第33話 戦争の気配 ※レナルド王子視点

「国境付近にファルスノ帝国の兵士が集結しているのは、間違いないようです」

「クソッ! なんて事だ……。奴ら、本気で戦争を仕掛けてくる気なのか……ッ」


 顔を真っ青にして報告してきた部下の顔をチラッ見て、すぐに顔を伏せるレナルド王子。様々な問題に対処するのに忙しすぎて、ここ数日は眠ることも出来なかった。


 反乱軍の出現に、貴族の裏切り、カールハインツ将軍の病死などの不幸な出来事が連発していた。


 ここに来て、ファルスノ帝国も攻めてくるなんて。戦争になる前に、なんとか対処しなければならない。でも、どうやって。


 疲れと睡眠不足で鈍った頭だが、レナルド王子は必死に考える。そんな状態で良いアイデアなんて浮かぶはずもなく。


「新たに任命した将軍は、何をしている? なんと言っているんだ?」

「それが、えっと……。まだ兵士たちを出軍させる準備が出来ていないと」

「は? まだ、出撃していないのか?」

「は、はい。将軍と兵士たちはまだ王都内に居て、出撃準備を整えているようで」

「な、く、そ、そんな馬鹿な……ッ!」


 カールハインツ将軍が病死して、新たに将軍を任命した。部下が選んで連れてきた新たな人材を、レナルド王子は認めた。戦歴も十分だったので、とりあえずはこれで将軍が不在の問題が解消されると、王子は喜んだ。


 新たな将軍に反乱軍の討伐を命令してから、数週間は過ぎていた。既に出撃して、王国軍と反乱軍が戦っている最中だと思っていたレナルド王子。


 それなのに、こんな結果。


 報告しなかったのか、確認不足だったのか。今ではもう、分からない。王国軍は、今も戦いに向かわずに準備している最中、というのが現状だった。


 レナルド王子は、頭が痛くなった。疲れと睡眠不足が、痛みを増幅させる。


「準備を急がせろ! 国の危機なんだぞ!」

「は、はい! 急がせます! 今すぐにッ!?」

「あ、おい。待て!」


 慌てて、逃げるようにして執務室から出ていった部下。レナルド王子が立ち上がり大声で呼び止めようとしたが、行ってしまった。まだまだ報告するべきことが残っているはずなのに。それを報告せずに出ていった。


 裏切った貴族の調査結果は、どうだったのか。どういう状況なのか聞きたかった。


 椅子に腰を下ろして、レナルド王子は頭を抱える。苛つきながら、歯をギシギシと鳴らして吐き捨てた。


「あぁ、クソッ! 本当に無能な部下め。アイツは絶対に処刑だ……ッ!」


 全てが終わった後に、部下を処刑することは確定していた。それから、いつまでも王都で戦いの準備をしていたという将軍も、処刑リストに名前を追加した。


 全てが終わったら、必ず処刑してやる。

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