四章 匣の中の肖像

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 ジークハルトが王立学院への入学を間近に控えていた三年前の夏。彼は避暑地としても有名なウェーバー領に滞在していた。


 互いの領地を行き来して逗留とうりゅうすることも珍しくないため、勝手知ったるウェーバー子爵領であるが、全寮制の学院に入学する以上はしばらく訪れることも難しい。


 幼馴染に会える頻度も減ってしまうため、ジークハルトは会えない間の補給をするが如く、逗留中はどこで何をするにもニコラにべったりだった、そんな夏の盛りの頃。





 

 それは、湖畔での読書に飽きてしまったニコラが唐突に始めた『睫毛まつげにマッチ何本乗るかチャレンジ』に付き合い、静かに目を閉じていた時のこと。

 今よりもっとずっと小柄だった十三歳のニコラは「あぁ、そういえば」と何気ない調子で呟いた。


「王都の外れに、ウィステリアが外壁に張り付いた廃墟があるでしょう。あそこには、死んでも近付かないで下さいね」



 ───私でも、神様は祓えませんから。






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