第7話 伊野ユウカは止まらない
「……ルウカ、元気を出して。あんパン、ここに置いておくよ」
学校での昼休みの時間。
食欲もなくただ窓の外をぼうっと眺めていたルウカの机に、純レが和菓子屋で仕入れたあんぱんが置かれる。普段なら迷わず手を出して頬張っていたのだが、今は目を向ける気にすらなれない。こういう時に『大丈夫?』とか『何があったの?』と疑問系で質問してこないあたり、やはり純レは気遣いがよくできる人間なのだと思う。今の私がどう質問されようが_____その答えは、『大丈夫じゃない』『答えたくない』『話しかけないで』のどれかになるだろうから。
朝から昼になり、学校が放課後の喧騒に包まれても尚、ルウカの心は晴れない。いや、晴れるか晴れないかの問題ではないのだ。『誰の心も雨のち晴れる』というが、この気持ちは雲によって曇ったなどというレベルではない。天気で表現するならば……『氷河期が訪れた』が一番正しい。
そんな調子なので、部活も休むことにした。実は後ろを晴子と凛太が心配して尾行してきていたのだが、ルウカはそれに全く気付くことはなかった。
都内に借りたアパートに帰宅し、着替えることもなくベッドに転がり込む。昼に何も食べていないせいで流石に空腹が辛くなってきたので、冷蔵庫に入っていた食べ物を適当に口にした。カットすることもなくトマトを齧り、トーストすることもなく食パンを齧った。制服でずっと寝転がっていることが次第に辛くなってきたので、まだ早いがパジャマに着替え、寝ることもなくベッドに転がり込んだ。
こういう時はスマホを見ながら、インターネットの世界から無限に供給されるコンテンツを垂れ流すのが常である。だが今日だけは、どうしてもその気になれない。きっと途中で少しでもファイアマンの話題を見てしまったら_____きっとイラついてスマホを投げ出してしまう。
「はぁ……」
部屋にこれでもかと飾られたグッズたちが、今だけは恨めしい。
_____あ、勘違いしないで欲しいのは、ファイアマンのことが嫌いになったわけではないということ。今でもファイアマンのことは大好きだし、これまで追いかけ続けていた炎の明かりを見失うことはない。
腹立たしいと感じるのは、自分の勘違い。そして無力。
(どうして私は……覚悟もないまま、『ファイアマンの仲間』になろうとしたのだろう)
思い出されるのは、破壊された渋谷、血と暴力に滲んだ命のやりとり。頑丈な建物がおもちゃかのように破壊され、本物の人間が血を吐き出し、そしてその肉体が焼かれていく光景。
モニター越しにしか見たことのなかった、本物の『戦い』。そして、ヒーローとヴィランが凄惨極まる戦場で戦う、正義も悪もない暴力のやりとり。
それを見た途端_____ルウカの中に、嫌悪感、あるいは忌避感とも呼べる感情が芽生えた。あまつさえその感情を_____自分を守るために戦ったファイアマンに対して向けてしまったのだ。
(……最悪。なんて最低な人間。私がいなければ……きっとアイツを、リアライザーを倒せていたかもしれないのに。私があの時、渋谷に行かなければ……)
後悔、悔恨、自己嫌悪……処理することのできない感情がないまぜになって、うなじのあたりに痛みが滲む。
(もうこのまま……全部やめちゃおうかな……)
ファイアマンを追っかけようなどと、そんな思い上がりをするのが良くなかったのだ。何が『仲間になる』だ。命のやりとりをする覚悟があったとでも言うのか?
どこまで行っても、オタクはオタク。追いかける側と追いかけられる側の一線は、些細な出来事の一つや二つで超えられるものではない。心の在り方一つを変えるためには、何十、何百もの行動が重ならなければならない。
ファイアマンの過去は知らないが、あのようになるまでには途方もない積み重ねがあったことだろう。推理如きで『あちら側』になれると思ったが愚かだった。
部屋に置かれたカメラも、あちこちに貼られたポスターも、今となっては何もかも恨めしい。
全部捨てて、ファイアマンオタクではない日々を始めよう。部を弁えた、賢い人間として明日を生きよう。
「__________ってなるわけないだろ!バカぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ベッドから勢いよく飛び跳ね、フグルルル、と肉食動物の如く息を吐き出す。
「私が!ファイアマンオタクを!やめて!たまるかぁぁぁぁぁ!!!」
自分に言い聞かせるよう、近所迷惑も何も考えずに大声で叫ぶ。
ファイアマンが好きじゃない自分。オタクじゃない自分。追っかけをしない自分。
_____そんな伊野ルウカなど、あり得ない。もしそうなったら、伊野ルウカは死んだも同然だ。
覚悟ができていない?最低な人間?知ったことか。
どこまでの、心の声の赴くままに行動する。そうしてここまで生きてきた。今それをやめてしまったら、生きる気力すら無くしてしまう!
「ああああ!こうなったら_____とことんやってやるわよ!」
ファイアマンオタク、伊野ルウカ。
その胸に灯った灯火は、自己嫌悪程度でかき消せるものではなかった!
__________
スチャっと眼鏡をかけ、ガタンと椅子に座る。机の上には、なけなしのバイト代で購入したノートパソコンと、高々と積み上げられたノート。
「よし」
パソコンを開き、中学生の時から鍛えたタイピング能力を駆使して、ネットの世界を高速で旅していく。
まず調べるのは、渋谷での
三人のヴィランの素性については、ファイアマン到着前に暴れた時の様子が動画として残っている程度であり、ほとんどのことは分からない。その後、二人の焼死体は見つかったものの、もう一人については死体も見つかっておらず、行方不明となっている。ルウカはそれが、ファイアマンの白い炎によって焼き消されたヘドロ型のヴィランであることを知っている。
また、リアライザーに関するニュースは一切見られなかった。人々の間に姿を出さず、ファイアマンの前にのみ姿を表し、そしてヴィランたちをけしかけた。こう考えると、かなりのやり手だろうと察せられた。
まずは渋谷での事件について調べて整理することで、頭の中を『情報収集モード』に切り替えて整理する。ここに加えて他のことも調べることで_____求めている、『リアライザーの正体』という情報を探り当てる準備をするのだ。
「……ふぅ」
スーパーでまとめ買いした2ℓのミネラルウォーターをそのまま持ち上げ、喉に水を流し込む。水分補給を整えた後、再び情報の海へ。
「リアライザーか……『リアライザー』『Realizer』『REALIZER』……どれもそれっぽいアカウント名はなし。ネット上での活動名じゃない、か」
代表的なSNSだけでなく、マイナーな書き込みサイト、ネット掲示板でも『リアライザー』と名乗るような人物がいないかを隈なく調べて回る。特にヒットする情報はないので、次に東京で起きたヴィラン事件のリストを調べる。
警察庁が公式に発表しているヴィラン事件を時系列順に並べた上で、横のウィンドウにはヴィラン事件専門のまとめサイトをいくつか表示し、大きく取り上げられたものから注目されたなかった事件に至るまで、隈なく調べて回る。
その中で_____ヴィランが焼死したような事件がないかを調べる。
リアライザーは、ヴィランに対して自分が持つ炎を与え、その能力を強化していると言っていた。そして、それが実験だとも言っていた。
だが、最初から三人ものヴィランを相手にそんなことをするだろうか?ヴィランとしての能力を強化するということが確かであることを立証するために、何度か実験を挟むのが普通ではなかろうか?
(そもそも……一体どんな発想をしたら、炎を他のヴィランに与える、なんて発想が出てくるの?科学的な根拠が何もない以上、何度か検証して効果があるのか確かめる必要があるはず)
三人のヴィランを手懐ける以前に、既に炎をヴィランに与えた経験があるはず。炎を与えられたヴィランが必ず焼死するわけではないだろうが、少なくとも通常のヴィランよりは強化されているだろう。強力なヴィランはその被害も大きくなり、駆けつけたファイアマンの活躍も派手なものとなりやすいので、まとめサイトなどでは大きく取り上げられやすい。
ファイアマンが関わり、かつ事件後の行方が不明なヴィランを探す。
日々起きる事件全てに目を通すこと、二時間。まとめサイトの所々の間違いや、警察庁のサイトに載っていない情報などを精査した後、一件の事件が目に入る。
(ヴィラン名、ドリルロイド……工場作業員が工場の機械と融合してしまい、全身の至る部分にドリルを取り付けた変形型ヴィラン。工場を破壊した後、近くにあった繁華街を襲撃、そしてファイアマンと交戦。激しい戦闘の末、ファイアマンによる攻撃が成功し機械から切り離されることに成功し警察が駆けつけるも……切り離された機械が爆発を起こす。その後の犯人の行方、生死は不明……)
他に気になったこととして_____この事件で、ファイアマンは恒例の『ファイアマン花火』を打ち上げていない。記事においてはファイアマンが激しい戦闘で消耗していたからだ、と説明がなされているが、ファイアマンがいかなる信念を持ってヒーロー活動をしているか、ルウカは知っている。
(ファイアマンは、ヴィランをも助けることを信条としている。ドリルロイドの時に花火を打ち上げなかったのは……ドリルロイドを救うことができなかった、ということ……?)
切り離された機械が爆発を起こした原因については、機械に含まれていた可燃性物質によるものではないか、あるいは過剰な駆動による熱で中に入っていた液体が帰化した影響ではないかと言われているが、それにしては爆発が派手過ぎると思った。ドリルロイドが出現した工場、そしてその工場で使われていた機械を調べる。検索して出てくるような情報ではないので、推測しうる様々な側面から検索する。
工場を運営する会社の情報、その工場が何を生産しているかの情報、その製品を作るためにどんな機械が必要かを調べた後、ドリルロイドの映像から最も近い機械が何なのか調べる。調べた結果分かったことは、その機械には可燃性の物質や、過剰使用による爆発のリスクなどはないということ。
(つまり機械の爆発は、本来なら起こり得ない事象。爆発させようと思ったら……外部からの干渉が必要……!)
これがリアライザーの仕業である可能性は高い。とすれば、炎をヴィランに付着させて強化することを試す実験を、リアライザーは計画的に進めていることになる。
ならば、このドリルロイドと同じような事件が他にもあるかもしれない。複数の事件を挙げた上で、それらの発生地点、発生時期などを地図やカレンダーを使って記入していく。それぞれの事件の特徴などから、事件の首謀者であるリアライザーが何を考えていたのかを推察する。
推理に、才能は必要ない。必要なのは、徹底したデータの収集と、それを結びつける思考回路の試行錯誤のみ。
(事件ごとにヴィランの特徴が全く異なる……色んなヴィランを使って試してみているのか。そうなると、事件を起こす前からヴィランのことを見つけていないといけないけど……そんなことできるの?ヴィランが生まれるのは極度の精神異常、環境が肉体・精神に与える特異な影響によるもの、自然発生した異物との融合などが考えられるけど……あるいは……炎を使って、意図的にヴィランを作り出すことができる?)
分からないことだらけの中で、一つだけ確実に言えることがある。
リアライザー。この人物が持つ執念の深さは_____尋常ではない。この執念深さを追おうと思うのなら、こちらも相応の執念を見せねばならないだろう。ルウカは気を引き締め_____
_____気づけば、外では日差しが段々と西に傾き始めていた。
「リアライザー……『気付かせる者』、か。何を気付かせたいのか……」
机の上には、充電器に差しっぱなしのノートパソコンと_____その横に煩雑に置かれた、ノートの紙片の数々。文字やグラフが大量に羅列されたそれらの字数を足し合わせれば、一冊の本ができてしまうのではあるまいか。
「……あれ、朝?っていうか……夕方⁉︎」
フッと窓の外を眺めると、段々と日が鮮やかな色になりつつあった。夜から作業を続けていたことを考えると、一体何時間続けていたのだろうか。
時間の感覚を取り戻した瞬間_____突然、フラッと体が傾いた。
(ヤバい……眠気が……)
そのまま、気絶するかのようにベッドに転がり込んだ。
__________
「__________、_____ゥカ。ルウカ!」
「……ぁぅ?」
口からヨダレを垂らしながら意識を覚ますと、目の前には晴子の顔があった。
「……晴子?」
「どうしたのよ?学校休んでたから心配して見に来たら、鍵かけないまま倒れてるし……」
言われたことから現状を認識するのに、ざっと十秒かかった。意識が完全に覚醒し、ガバリと体を起こす。
時計を見ると、現在の時刻は夜の20時16分。最後に時計を見た時は16時くらいだったと思うので、4時間ほど寝ていたことになる。徹夜明けの睡眠のせいか、やけにスッキリした気分だ。
晴子はすぐ近くに自宅があり、一人暮らししているルウカのことを気にかけて度々部屋に上がり込んでくるのだ。偶に食事を持ってきてくれることもあり、晴子の両親にも度々世話になっている。
学校をサボった挙句、晴子からの電話なども完全にスルーしていたのだ。心配になって見にきてくれたのは、ルウカのことを慮ってのことだろう。(着信履歴には、なぜか純レからの電話が五回もあった)
「心配になって来てみたら……夢中でなんかやってたのね」
「……あ」
机の上には、出しっぱなしのままの無数のノートの紙片。
ノートに書かれているのは、ルウカの汚い文字たちと、他人には理解できないであろうグラフの数々。リアライザーの正体を突き止めるために書き出した、数々の情報。
意味は理解できないかもしれないが_____側から見れば、不気味な光景にしか見えないだろう。それに、事情が複雑過ぎて説明を求められたら困る。
「は、晴子、こ、これは……」
いくらオタク仲間といえども、自分の行動の軌跡を目にされるのは嫌だ。『変だ』『コイツはおかしい』と思われることを想像すると、恐怖で鳥肌が立つ。
「ん?ああ、別に見てないよ。私はルウカの親じゃないんだから、何をしてようと気にしないよ」
晴子は何事もなかったかのように、手提げ袋に入ったものを次々に狭いキッチンに置いていた。
「はいこれ、ウチで余った煮物ね。買い過ぎて余ったパンもあるから、腹が減ったら食べなさいよ」
「……晴子」
自分は一体、何を恐れていたというのか。最高の友である晴子を、ほんの一瞬だけでも『自分の秘密を見た他人』と認識し、突き放そうと考えたのだ。
(……まただ。何をやっているんだ……私は)
なぜ自分は、その場の衝動的な思いに駆られて、酷いことを平然とやってしまうのだろう。
なぜ自分は、他者の純粋な親切を無下にしてしまうのだろう。
寝ても叫んでも、消えることのない自己嫌悪。
そして芽生える_____自分を変えたいという、強い欲求。
(このままじゃ……ダメだ。私は、変わらないと……!)
もっと、受け入れるべきだ。
もっと、理解すべきだ。
もっともっと、誰かと手を取り合うべきだ。
「……晴子、ありがとう」
「いいよ別に。いつものことじゃん?」
「あのさ、ちょっと手伝って欲しいことがあるの。凛太も呼ぶから、ちょっと残ってくれる?」
勇気を振り絞って出した、なんてことない言葉。
晴子は、ルウカの覚悟が灯った目を見て、なんてこともなさそうに頷いた。
__________
「__________ということがあって」
「…………」
「…………」
与えられた情報が多過ぎてフリーズした晴子と凛太。現在の時刻は21時36分。凛太が到着してすぐに解説を始めて、一時間弱が経過している。
「そういうわけだから、これからリアライザーが何をするのかを考えてみようと思うの。私のここまでの推理が正しければ、リアライザーはきっと……近々、ファイアマンに対して大きな戦いを挑む可能性がある。そしてそれを通して、人々に対して何かを伝えようとしているはず。このノートに、想定しうるリアライザーの性格・行動様式・思考回路・判断基準・価値観をできるだけ書いておいたから、リアライザーが何を計画しているかを_____」
「待て待て待て、待つんだルウカ」
晴子は表情が固まったまま微動だにせず、凛太に至っては今にも気絶しそうなくらいに辛そうな顔をしている。
「お前の言っていることが本当だとして……その……計画を明らかにして、どうするんだ?」
「当然、止めに行くの。また悪さをしようって言うなら、私が直接出向く」
「危険だ!リアライザーってやつは、ファイアマンと同じくらい強いんだろ⁉︎俺たち三人じゃどうしようもねぇよ……」
凛太の言うことは正しい。三人寄れば文殊の知恵というが、文殊の知恵如きではリアライザーの悪事は止められないだろう。ましてや、その計画を阻止するなどとは、あまりにも現実味のない行動計画である。
「それに……俺たちが何かしなくても、ファイアマンならなんとかなるんじゃないのか?東京で一番強いヒーローなんだろ?警察の人たちだって、対策をしているはずだし……ここまで推理したルウカはすごいけど、これくらいじゃ何もできないと思う……」
「……うん、私もそう思う。ルウカが本気なのは分かってるけど……これは、私たちがどうにかできる問題じゃないと思う」
晴子が言うことも正しい。所詮、自分達はまだ何の力も持たない、非力な高校生でしかない。身の程を弁えない行動をすれば、必ず痛手を負うことになる。
ましてやそれが_____本物の命のやりとりがされるようなヴィランとの戦いに首を突っ込むこととなれば、危険はさらに増すことになる。
「……二人とも、私の話を真面目に聞いてくれてありがとう。正直、何を言ってるんだって思われると思ってたから……私のことを信じてくれて、ちゃんと心配してくれてるのは、本当に嬉しい」
分かってる。二人こそが正論で、自分が馬鹿なことなど分かっている。馬鹿なことをせず、正論となる行動をすることは、知性ある人間なら当然の選択だ。
_____でも、ルウカは知っている。正論を振りかざすことなく、愚かな理想論を掲げて、その上で人を助けようとする人物を。助けなくていい人間を助けようともがいて、そしてたくさんの傷を受けて尚、人々の明かりであろうとした人物を。
『ファイアマンの炎は敵を燃やすためじゃなく、みんなを照らすためにある』
だから自分も_____そうなりたいと思ったのだ。
「でも……このまま何もしないのは、絶対に無理。事情を知ったからには、赤の他人でいることなんてできない。力を持った人たちに任せて、自分達は弱いからと言って諦めて、自分には何もできないんだと言い聞かせるような惨めなことだけは……もう絶対にしない」
拳に力が入り、歯を強く食いしばる。意識しないうちに、全身に力が入っていた。ルウカのことを正面から見ていた凛太と晴子は、それが感情が溢れるのをグッと我慢しているのだと、見て取れた。
「だから……お願い。私だけじゃリアライザーのやろうとしてることを突き止めるのは難しいから……手伝って欲しい。二人にとっては関係のないことだし、そもそも何の利益も得られないけど……私には、二人しかいないの……!」
図々しいことこの上ないお願いが、これほどまでに胸が張り裂ける思いのするものとは思ってもいなかった。生まれて初めて_____本当の意味での『一生のお願い』をした。
「お願い……!一緒に……ファイアマンの力になってほしい……!」
10秒ほどの間があった。
涙を零しながら顔を俯けていたせいで、二人の顔がよく見れなかった。
吐き出した思いが返ってくることはあり得ないのだと、この10秒の間で何度も自分に言い聞かせた。そうしなければ、これから二人にかけてもらうであろう諦めの声を受け入れることが、できなくなるだろうから。
「…………分かったよ」
「……はぁ、しょうがないなぁ」
晴子の両手が、泣き腫らしたルウカの頬を挟んだ。
「ふぁっ……晴子?」
「私たち、仲間でしょ。仲間が泣きながらお願いするんなら……断れないわよ」
晴子の言葉が、頭の中を何度も木霊して……意味を理解した途端、我慢できなくなって晴子に抱きついた。
「うぅ……晴子ぉぉぉ……」
「どうどう、全く泣き虫な子だね……」
凛太も、バツが悪そうに頭を掻いている。
「なんつーか……ここで諦めたら一生後悔しそうだし……まぁ、死なない範囲で助けるよ」
「凛太……ぐすっ……ありがとぉぉぉ……」
ルウカは泣き止むまで、晴子と凛太はかれこれ30分近くルウカを慰めていた。
「よしっ、それじゃ……いっちょやりますか!」
泣き尽くして感情を出し切ったルウカは、見違えるほどに元気になった。それに釣られ、晴子と凛太も楽しそうに机に向き合う。
「始めるわよ。名付けて_____『東京救出計画』!」
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