幼女を誘拐して、異世界旅行します!

悲嘆屋ろびん

第一部

プロローグ

第一話 僕は銀髪幼女と出会う

 気が付くと、真っ白な世界に僕はいた。西も東も分からないので、歩き回るのにも二の足を踏んでしまう。

 僕が逡巡していると、突然声が聞こえた。

「-」

 僕の名前だった。大仰な名字に対して、平々凡々な名前。しかもあの最後の記憶から察すれば、名は体を表していない可能性すらある名前である。

 それと同時に、突然視界が明瞭になる。前方には不定形な白い塊があった。足元には空自体としか言いようのないものがあった。そう、僕は空の上に立ち、先ほどまで視界を覆っていたのは雲だったのだ。


「-!」

 改めて、僕の名が呼ばれる。先ほどよりも強い口調である。

 僕は声の主を探した。すぐに見つかった。僕から十数メートルくらい先にある空の上の白い玉座に幼女が座っていた。年頃は小学校高学年程度、座っていてもわかる腰まで届く程の長いストレートの銀髪で、肌はとても色白だった。服装は丁度膝が見えるくらいの白のワンピースで、両肩が出ている薄地のものだ。ほかに人間らしきものも見えないので、おそらく彼女が声の主で間違いないだろう。それにしても、可愛い女の子である。今いる場所を考慮すると天使としか思えない。僕は彼女に見とれてしまった。

 幼女が僕の名を呼ぶ。これで三度目だ。

「-!」

 流石に返答した。

「少し待ってほしい。僕はロリコンとして、君の美を性的に愛でているんだよ。」

開口一番かいこういちばんでこちらの心証を害するなんてあなたも中々な逸材ですね。」

 返答する幼女に僕は答える。

「褒めてくれてありがとう。お礼に君のわきの下を見せてほしい。あるいはパンツでも構わないよ。」

 幼女は二の句が継げなくなったのか、その後数分間何も言ってこなかった。


「それで用件はなんだい? 僕としても状況を説明してほしいのだけど、要望には応えてもらえるのかい?」

 僕は何食わぬ顔で尋ねてみるが、もちろん後の祭りである。彼女のきれいな瞳の色は、僕への侮蔑の色だった。

「あなたに付き合っていても、らちが明きません。ここからはこちらのペースで話を進めさせていただきます。まず結論から申し上げます。あなたには異世界で人間を救済してもらいます。」

「ほとんど開口一番でこちらの度肝を抜くなんて君も中々な逸材だね。」

「君ではありません。アリスです。」

 アリス? 不思議の国に迷い込んだのはむしろ僕なのではないかと思ったが、胸にしまっておいた。というか僕のことは、あなたと呼ぶらしい。アリスが間髪を入れずに続ける。

「ここは天界と呼ばれる場所です。あなたが元いた世界やこれから行く世界を創造した神々の住まう世界です。」

「でも、ロリ……ではなくて、アリス一人しか姿が見えないけれど?」

 というか、女神様だったのか。天使かと思っていたが、当たらずといえども遠からずだったようだ。

「私はこの天界で、あなたたちの世界から転生した人間を、向こうの世界に送る役割を担っています。」

 発言が無視された。まあ、こちらのペースで話を進めるとは言っていたから驚かない。いや、まて、今驚くようなことを言わなかったか!?

「ここが天界なる場所だということは信じよう。意識がしっかりしているうえに、夢のような非現実感もないからね。」

 僕はそう前置きして、叫喚きょうかんした。

「転生したということは、僕は一度鬼籍に入ったということかい!?」

 確かにここに来る前の最後の記憶は、トラックにひかれた後に乗った救急車の中だった。しかし、救急救命士の人はぎりぎり間に合いそうなことを言っていた。

 そう、ここに来る前の僕は交通事故に巻き込まれたのだ。一体全体なぜ無辜むこの民の僕が犠牲にならなければならなかったのだろう。平々凡々を絵に描いたような普通の二十八歳独身男性だというのに。まあ、人よりボケたり、ツッコんだり、理屈っぽかったりする嫌いはあったけれども。ちなみに、黒髪、日本人、中肉中背である。髪は少しくせっ毛気味で、わりと運動音痴で、魔法使い見習いでもあった。卒業まであと二年である。

「思い悩んでいると思っていたら、後半からぶつぶつ自己紹介を始めましたね。大丈夫です。あなたの情報はある程度、天界から入手できますから。まあ、詳細な情報は開示されないですが。ところで、魔法使い見習いとはどういうことですか? あなたの世界に魔法技術はない筈ですが。」

 正直、そこについては真面目に質問されたくなった。僕は息子、すなわち自分の股間の事を考えて、答えに窮してしまった。不出来な息子について積極的に語りたい親はいまい。

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