第18話 くるみ ―――大崎愛奈
私の思惑通りに事は進んでいる。
いや、私のと言うより、誰かが私を操っていると言った方が良いのかな?
いつからだったか覚えていないけれど、私の体は誰かに支配されていた。
体だけじゃない。
私自身そのものをだ。
思考も記憶も何もかも、誰かが支配している。
それが誰なのか、月日が経つにつれて解って来た。
私の体を操っているのは『くるみ』って言う子。
たまたま波長の合った私に身を委ねたと言う。
名前以外は何も知らない。ただ、彼女は、すでにこの世には存在していない。
彼女の記憶が私の脳内を駆け巡った時、その全貌を教えて貰っただけ。
生前の記憶に、憎悪に満ちた出来事があったと言う。それを、脳裏に写し出し、私に教えてくれたのだ。
小学二年の冬、友達に見捨てられて息絶えた。
そして、くるみは教えてくれた。
成増健二の存在を。どうやら、死ぬ間際に遊んでいた子の弟らしい。
お兄さんは、くるみが死んだ後に事故で死んだらしい。
そして、お兄さんの死によって、頭がおかしくなった祖父母と両親が『異浄葉教団』と言う呪われた宗教に入り『禁忌の呪箱』を受け継いだと言うのだ。
その箱には、成増家の家系図や禁忌のお札などが封印されている。
くるみは、それが欲しい、と脳裏に訴え掛けて来た。
何で、その存在を知っているのか、確認した事もあったが、私は何でも知っている、それがくるみのいつも決まった答えだった。
私は、くるみに言われるがまま、操られるがまま、成増健二と偶然を装って出会い、慎重に行動をする事にした。
その結果、今、目の前にはその箱がある。
彼から家に誘われるまで、私からは行きたいとは言わなかった。あくまでも相手から誘われなければ、警戒される可能性だってあるからだ。
好きでもない男と、目的の為に仕方なく会う事になったが、正直言って苦痛だった。
話はつまらないし、なかなか家に誘うともしないで、無駄に時間だけが過ぎた。
しかし、我慢した結果が今だ。
家に入るなり、気持ちが悪いと演技をしたり、薬を買いに行かせている間に箱を見つけ出し、近くで待ってる様に頼んでおいた先輩の車に乗り込む。
そして、その場から離れるだけ。
もし、箱がなくなった事に気付いて、私を疑う様なら、それを理由に別れれば良いだけ。簡単な話だ。
ここまでは怖いくらい順調に事は進んでいた。
しかし、別れを切り出してから、相手は変貌したかの様に人格が変わった。そして、私に向けていた愛情が歪み、ストーカーへとなってしまったのだ。
そして、私も、くるみも想像をしていなかった事件が起きてしまった。
―――私が殺された。
それと同時に、私の中からくるみが消えた。
消えたと言うか、また違う器を探し求めに行ったのだろう。
その後の事など、私は何も知らない。
私は、死んだのだから…
死ぬ間際、くるみへお願いをした。
それは、友達の振りをお互いにしていた『大塚ほたるを殺して欲しい』と…
ほたるの事は、友達だと思っていた。しかし、ほたるは、私のいない場所では悪口を言ったり、ある事ない事変な噂を流していたのだ。
私が男好きの遊び人とか。
ほたるの彼氏と付き合ってしまったのが原因だろうが、これは私なりのほたるへの制裁のつもりだった。
くるみは、新しい器を手に入れた頃に、禁忌の呪箱から一枚のお札を取り出して、大塚ほたるを呪い殺した。
正確に言うと、憎悪に満ちた私の霊体を召喚して。
ここまでが私の記憶。
それから先は、何も知らない、何も解らない。
ただ、一つだけ言えるのは、私を召喚して、私の姿をほたるに見せて、私の手によって殺せたと言う事が全ての答えだろう…
くるみには感謝している。この手で、憎き大塚ほたるを葬り去れたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます