第10話 ルシア・ロットレン
ルシアがサイガンに創られし存在であり、自分を見定める鍵だったと知らされたローダ。
真の扉使いとしての
…………こんな
「サイガン…………俺という存在を恐れた、それは理解出来る。だが自分が作った娘に命を張った使命を与える………こんな
(…………ま、まさか暴走!?)
ルシアはエドナ村でのマーダとの戦闘を思い出す。
しかしサイガンなら以前、賢者の
「こ、今度という今度ばかりは………その命、絶たせてもらうッ!」
真っ赤に輝いた手刀を振りかざすローダ。サイガンは目を閉じて甘んじてそれを受け入れようとした。
「や、やめてえぇぇぇッ!!」
ルシアがサイガンを抱き締めてローダとの間に割って入る。当のサイガンは、ある意味揺るがない。石像のように椅子から身動き一つしようとしない。
「どけ、ルシア。大体お前も俺を
怒りに満ちた
「いいえ、どかない。決して……」
「ルシア、お前は全てを知っていて口裏を合わせていた。そこにいたら俺はお前の命すら
ローダの声にはこれまでに感じた事がない
「そうよ、全てその通りよ。言わば私は扉の鍵。例え他の9人が貴方を認めたとしても、私が認めなければ、私が貴方を刺し違えてでも消したでしょう」
ルシアもとても鋭い視線でローダの視線を完全に受け止める。彼女は
「これまでのお前との恋愛は全て
「待ってッ! 違うのッ! 判って欲しいのッ!」
ルシアは力強くそう言うと、今度はローダを自分の方に引き寄せて、お腹の上に手を置かせた。
「な、何の真似だ?」
「確かに私は本物の人間じゃない。でも本物の女の子だよ。ローダ・ファルムーン………貴方を愛する世界中で最高の女。その
「………ちょ、ちょっと待て。お前は人造人間で………」
「そうッ! 完璧な人造人間ッ! 命こそ
ルシアは人造人間であり、10人の内の一人として近寄ってきた存在である。
もし試す相手が出来損ないであったのなら、
もう既にローダの脳が処理能力を超えつつある情報が
そこへとんでもないのが割り込んで来た。…………俺とルシアの子供!?
「ちょっと待てッ、このタイミングでその告白は、ズルいにも程があるッ! それも
「そんな訳あるかッ、この判らず屋ッ! 私の貴方を愛する気持ちは真実ッ! それすら判らないなら扉を開く資格なんてないッ!」
「そ、そんな事を言われたら殺れる訳がないじゃないかッ!」
ローダとルシア、二人の
恐らく部屋の入り口で
ローダが床を殴りつける、本来なら目前にいる者達へぶつけたかった感情だ。
一方嗚咽を漏らしつつ号泣し始めるルシア、我ながら
二人のやり取りの前でサイガンは終始無言。目を閉じて自分には何が振りかかろうとも受け入れる姿勢を崩さない。
「フォルテザの砦で一緒に踊った時、私、心底嬉しかったッ! 貴方に好きって言われてこれが幸せなんだって思えたのッ!」
「…………」
ルシアがさらに必死の訴えを
「貴方に抱かれて空を飛んだ時、これから戦うっていうのに、貴方がとても頼もしくて、私嬉しかったッ!」
「…………」
「リイナと一緒に見た焚火と星空、とてもとても素敵だった。ずっと一緒に笑っていたいと思った……」
涙を拭うのを止めてただひたすらにローダの情へ投げ掛けるルシア。服が涙で透ける程に濡れてしまうがお構いなしだ。
ローダの
代わりにまるで意識を持たない完全に命すら失った様な
「……あ、貴方と初めて結ばれた夜。不器用な貴方、とても可愛くて愛しいと思った。ずっとこうしていたいと感じた」
構わず訴え続けるルシア。石の様になってしまった彼氏に命を吹き込もうというのか。
「トレノを殺す事に
相変わらず動かない彼の頭を胸に抱き寄せて、次はその
「そして今、此処にその
ルシアに抱かれ、揺さぶられるローダの顔に、色が戻り始める。さらにルシアの涙声のトーンが上がる。
「本当に救われたのは私なの……お願い、判ってッ! ……貴方が
想いの
そんなボロボロの二人の肩に、重い腰を上げたサイガンが優しく手を置いた。
「二人共、こんな数奇な運命に巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っている。ローダの怒りは当然だ。こんな老いぼれの命、欲しければいつでもくれてやる。だが一つだけ言わせて欲しい……」
「サイガン…………?」
「お、とう……さん?」
実にサイガンらしくない
「カノンで最後に見せた緑色の輝き………。恐らくあれはルシア………」
「………?」
「お前の内で営みを始めている
「あ、あれが真の輝き…………」
サイガンが言っているのは無論、カノンにおける戦いでローダがトレノの命を散らすことを
「しかしだ………。もう正直この爺は、扉の力なぞ最早どうでも良くなった」
「「ハ、ハァッ!?」」
「ワシはもう早く可愛い孫を抱きたいだけのただの爺に成り下がりたいのだ………。良く考えてみろ、ワシ自身には
此処でまさかの発言が飛び出す。人工知性の開発に人生を捧げ、そこから生まれた扉の力を拝むべく、350年も待った男が不意に爺を名乗り、一人称をワシと言い出したのだ。
ルシアが女としての計算高さを存分に発揮したかと思えば、次は老人が老いを逆手に大いに奮ってきたのである。
「はぁ…………判った、もう判りました。完全に俺の負けだ、とにかく今はサッサと表に出て皆の加勢をする」
大きな大きな溜息をついたローダ。
この偽物の義父と世界一を自称する女を相手取っても無駄だと
「
通路で待機していたジェリドだが、二人の強い意志に満ちた目を見て、
「ジェリド、リイナよ。お前達も頼む。それから隠れている拳銃使いもな」
「アチャー、やっぱバレてたか………どうしてもこっちの話が気になっちまった。許してくれ。こっからは派手に暴れてやっからよ」
サイガンの言葉にまるで銃を突き付けられた者の様に両手を挙げてレイが物陰から姿を現した。とてもバツの悪そうな顔をしている。
彼女とてかつては意中の男性と恋に落ちたのだ。その位の気遣いは回せるようだ。
「よし、お前達の力でルイス達を蹴散らしてこい。もっとも、恐らく最後の戦いは此処ではない」
「へっ? そうなのか?」
サイガンの言葉の真意を
リイナも首を
「あ、サイガン……言っとくがな、俺はまだアンタを許したつもりはないからな」
「嗚呼………それで良いよ」
振り返り相手を指差しつつ、一つ釘を刺すローダ。
(なんと………孫だけでなく息子の遅い反抗期まで。いや、それは違うな。欲張り過ぎだ)
サイガンがこの緊急時に訳の判らない受け取りを勝手にしている。心の中の奇妙なむず痒さすら心地良い。
「さあ二人共………今こそ力を解放するのだ」
サイガンに
「「………アイリスッ!!」」
二人の声が通路を反響する。そして互いが緑色の優しい光を放つと、それは天井をすり抜けて砦の外、フォルテザの街まで届いた。
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