔界にいた説」

「少なくとも編入試験くらい軽く受かるよねって感じ……」


 それからはなぜか雑談タイム、もとい、質問攻めタイムへと移行した。

 一体どんな場所に住み、どんな生活をしていたのか、じいちゃんとはどんな人だったのか、女子グループならではの無遠慮さであれこれ聞かれたのである。


「よく地形が変わる場所だったよ」

「「「(そんな場所この世界にある……?)」」」

「夏になると大量のアンデッドが湧いてきたりしてさ」

「「「(虫が湧くみたいに言うレベルじゃない……)」」」

「じいちゃんと住んでた家は元々お城だったんだけど、二人で一緒に攻略して奪い取ったんだ」

「「「(城を奪い取った???)」」」


 耳を疑うような話ばかりだが、嘘を言っているようには思えない。


「ち、ちなみに、そのおじいさんの知り合いって?」

「マリベルとかいうばあちゃんだよ」

「校長先生じゃん!? え、もしかしてエデルくんのおじいちゃん、凄い人なの? 道理で……」


 互いに顔を見合わせる女子四人。

 彼女たちの目は、獲物を狙う獣同士が、牽制し合うような鋭い光を放っていた。


「「「(間違いなく将来有望っ! 負けられないわっ!)」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る