58話 戸隠、悪夢を前に絶望する【先行版】



 亮太の同級生、戸隠は、保健医の諏訪すわ百合子に告ろうと思って、保健室へ来た。

 だがカギがかかっており、そしてなかから、あられもない女の甘え声が聞こえてきたのだ。



 それを出しているのは、おそらくは百合子と思われた。


「諏訪先生が……? う、うそだ……うそだ……! こんなのうそだ!」


 戸隠は事実を確認したかった。


 けれどドアにはカギがかかっており、またガラスは曇りガラスで、中の様子がうかがえない。


 焦燥感だけが募る。

 なかで繰り広げられてるのが、自分の女(になる予定)と誰かとやってるのだったら……。


「そうだ、保健準備室!」


 保健室の隣には、薬品を置いておく部屋がある。


 準備室のドアのカギはかかっていなかった。

 だがドアの前に段ボールが無数に詰まれていた。


「くっそ邪魔だ!」


 戸隠は段ボールを蹴飛ばし、無理矢理なかにはいる。


 準備室と保健室とは、ドアを挟んで行き来できる。


 そこのドアの窓は、曇りガラスとなっていなかった。


 中の様子をうかがう。

 そこには……。


「な、んだよ……これ……」


 信じられないような、【悪夢】が広がっていた。


 戸隠の思い人たちが、みな、亮太の手によりメロメロにされていたのだ。


「うそだ……うそだ……うそだ……!」


 事実を否定したかった。

 だが中で繰り広げられている悪夢は、いっこうに覚めてくれない。


 自分が思いを寄せた女。

 自分が告った女。

 自分が告ろうと思った先生。


 そのすべての女が、悪夢の中で、【見たくもない】姿をさらしている。


 女達を悦ばせているのは、自分が見下していたはずの同級生、亮太だ。


 誰も彼もが、みな。

 飯田亮太という1匹の男に、全力で媚びている。


『みしろもう頭のなかが×××でいっぱいなんですぅ。もう亮太様の×××がないと死んじゃうんですぅ~♡』


 ……憧れの、女。みしろ。


 天使だった。あだ名じゃなくて、自分にとっての、特別だった。


 そんな女が、亮太に身も心も完璧に奪われていた。

 

 告ってフラれたとき、あのとき彼女は振るための口実に亮太を利用したのだと思っていた。


 亮太の事なんて全く好きじゃないのだと、そう思って、いや、そう思い込んでいた。


 だが……。


 ……こんな、下品な言葉を吐く人じゃない。

 こんなふうに、する人じゃない。


 こんなの……天使じゃない……。


「うそだ……」


 自分が告ろうと思った女達も、亮太の体にしなだれかかって、媚びに媚びた甘い声を上げる。


『りょーちん……まだぁ~……♡』


『ご主人さまぁ~……♡ ほしいですぅ~……♡』


 女を次々と抱いても、まだ余裕の表情を見せる亮太。


 彼と自分の【もの】……いや、格の違いをまざまざと見せつけられる。


「オスとしての格付けは、すみましたか?」


「はっ!」


 振り返るとそこには、亮太の義妹……夕月ゆづきがいた。


 くすくす……と小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「随分と粗末ですね、【それ】」


 そう……。


 彼はあろうことか、亮太と彼の女達の宴をおかずにしていたのだ。


「な……んで……おまえ……」


「段ボールが落ちた音が聞こえたので。もっとも、あのセクモンたちは頭がセックスしかない状態なので、気づいてないようですが」


 汚らしいものを見る目で、夕月ゆづきは戸隠を見下す。



「亮太君のあの量を見たでしょう? あなたなんて比べものにならないんですよ」


「あ……ああ……」


 否定したかった。でもできなかった。

 事実として、悪夢がそこで繰り広げられているから。


 負けた……。男として、亮太に。


 オスとしての、生殖能力の差を、見せつけられた。


 劣っているのだ。自分は。

 亮太より……遙かに……。


「そうです。あなたは雑魚。オスとして劣等種なんです。良いのは顔だけ、女を満足させられない、無能なんです」


「…………」


「さて今回のこと、他人に言いふらしたらどうなるかわかってます?」


 夕月ゆづきが懐からスマホを取り出す。

「あなたの情けないで姿が、ばらまかれることになりますけど?」


「…………あ、あひゃ! あひゃひゃひゃひゃぁあああああああああ!」


 戸隠はズボンを脱いだ……パンツ1枚の状態で、保健準備室から出て行く。


『きゃー!』『へんたいよー!』『おい何をやって

るぅう!』


 学校に残っていた生徒と先生の声が遠くからする。


 完璧に自尊心を破壊された彼は、狂ったように叫びながら去って行く。


『みんなぁ! 聞いてくれよぉ! デカチン男子生徒が学校で女4人を相手に股間無双してましたぁああああああああああ! うびゃびゃぁああああああああああ!』


『何をバカなことを言ってるのだ! おい捕まえろ! 学校の外に出すな!』


 ……黙ってろといったのだが。


「ま、狂言にしか思われてないから、よしとしよう」


 夕月ゆづきは溜息をついて、準備室から保健室へと戻る。


「はいはい、セクモンたち。早く起きて後片付けするよ。この騒ぎに乗じてずらかるよー」



―――――――――――――

【★あとがき】


banじゃないです、ご安心ください


って言おうとしたけど、大丈夫か今日の話、、、


とりあえず昨日のは、ネガティブな話題じゃないです


あれです、あれ。あれが来たんです

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