第7話 ルルーシャ・ルブラン

「ん? 猫耳族リンクスのルブランとはあのルブラン公爵家のことか!」

 ラヴィが青い目を丸くしている。

「ええ……ラヴィさんのご察しの通り、わたくしはルブラン家の娘です」

「驚いたな。名門中の名門ではないか」

「あの、皆さん……できればわたくしがルブランの人間であることは他言無用でお願いいたします」

 ルルが金色のまつ毛を切なげに伏せる。

「なぜ?」

 空気を無視して俺は尋ねる。


「それは……わたくしが世間から忌み嫌われる呪術師シャーマンだからです。呪われたジョブが名門ルブランから排出されるなどあってはならないことです。ですから世間的にわたくしはすでに死んだことになっているのです」


 ルルが力なく微笑む。俺はカッとなって拳を机に叩きつける。

「んだよそれッ! そんなのって! そんなのってあんまりだろ!」

 同じ落ちこぼれとして強いシンパシーを感じている俺には己のことのように許せない話だった。だが、俺はぐっと怒りを飲み込む。前世でそれなりにいろいろと経験したお陰だろう。

 辺境の村出身の俺には分からない貴族には貴族なりの特別な道理があるのかもしれないと思ったのだ。

「声を荒げて悪かった。赤の他人が余計なお世話だよな……」

 ルルがふわりと微笑む。

「いいえ。ジュノンさん。ありがとうございます。わたくしのために怒ってくださって。ラヴィさんのおっしゃるようにあなたは良い人ですね」

「やめてくれルル。背中がむず痒くなってくる」

「まあまあ照れない照れない」

「違うからエド! そういうの俺の柄じゃないんだって!」

「ふふふ。ジュノン。顔が真っ赤だぞ?」

「うるせーラヴィ!」

 一番年下の俺は全員からいじられくすくすと笑われる。まあ、不本意だが、空気が和らいだので良しとしよう。

 ところが、一転してルルは険しい表情を浮かべる。


「皆さんにお尋ねいたします……呪術師シャーマンのわたくしとパーティー組むことに抵抗はありませんか?」


 金色の猫耳が枯れるようにしおれる。


「呪いとは忌み嫌われるものでございます。これまでも自分たちまで呪われそうだと幾度もパーティーを断られてきました……わたくしがパーティーにいることで皆さんが言われなき中傷に晒されることもあるやもしれません……それはとても心苦しいことです……」

 

 深刻な告白に教室が静まり返る。だが、暗い雰囲気にはさせないとばかりに年長者のエルフが朗らかに笑う。


「あははは、ぼくたちマイナージョブのあるあるだね。認知度が低いからどうしても変な誤解を招きやすいよね」

「イメージの悪さならあたしの暗黒戦士ダークウォリアーだって負けないぞ。ライフが削られそうだから戦闘中に近寄るなと言われたことがあるぞ?」

 ラヴィも続けてフォローに回る。ならばと俺も参戦する。

「で? どうなの? 実際に俺たちはルルに呪われるわけ?」

「そんな! パーティーメンバーを呪うなんてことは絶対にありません!」

「なら問題ないじゃん」

 エドとラヴィを見やると二人は笑顔で頷く。

 ルルは「ありがとうございます……」と唇をかみしめる。安堵する彼女の様子にこれまでどれほどしいたげられてきたのか容易に想像がついた。


「じゃあ、この四人でなんとかやってみるか。最初にリーダーを決めとく? 一番年上だしイケメンだしエドでどう?」


 エドは「遠慮しておくよ」とすぐさま拒否する。同時にエドたち三人は示し合せたかのように俺に向かって指をさす。

「は? 俺?」

「うん。パーティーリーダーは君が適任だと思うよ」

「ああ。ジュノンは年下とは思えないくらいしっかりしているしな」

「ええ。今日もジュノンさんのお陰でとても有意義な集まりになりました」

 前世のおひとり様上等の俺からするとリーダーなんてそれこそ柄じゃない。

 だが、新しい世界での新しい人生だ。新しいことに挑戦してみるのも悪くはないのかもしれない。


「あー、分かった……頑張ってみる。じゃあ改めてよろしく頼む」


 こうして世にも奇妙な面子による落ちこぼれパーティーが誕生するのだ。

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