罪人の星
「またか、今月だけでもう何人目だ?」
男は頭を抱えて部下に尋ねる。
「ええ、私達も対策を練ってはいるのですが、それでも犯罪は増加する一方でして…」
「いい加減にしてくれたまえ。罪人を管理するのに年間でいくらコストがかかっていると思っているんだ。もう上からも何度も咎められている」
男は溜め息をついた。
増え続ける罪人を管理するのにも、食費や衣服、医療費など多額の経費がかかる。それに、これ以上犯罪者を収監する場所はもうほとんどなかった。
「いっそのこと殺人でもしてくれたら、極刑という手段を取ることもできるのだが」
「それが、詐欺や窃盗、強盗などといった事件は多発しているのですが、どういう訳か殺人は起きないのです」
それもそうだ。と男は思う。
自分がこの役職についてからこれまで、殺人事件などというものは聞いたことがない。
罪を犯すような者とはいえど、人を殺すという一線を越えた行為には躊躇があるのだろうか。
「ううむ。しかし、これはどうしたものか」
──それから少し経った日のこと。
「では、これより【緊急措置マニュアル】を実行する。関係者以外は近付かないように!」
男は拡声器を使い、群衆に向けて繰り返す。
緊急措置マニュアル。それは五年ほど前から密かに計画されていた、人口爆発の際の対策マニュアルだ。
銀河系内のはるか遠くに発見された、人間が生活できる環境に限りなく近いとされる惑星に、一部の人間を送り込む。そのマニュアルを一部変更し、増加する犯罪の措置として適用したのだ。
(本当に、あんな命令に従ってよかったのか。)
男は考える。
(いくら罪人とはいえ、これは本来行われるべきではなかった非人道的な措置だ。人間をモルモットのような実験体にするなどと…)
男の杞憂も虚しく、罪人を乗せたロケットは打ち上がった。
──そして、罪人は惑星に到着した。
「お、着いたぞ。酸素量は十分らしいが、奴らに異変はないか?」
人々は、街の中央に取り付けられた大きなテレビで、惑星の様子を確認する。
これはどうやら、罪人に埋め込まれたカメラの内容を映しているものらしい。
これから我々が住むことが出来るかもしれない土地に、彼らの期待は高まる。
「お、おい!人が、人がいるぞ!宇宙人だ!」
惑星に着地したロケットの先には、人の様なものが居た。
「なんと、この惑星には既に生命が誕生していたのか」
そこで群衆の一人が気付く。
「なんかあの宇宙人、俺達に似ていないか?」
言われてみれば、画面に映る宇宙人の姿は、手足は二本、目は二つ、指は五本あり、顔つきは人間の男のように見えた。
ただ一つ、人間と違う所といえば、手に何やら細長く黒い塊を持っていることだ。
すると、その男は酷く怯えた様な顔で叫んだ。
「帰ってきたのか、この犯罪者共が!」
男は手に持った黒い塊で、罪人達を撃ち殺してしまった。
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