第36話 大歓迎

 とうとう到着した。到着してしまった。ファルスノ帝国の首都に。


 大きくて立派な門を超えて中に入ると、あちこちに老若男女を問わず大勢が集まり待ち構えていた。そして全ての人々が、ラインヴァルトの帰還を喜んでいる。


「おかえりなさい、ラインヴァルト様!」

「ご無事で何よりです!」

「わぁ、スゴイ!」

「かっこいい!」


 人々の顔は喜びで満ちていて、嘘偽りはなかった。この街の住民達は、心の底から本気でラインヴァルトの帰りを喜んでいるようだった。


 ラクログダム王国との違いに、私は驚いた。彼は皇子でありながら、住民たちからこんなにも喜ばれる存在なのかと。


「皆、出迎えありがとう!」


 ゆっくり進む馬車の上からラインヴァルトが手を振ると、皆が歓喜の声を上げる。そんな光景を眺めていると、私は改めて凄い人と一緒に旅をしていたんだと思った。




 そのまま大通りを進んで、見上げるほど大きなお城の中に入っていく。


 そこにも数多くの人達が、ラインヴァルトの到着を待ち構えていた。彼らは、このお城で働いている人達だろう。


「おかえりなさいませ、ラインヴァルト様」


 馬車が止まって、降りたラインヴァルトを出迎えたのは貫禄ある老人の男性執事。その彼に続いて、他の執事やメイドたちが近寄ってきて労いの言葉をかけていく。


「長旅、お疲れさまです」

「任務は、無事に成功したようですね」

「帰ってきてくれて、皆も喜んでいますよ」

「さぁ、お父様とお母様がお待ちです。こちらに!」


 ここでも彼は、慕われているようだった。


「ありがとう、すぐに行くよ」


 そう言うと、使用人たちの集団から離れたラインヴァルトが、私に近寄ってきた。そして、手を差し伸べてくる。


 な、なんで私の方に来たの? 今は、彼らとの再会を喜ぶ時間じゃないのかしら。


「さぁ、カトリーヌ。君も馬車から降りて、俺と一緒に来て欲しい」

「えっと……?」


 彼が、真っ直ぐな目で私を見てくる。そして、手を差し伸べたままだ。そのままの体勢で彼を待たせるわけにはいかない。近くに、彼を慕っている人達もいる。目線が気になって、私は慌てて馬車から飛び降りるかのように急いで降りた。


 慌てすぎて降りようとしたので、勢いがつきすぎた。地面の上に倒れそうになる。その直前、ラインヴァルトの腕が私を抱きとめた。


 私は、彼のお陰で地面に倒れずに済んだ。


「おっと、あぶない」

「ご、ごめんなさい」

「大丈夫だよ。俺が急かしてしまったな、ごめんね」


 ラインヴァルトに抱きついてしまったが、すぐに離れる。違うんです。こうなったのは私が原因なのに。謝るのは、私の方なのに。


 こんな失態を見られてしまった。なんて思われただろう。彼の身体に抱きついて、はしたない女だと思われていないだろうか。


 周りの視線が気になって、私は顔を上げることが出来なかった。

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