第4話 いざ王都へ
「着いたわ!ここがミシオンの部屋よ」
彼女の手には、子供が人形を引き摺るように1人の男の手首が握られていた。
「ひ…姫……。少し…休ま…せて」
「もう、軟弱ね。ミシオーン!居るー?」
ドンドンドンと扉を叩く。扉の奥から「ハイハーイ」と聞こえた気がするが姫はまだ扉を叩き続ける。
「ハイハイ!居ます居ます!」
ガチャリと開いた扉の先に可愛らしい少女が立っていた。
「どうしたんですか?姫様」
「あのね!王都までゲートを開いて欲しいの!」
「またですか?バレたら怒られちゃいますよぉ」
「大丈夫!今までバレたことないじゃない、それに今回は、この人が行きたいって言ってるの!」
姫が僕の腕を掴んだまま、頭の上まで手をあげる。まるで糸の切れた人形のようにダラリとした僕を見てミシオンは一瞬ギョッとした顔をした。僕は精一杯の力を振り絞り「こんにちは」と手を振る。
「姫様、くれぐれも目立つ行動はしないで下さいね。いくら人間に化けているからといっても身体能力は人間以上なんですからね。」
「わーかーってるって!いつも通り気を付けるわよ」
(僕を引き摺り回しといてよく言うよ)
ミシオンは扉を閉め、部屋の奥へ移動し呪文を唱え始める。すると奥の壁に魔法陣が現れた。
「いつも通り、王都の近くの所にゲートを作りました。それとこれ『ツイの実』。無くさないように」
「ありがとミシオン!それじゃあ行って――」
「お待ちください!姫様!」
ミシオンは慌てて姫を制止した。
「その…沖田さん?でしたっけ、その格好のまま連れて行くつもりですか?」
「あーしまったわ。と言ってもワタシ、自分の服しか持ってないのよね」
そりゃ違う世界の服装だから怪しまれるよな、でも逆に日本だったら…。コスプレ認定されるだけ。異常かもしれんな、あの世界も。こんな事を考えているとミシオンが手に布を持って目の前に立っていた。
「沖田さん、これをお貸しします。兄のもので恐縮ですが、無いよりはマシかと…」
魔法使いが着ているようなローブを貸してもらったのだが、どうやらお兄さんもミシオンと同じくらいの背丈らしい。羽織ってみるが股下辺りまでしかない。
「まぁコレならなんとかなるでしょ!早く行くわよ!」
「あ、えっと…ミシオンちゃん、ありがとね」
そう言って頭をポンポンとする。元の世界では少女にこんな事をしたら通報ものだが、せっかくの異世界だ。ちょっとやってみたかったのだ。ミシオンは少し苦笑しながら「いってらっしゃい」と手を振った。姫がゲートへ入っていくので僕も後をついて行った。
――王都フィアタント、から少し離れた森の中――
ゲートから出るとそこは森の中だった。
「さぁ王都まで歩くわよ!」
歩くとすぐに森は開け、街道が見えた。街道の先にはとても大きな、まさしく王都が見える。本当にゲームで見たような感じで驚いた。
「そういえばアナタ、さっきミシオンを子供扱いしてたけど、彼女80歳くらいよ確か。」
「えぇ!だって見た目が――」
「ミシオンは精霊種なの。彼女は好きであの姿になってるだけで、ワタシより全然年上なんだから」
やってしまった。恥ずかしすぎて顔から火が出そうである。そんな僕を見て姫はニヤニヤとしている。
それにしてもここは魔王城の景色と違い、青空に心地よい風、鳥のさえずりも聞こえてくる。街道を歩いているだけなのに心が洗われるようだ。
「姫様、そういえば先程貰っていた木の実は何ですか?」
「コレはね『ツイの実』っていって、一本の枝に2つこの実がなる木があるのね。この実の特徴はそのペアの実の片方が割れると、もう片方も割れるの。今回はワタシとミシオンが1個ずつ持ってるわ。帰りにまたさっきのゲートの場所に行って実を割る。これでミシオンにゲートを開いてもらう合図になるの。さっきのゲートは、もう閉じてるからね」
「へぇ〜。僕はてっきり魔法か何かで連絡を取り合うのかと思ってましたよ」
「あー、念話できる種族もいるけどね。ワタシは使い魔飛ばして伝える事は出来るけど、ここからだと時間かかるのよね」
他にも他愛のない事を喋りながら歩いていると、彼女が前を指差して言った。
「ほら、見えてきたわ。あそこが王都よ」
――王都、城下町――
僕達は城下町へと入り、掃除道具を売ってる店を探す…と、思っていたのだが。
「ちょっと創士!見て見て!美味しそうなフルーツがたくさん!あっちには王都キャンディーですって!わぁ、キレイな髪飾り!」
出ている露天毎に足を止める姫。僕は、やっぱり姫が来たかっただけなんじゃないかと訝しむ。
「姫、掃除道具を見たいのですが」
「雑貨屋とかにあるのかしら?」
(知らんのかい!)
その後も色々な露天に心奪われながら城下町を散策する。
「あ、雑貨屋あるわよ、入りましょ!」
ようやく目的地に着いた。店内を見回すが、やはり箒くらいしか掃除に使えそうなのは置いてなかった。
(まぁそうだよな。元の世界の中世くらいの時代と考えれば箒とせいぜい濡れた布で拭いたりするぐらいだろうな)
専用の道具が数多存在する現代においては、盲目的にそれを使えば良し!だったのだが、こうなると時間をかけて手拭きでいくしかないとさえ思えてきた。
「創士、何かあった?」
「箒くらいしかありませんでした。箒も正直…思っていたより簡素で…」
「そっか…。じゃあ作っちゃいましょ!」
「えぇ!?」
「ウチにはね、どんなものでも作れちゃう凄腕の鍛治職人がいるんだから!」
「でも鍛治職人って武器とか作るひとじゃ…」
「ガンバスはスゴイんだから!家具とかも作っちゃうのよ!」
再び姫は僕の腕を引っ張って走り出した。今回は僕も走れる速度で。森の中へ着くと姫はツイの実を握りつぶした。30秒ほどしてゲートが開く。ゲートに入りミシオンが「おかえり」と言い終わる前に僕は謝罪の土下座をした。
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