第2章「はきだめ」 8-2 作戦開始
その、二日後。
強制排除、決行の日。
午後になって、すぐである。
ストラが空中浮遊で佇んでいるのは、ギーランデル本部建物の前だ。当然、光学迷彩で見えない。
(当該世界での再起動より太陽系標準時間で684時間34分12秒……自律自由待機潜伏行動時自己防御プログラムによるフランベルツ選帝侯地方伯領地方都市ギュムンデ地下高濃度
ストラが、ギーランデル本部五階の窓を外から開け、忍者もかくやという練達の動きで侵入する。
その部屋は応接室の一つで、豪奢な飾り物が棚や床に並んでいた。
ストラは重力反発効果で常から微妙に「浮いて」歩いているが、潜入行動ではそれを三次元単位で自在に行い、壁での天井でも這って進めるし、そもそも空中を浮遊できる。
応接室のドアを開け、光学迷彩のまま閑散とした本部施設の通路を堂々と進み、先日訪れた部屋へ向かう。
党首グンドラムの執務室だ。
裏を含めた金融仕事がメインのギーランデルは、フィッシャルデアやレーハーと異なり、昼間から仕事をしている。グンドラムこそ午後から出てくるが、書類仕事も多く意外と真面目に「出勤」していた。
当然その日も、本部到着後、部屋に入ったばかりだった。すぐに、秘書の若者がグンドラムの鞄からフルトス書類の束を出し、自らの作業机で整理する。
「……今日は、暑いな。ところで、例のアイツ、次の試合は決まったのか?」
「いいえ、まだのようです」
もちろん「例のアイツ」とは、いま部屋の隅で光学迷彩に身を包み、亡霊のように佇んでいるストラのことだ。
「だろうな……」
鼻で笑い、グンドラムが執務室の椅子にふんぞり返った。
もう、ストラが二人の脳に遠隔で「接続」し、強制コントロール波を流しこむ。
「う……」
「む……」
スックとグンドラムが立ち上がり、無言で執務室の隅に立った。いや、部屋の角にかけてある、古びたレリーフの前に立った。どこにでもあるような、竜のレリーフだ。
「ターリーンはいるか? グンドラムだ」
グンドラムが、そのレリーフに語りかける。
「どうした?」
すぐに返事があった。初老の男の声に聴こえる。
「金庫に入りたい」
「今日は、入金日じゃないぞ?」
「確認事項だ。いいから、開けろ」
「分かった」
魔法的機構が動き、レリーフが機械仕掛けのように壁に引っこむや、壁も大きく動いて左右に開き、エレベーターのような入り口が現れた。
「ちょっと、行ってくる」
「いってらっしゃい。あとは、おまかせを」
「んん」
唸り声で返事をするグンドラムの横に、ストラが滑りこんだ。
とたん、
「侵入者!! 侵入者!!」
けたたましいサイレンの音と同時に、甲高い声が鳴り響いた。
もう、ストラが真下に向けて、両手の合間に発生させた超高熱電磁プラズマ流を鞭のようにしならせて発射している。
ギーランデル本部建物が、内部から大爆発して半壊した。
「……な、なにごとだ……!」
爆風にふっとばされ、瓦礫の下から現れたのは、立派な魔術師の職能ローブに身を包みながらも、人間ではなかった。地上に出るときは人間に変身するが、この地下空間では本来の姿をしている。すなわち、不気味な真っ青に黒い斑点の浮いた有毒両生類めいた肌をし、黄色い目を持ったヒト状生命体だ。
魔族の魔術師、ターリーンである。
かつて人間のふりをしてフランベルツ家に仕え、地方伯領を乗っ取ろうとしたが、魔族であることがバレて逃亡した経緯がある。約70年前のことだ。
それ以来、このギュムンデの地下に魔法空間を構築し、裏から暗黒組織を支配しつつそれぞれの組織に魔法空間を貸与し、魔薬や生体兵器としての魔物の研究を思う存分に行っていた。
濃い緑の髪も乱れ、大きな
その前に、立ちふさがった者がいた。
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