第18話 星を見つけた弟と兄へ舞い降りた"天子様”
すっかり寝坊したルシア………そもそもなかなか寝かしてくれなかったローダに非があるのだがそんなことはどうでもいい。
そんな明け方に星を少しかじったローダが語った金星………ルシファーの話。
ルシファーとは神に反旗を翻し、
何故そんな話題を振ったのか? ルシアがローダに訊ねているのはそこである。
「それは、ルシアの存在と何となく重なったからさ。名前もちょっと似てるだろ?
「あっ……」
ルシアが急に言葉を失い、珈琲を飲むのを止めた。ローダが慌てて手を振って否定する。
これではまるでルシアが
「す、すまん。そんなに深い意味は……。いや、あるかも知れない。扉の力を消すために作られた方のルシアは、正に
急に言葉を切ってローダは立ち上がると、ルシアの隣に座り直す。そして自分の肩に彼女の頭を添えた。
「ルシファーとは反逆の象徴でもあるが、だからこそ独りで力強く
「え、それってどういう……」
ルシアは突然のローダの行動に
「俺にとってお前は、まさに皆に愛されたルシファーそのもの………いや、これは幾ら何でもキザが過ぎるな、ハハハッ……」
「わ、私が………向き、貴女の
自分に発言が余りにも調子が良過ぎたと感じたローダは、思わず空笑いで
けれどもルシアは茶化したりしない。自分の髪を撫でながら発言を笑い飛ばそうとする相手に思わず泣きそうになる。
「そ、そんな事言われても……。わ、私は……も、元々、そんなつもりで………な、なかって…………」
「る、ルシア………お前」
ルシアの声が
この反応に次はローダが
「そ、そんな………
子供のように泣きじゃくるルシアのことを、ローダは心底愛しいと改めて思った。
やはり彼女こそが自分の星、とても
◇
此処はフォルデノ城、王の寝室。最早言うまでもなく、ルイスとフォウだけの寝室である。
此方はまだ夜が明けたばかり……昨晩のルイスは眠れなかった。窓から北の方角を
その方角にはフォルテザの砦がある訳だが、当然見える筈もない。
「まさか弟があれ程の力を。僕は余計な事をしているのかも知れない」
とてもとても小さな声である。少し離れた所で、武具の調整をしていたフォウには、ほとんど聴きとることが出来ない程だ。
「ルイス様、何か……?」
「あ、すまない。………何でもない、何でもないんだ」
気になって声を掛けてきたフォウを
暫くの沈黙…………ルイスの方から重い口を開き始める。
「フォウ、ちょっと良いかな?」
「は、はい。勿論でございます!」
何時になく重い口の主に対して、フォウは努めて明るい声を返す。加えて
「頼みがある、正直かなり重く……馬鹿げた、いや、何ともこれは言い辛いな」
「な、何を遠慮なされておいでですか? このフォウ、貴方様の言いつけであれば、無条件でございます」
やはり声が重く曇っている………何事かと感じるフォウ。とにかく相手の意図が判らないので、普段よりも敬語が強くなってしまうのを止められない。
「僕…いや、本来なら君は僕でなく、マーダの事をこよなく愛していたのだから、この願いは余りにも身勝手なのだよ」
マーダの中身がルイスに入れ替わってから、やたらと僕という人称を使いたがる。
そんな少年みたいな口調が、増々
正直痛い所を突かれたと感じるフォウ。一瞬声を失いかけたが、必死に自分を
「その様な
さらに深々と頭を下げたので床に敷かれた
それを見たルイスは、少しだけ心が
「世継ぎ……僕の子供が欲しいのだ。き、聞いてくれるかい?」
歯切れの悪いその言葉、フォウの顔が一気に染まり、女としての気持ちが態度に
「る、ルイス様。そ、それは……」
「……やっぱり駄目かな?」
「ち、違うのです!」
フォウは自分の赤ら顔を開き直って晒すことにした。面を上げてルイスに向けて懸命に視線を合わせる。
………この方に言い逃れなど、自分は出来る訳がないのだ。
「な、何だい? 一体どうしたと言うんだ?」
先程までの自信なさげな小さな声が一変し、前のめりになってゆくのを止められないルイス。今度は逆にフォウの方が押し黙ってしまった。
またも二人の会話が途切れてしまう。そして次はフォウの方から重い口を開くのである。
「あ、あの、恐れながら隠していた事を申し上げます」
「ふむ?」
フォウが再びルイスに対して恭順の形を取って声を絞り出す。真っ赤な顔を晒しつつ、もうお願いだから感づいて欲しいと心から願う。
一方のルイスは、普段のキレの良さは何処へやら……鈍感の塊だ。こんな処は弟と実に似ているのかも知れない。
「じ、実は……既にいるのです」
「ンンッ!?」
いや、似てると言うよりも完全に弟と同一のリアクションであった。もしこの場にルシアがいたら苦笑を通り越し噴き出していたかも知れない。
「お、お世継ぎは、既に私の中にいるのです。間違いなくルイス様のお世継ぎです、マーダ様ではございません」
フォウは声量こそ小さいものの、ハッキリと言ってのけた。
これには鈍いルイスも流石に言葉を失い、もう何度目か判別出来ない会話の途切れが訪れるのか…………。
けれどもルイスは声を震わせながら、如何にも馬鹿な男らしいことを口走る。大抵の男はこうやって当たり前のことを聞くのだ。
「ほ、本当に僕の?」
たったその一言だけ……そしてゴクリと唾を飲み込むルイスである。
赤ら顔のフォウが無言で小さくコクリッと
「そ、そうなのか、間違いないのか」
またも馬鹿を口走るルイス。目前でうつむいたまま動かないフォウを
そして恐らくこの城に来てから初めての涙を浮かべた。
「よ、喜んで下さるのですか?」
「あ、当たり前じゃないかっ!」
フォウは内心嬉しいのだが、反面こんな待ったなしの戦局時に、もしかしたら、ただの足手まといとなってしまうかも知れない事を恐れてもいた。
ルイスは何故にこうも自分が泣いてまで、喜んでいるのか実の所不思議であった。
彼はただの子供が欲しい訳ではない。
彼が本当に欲しいのは、鍵としての力を与えてくれるルシアと、その
フォウが代わりに妊娠した所で、ルシアの役目を果たしてくれるとは到底思えない。
男というのは、自分の子を無条件で認識出来る様になるまで相当の時間を要する大変愚かな生き物だ。
そういう男の残念な所を差っ引いても、喜んで涙を流している自分にルイスは相当驚いているのだ。
(そ、それは、あれほど毎日毎晩の様に求められたら……ねぇ…)
余談だがフォウは、こんな感想も秘めている。流石にそれを口にするのは止めておくことにする。
部屋の入口の方から、一応ドアをノックした音が聞こえてきた。
「す、すまん………ドアが開いていたんでな」
ノックの主はノーウェンである。少し
「構わないよ、何だい?」
ルイスはいつもの堂々とした彼に戻っていた。フォウの方は、初めて見せた主の
「頼まれていた品、全て整いました」
ノーウェンも直ぐに余裕がある普段の彼に戻り、そう言ってのけた。
「おお、流石だね。君は本当に頼りになる男だよ」
「まあ、破れたとはいえ、これでも元々神の端くれ。この位、
ルイスに心底褒められた事に対して、ノーウェンは顔色一つ変えずに返答する。
けれど誰も気がつかない程に、
「いや、本当にありがとう。フォウの事と言い、これで僕も憂いなき戦いが出来るというものだ」
(憂い? 此奴、今、そう言ったのか?)
(ルイス様? やはり何か様子が変だわ)
ルイスは
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