第10話 二丁拳銃
(………んっ!?)
ローダの耳が何かを感じた。彼はサイガンから受け継いだ風の精霊術『風の便り』を使っている。常人の数倍の聴力を獲得しているのだ。
「何か来るぞ、一人、物凄い速さで走ってくる。兵士達の影に隠れながらこちらに迫っている」
(そしてこの地面の下の気配はなんだ?)
もう一つの音が気になったローダであったが、一旦先に届くであろう音に対処する事にした。
「そこの出来る
「な、なんだい、あたしの事か?」
プリドールは、戦場で御婦人と若い青年に言われて、正直少し高揚した。
「そうだ、11時の方向にそのジャベリンの
ローダの依頼とほぼ同時にプリドールは、ニヤッと笑いながら、言われた向きへと右手を振る。
ラオの兵士達は、まるで姐御の動きを先読みしているが如くのタイミングで、一斉にジャベリンを投げた。
けれどその先には誰もいない。少し左に外れた所に、背中を見せて逃げ出している身体の大きいフォルデノ兵がいるだけだ。
……が、次の瞬間、爆ぜる音が鳴り響き、フォルデノ兵の身体が、不自然に右に傾く。結果、行くあてがない筈のジャベリンは、兵士の身体を串刺しにした。
「惜しい、残念賞」
ジャベリンが突き刺さった兵士のさらに少し右から銀髪の女が、見た事のない武器を両手に握ってこちらへ向けた。
この女、フォルデノ兵を盾代わりに身を潜めていた訳だ。それを察知したローダは、ジャベリンを投げさせた。
兵士と共に殺れると算段していたのだが、女は盾を惜しみなく捨てた訳だ。
再び耳が痛くなる程の炸裂音が鳴り響く。プリドールに向かって何かが飛んできた。
「貰ったあぁ!」
銀髪の女は得物を捉えたと確信し、勝どきの声を上げる。しかし彼女が放ったモノは、横から飛び込んで来た
「「なっ!?」」
銀髪の女とプリドールは、その刹那の出来事に驚きの声を上げる。銀髪の女は、再び既に命のないフォルデノ兵の影に隠れた。
(な、なんだあの野郎!? 俺がここまで兵士達に紛れながら来た後、こいつの脇から撃つのを読んで、槍を投げさせ、その上をいった攻撃を防ぐだと!?)
滅多な事では驚かない銀髪の女は、その目をひんむいて、狡猾な青年を睨みつけた。
「ア、アンタやる…」
「次が来るぞッ!」
プリドールは、何かを言いかけたが、ローダの声が制す。慌ててプリドール自身も盾を構える。他の兵も同様に動く。
銀髪は思い切り、右横に飛びながらまた両手の武器の引き金を引き続けた。
ラオの兵士が構えた盾のさらに脇から銃弾が飛び込み、鉄仮面の薄い所を撃ち抜かれて一人が即死した。そして銀髪は、違う兵士の影に隠れた。
(今だっ! 装填のタイミングだ!)
ローダは剣を突き出しながら、銀髪と兵士の方へ飛び込んだ。
(なっ!? この男、弾切れのタイミングを狙うだと!? この銃を知っている!?)
銀髪は弾の装填を諦め、フォルデノ兵の腹に蹴りを叩き込んだ。フォルデノ兵はローダの方へ突き飛ばされた。
剣を地面に突き刺しローダは、なんとかフォルデノ兵を斬らずに済んだ。
フォルデノ兵は尻餅をついて、慌てて立ち上がろうとした所、後ろから装填の済んだ連射で撃たれて即死した。
フォルデノ兵が倒れると銀髪の女の笑った顔がローダの視線に入ってきた。
「貴様! 次から次へと、味方の命をなんだと思っている!」
レイの味方を人して扱っていない振舞いに、ローダは怒りで眉を吊り上げる。
「アッ? 見ての通り、俺の弾避けだが? そんな事よりお前、なかなかやるじゃねえか。そうか! お前だなっ! うちの
銀髪の女は品定めでもしている様に、ローダの顔をジロジロと見る。
「俺はヴァロウズのレイって言うんだ。ま、覚えなくても
そう言いながらレイは、ローダの足元に数発の弾丸をぶち込んだ。わざと外した。挨拶代わりだと言っているかの様であった。
「てめえ、その武器は銃なのか!? そんな銃を見るのは初め…」
追いついたガロウが何かを言いかけたが、今度はそのガロウの足元に銃弾を叩き込む。
「なんだお前? ジャパンのサムライか?
レイはガロウの刀を見るなり、面白くないといった
(こいつ、”タネガシマ”を知っているのか!?)
ガロウは火縄銃ではなく”タネガシマ”という名前が出てくることに驚いた。ガロウの国で作られた火縄銃の事を”タネガシマ”というのだ。
「こちらの兄さんは、この銃の事を良く判っているみたいだな? お前何者なんだ?」
レイはそう言って、再びを銃口をローダの方へ向けた。そう……この場にいる面子で
「そうだな、そして非道なお前が持って良い物ではないな。”ガバメント”の名前に失礼だ」
「へぇ、知った風な事を言うじゃあぁないか…」
ローダとレイは互いを見ながら、並行に歩き出した。互いの攻撃タイミングを見計らっているといった感じだ。
そこへジャベリンが数本、レイに向かって飛んできた。プリドールの指示によるラオ兵の援護であった。レイは体勢を少しだけ崩した。
(
借りた盾を突き出して飛びかかるローダ。盾は完全に彼の上半身を覆っている。これなら銃での致命傷は防げる。
「チィーッ!」
レイは、舌打ちしつつ、あえてローダの盾に数発の銃声を叩きこんでから、後ろに飛んだ。ローダの耳に金属と銃弾が当たった音がこだまする。
加えてローダが着地するであろう場所に銃口を向けた。
(……上手いな、だがっ!)
ローダは盾の裏でニヤッと笑った。予定通りだと言わんばかりに。
「うおりゃぁああ!!」
なんとレイの背後にいつの間にか、ルシアが宙に浮いて立っていた。ルシアは両拳を握り締め、振り上げると自分の方に飛んできたレイの後頭部に叩き込んだ。
「グハッ!!」
(な、なんだとぉおお!?)
地面に叩きつけられたレイ。全く意識の外からの頭への攻撃に、意識の糸が切れそうになるのを、歯を思い切り噛みしめてなんとか堪える。
「終わりだ」
ローダが地面に顔を埋めてしまったレイに容赦のない剣の一撃を入れようとした。その時、異変が起こった。
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