第13話 合同紺羽の戦い <冬の陣>その5

 いつの間にか1時間が過ぎていた。明らかに信長さんのお酒のペースが早い。カルアミルク、カシスウーロン、ファジーネーブルと、まるで女子大生が頼むようなラインナップだっだかと思いきや、急にハイボール、ハイボール、ハイボールと怒涛の三連打。私が次のお酒は何にするかと聞く度に、馬鹿なのか、うつけめが、阿呆めがと罵られ、さすがの私も我慢の限界に近づいていた。せっかく久々にお酒を楽しめると思ってたのにどうしてこんな思いしなきゃいけないの。


「雪女よ。儂はそなたに興味があるぞ」


「はい?」


 え、今度は何?この人は急に何を言い出すの?


「申したままじゃ。儂はお主に興味がある」


「は、はあ。どうもありがとうございます」


 はいはい、どうせまた馬鹿にするんでしょ?それに、わたしまだほとんど喋ってないじゃない。一人で勝手に今川は手強かっただの知らない小心者のおじさんの話で盛り上がってたみたいだけど。


「抱くぞ。よいな?」


「え?」


 ……え?

 本日四度目の静けさが訪れた。この人は本当に何を言っているの。さすがに次郎さんや光安さんもツッコんでいいのかどうか迷っているご様子。そういう私もどんなリアクションをしていいのかさっぱりわからない。


「あ、あのう。信長さんはきっと雪さんのことが、気に入ったってことじゃないでしょうか?」


 おー空気が和んだ。さすが奈々ちゃん、ありがとう。でも待って。気に入った?この人抱くぞって言ってなかった?気に入る意味も全然わかんないんだけど抱くぞの意味はもっとわからない。誰か教えて。


「小娘よ、その通りじゃ。儂は雪女が気に入った。だから抱くぞと言っているまでよ」


「私は小娘じゃなくて奈々です。それに信長さん、その発言はいくらお酒の場とはいえセクハラです」


「せくはら?なんじゃ、この世では子も産んではならぬと申すのか」


「はい?そうじゃなくてこの場でいきなり抱くぞ発言をすることがセクハラだって言っているんです」


「はぁ。何をぬかしておるのだこの小娘は」


「どういう意味ですか?」

「どういう意味ですか?」


 私も口出しちゃった。でも奈々ちゃんを小娘扱い……いい加減にして


「では聞こう。どの場で抱くと言えばいいのじゃ?」


「え、どの場で?って言われても。例えば二人っきりで、その、なんかいい雰囲気になって。抱くって言えるような場面色々あるじゃないですか。ねぇ雪さん?」


「う、うん!そうよ。こんなところでいきなり抱くは絶対に違うと思います」


「なんじゃそれは。では二人のときに抱くぞと言えばではないんじゃな?どんな道理じゃ。わけがわからぬ。くっくっく」


 何がそんなに面白いの?


「あの、信長さん。あなたは大人として恥ずかしくないんですか?私に対してはもういいです。でも、初めて会った奈々ちゃんに向かって小娘呼ばわり。そしていきなり私に抱くぞだなんて」


「恥ずかしい?なぜじゃ。思ったことを口にすることが恥ずかしいのか?気に入ったから気に入ったと申した。抱きたいとおもうたから抱きたいと申したまで。儂は全く恥ずかしくなどないわ」


「だ、だからそれです!なんでそんなに思ったことをストレートに言うんですか?公の場なんだからもう少し空気を読んでください」


「空気を読むとはどういう意味じゃ。お主らのわけのわからない道理に付き合うのは大変だのう。空気を読んで何を得る?共感して何を得る?そうやって周りの目ばかり気にしながら生きておるから生気のない面になるのではないか?」


「え……」


「毎日のように他人の目を気にしながら他人のために生き、目立たぬように、誰も刺激しないように、他人から変な人だと思われぬように生きておる面じゃ。だから最初に問うたであろう。お主はなんじゃとな」


「……いい加減にしてくださいっ!!」


 もう限界だった。店内が静まり返り再び場が凍りつく。本日五度目の雪まつりの開催はついに私が主催者になってしまった。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る