俺の不運はお前が原因、と言われ続けて~婚約破棄された私には、幸運の女神の加護がありました~

キョウキョウ

第01話 不運のせい

 ガシャン、とグラスが割れる音が会場内に響き渡った。参加者たちの会話や音楽隊の演奏が止まって、会場内がシンと静まり返った。そして、彼らの視線が私達の方へ集中する。


「クソ! 新しい服が、汚れてしまったではないか!?」


 男性が口汚く怒る大声が会場内に響く。彼は、ラクログダム王国のレナルド王子。そして、私の婚約相手でもある。


 今夜のパーティーに参加するため新調した白シャツが、こぼした赤ワインで汚れてしまったことに、怒りを爆発させているのだ。


 彼は、荒々しく汚れた部分をゴシゴシと擦った。当然、シャツに付いた色が落ちることはない。更に、赤色が広がっていくだけ。


 見苦しい姿を、パーティーの参加者たちに見られていた。


 周りにいる人達の何人か、眉をひそめて不快そうな表情で、レナルド王子の反応を見ている。そのことに、彼は気付いていないようだ。


 レナルド王子は汚れを落とすのを諦めて顔を上げる。そして、私の顔をキッと睨みつけてきた。あぁ、いつもの嫌なパターン。


「カトリーヌ! またお前が近くにいるせいで、こんな事になった。これも、お前が撒き散らしている不運のせいだぞ!」

「……申し訳、ございません」


 責められた私は、頭を下げて謝る。なぜ、私のせいなのだろうか。理解不能だわ。どう考えても、自分の不注意でグラスを落としてシャツを汚した。


 つまり、そうなったのは自分が原因のはず。なのに彼は、私が近くに居たせいだと言っている。理不尽な責任転嫁。


 だけど、反発すれば彼がさらに怒り出すのは明らかだった。


 一度、言い返したこともある。自分のせいでしょう、と。しかし、その時は非常に面倒なことになった。実家にも迷惑を掛けてしまった。


 だから今回も、簡単に済ませるために納得しないまま謝っておく。これが、一番に面倒が少なくて穏便に終わらせることができる方法だった。納得がいかないけれど。


 今夜は、各国から訪れた名士たちが集うパーティー。参加者たちが離れた場所から私達の様子を伺う視線を向けてくる。こんなに揉めている場面を見られてしまうと、ラクログダム王国の未来が心配されるだろう。


 いや、もう遅いかもしれない。社交界では、私達の関係が噂されていた。そして、私の不運が原因だということが話題になっている。


 そんな者たちが、ラクログダム王国の次の王と王妃になる。大丈夫なのだろうかと、不安の声が多数あった。王国の先は暗い、と予想されていた。


 私も、彼のような性格の男が王冠を継げるのか。不安だった。


「着替えてくる! お前は、そこで反省していろ!」

「……はい」


 レナルド王子は、横柄な態度を改めようとはしない。やはり、周囲の視線には気が付いていないのだろう。


 そして彼は、私に反省するように言うと怒りを撒き散らして、会場から出ていく。こんな出来事が、よくある日常だった。

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