第164話 大魔導期の日常⑤
そうなのである。
ポルッカの立場上、すでに約一年が経過しても『世界連盟(仮称)』から仮称は取れず、正妃候補からも側室候補からも(仮)は取れていない状況は看過できるものではなかった。
ゆえにことあるごとにソルに対して
『
『うぐ……』
などとわっるい笑顔の裏に真剣さを隠したやり取りを続けた結果、とうとうソルも肚を決めて先の交換条件と引き換えに、双方から(仮)を取って正式なものとする宣言を行うことを約束したのだ。
すでにポルッカは『世界会議』の直後、与えられた己の役を全うするための理由、軸足、根拠――自分の根っこを得るためにヘンリエッタ嬢に告白している。
ヒイロから期待されている分不相応なあらゆる役割を果たす精神的な核として「惚れた女の為」、あるいは「フラれた自棄」を求めた結果である。
幸いにしてその告白は成就し、すでに2人は共に暮らしている。
当然身内限定でのささやかな結婚式もとっくに行われている。
だがそれは現在のポルッカの立場からすれば、少々以上にささやか過ぎるものだった。
ある意味においては人類筆頭の立場とも言えるポルッカが正妻を迎える結婚式ともなれば、本来であれば世界連盟に参加するすべての国家から国賓を迎えての盛大なものとなるのが当然のことだろう。
当時誰からも文句の一つも出なかったのは、ポルッカをそういう立場にしている根拠、後ろ盾であるヒイロ――天空城勢がそれを
そのヒイロがポルッカ夫妻の「公的な結婚式典」が必要だと口にすれば、それに否やを唱える者などもはやこの大陸にいるはずもない。
それがいまや「大魔導時代」の恩恵を受けて暮らすことが日常となった市井の人々の多くが望む、世界連盟と正妃、第二妃、第三妃から(仮)が取り払われることと引き換えてくればなおのことである。
世が平和だと多くの者が認識していれば、それをより強固なものにせんと望むのがヒトというものだ。
その象徴としてこの世界に今の平和と拡大をもたらしている者と、現状においても三大強国であるそれぞれを代表する姫たちが正式に「家族」となることを望む者は圧倒的に多い。
誰も皆、今以上の「安心」が欲しいのだ。
小国や辺境であっても分け隔てなく享受できている今の状況をより強固に保障してくれるのであれば、ヒイロがとんでもない美女の10人や20人を侍らせたところで誰も文句などあろうはずもない。
それどころか、妙に聖人君子、あるいはヘタレ然とされているよりも、わかりやすく『英雄色を好む』を実践してもらった方がよほど理解しやすいというものだろう。
いや酒の肴にする者は多かろうが。
誰もが皆、圧倒的な力を持つヒイロを「自分が理解できる存在だ」と思える要素を一つでも多く持ちたいと、本能的に思っているのかもしれない。
そしてそんなことはポルッカだけではなく、もとより人を統べる立場にあった者たちほど理解出来ていて然るべきである。
よって三大強国を代表する三美姫はヒイロの出した交換条件に積極的に乗った。
そこには当然公人としての判断のみならず、私人としての欲も絡んでのことであることは言うまでもない。
「いやあのな? ヒイロの旦那はまあ百歩譲って
この話題に対して、三者三様に嬉しそうにしているお姫様たちに対して、憮然とした表情でポルッカが突っ込む。
未だに謎の方が多いヒイロが実はヘタレというのはありとしても、美しいだけではなく文字通り世界の枢軸に立つ三美姫がこの手の話題で市井の少女の如く頬を染められても困る。
まあ『
各々の立場としても、もしくは単に恋する一女性としても、もうちょっと肉食に攻めるものかと思っていたらこの一年の
市井のお嬢さん方なら「今のこの関係が崩れるのが怖いの(ハート)」も赦されようが、この3人に限っては、そんな事を言っている場合でも立場でもないのだ。
まずありえないとはいえ、万が一この隙に三大強国以外のお嬢さんにヒイロがコロッと参りでもしたら、『世界連盟(仮称)』としては洒落にならない。
序列さえ守ってくれれば側室が何人増えても問題ないが、余計な軋轢を生まない為にもさっさとこの3人とは(仮)を取っ払った正式な関係になってほしいというのが本音のところなのである。
この際ヒイロの個人的な思惑など、正直どうでもいい。
ひどいとも思う反面、「役得じゃねえか文句言うな」というのも男性陣の共通認識と言っていいだろう。
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