第140話
待ち侘びること数分の時が過ぎその時は訪れた。
憎たらしき相手が騎士の手により人生の終着点である皆に見られて終わりを告げる死地へと運び出される。
今回最後の処刑における大トリの相手である国賊に指定されたこの国の元参謀様がこの場に来たのだ。
処刑形態は斬首…先ほどまでのようにギロチンや首吊り台などの道具は使わず処刑執行人が直接手を下すという処刑方法だ。
処刑囚が断頭台へ座らされ足に杭を打たれたことで準備は整い処刑執行人がその姿を表した。
それはプラチナの髪を持ち一方に翡翠色の瞳もう一方に水色の瞳を持つ何故かその顔には下半分が無くなっている歪な仮面をつけた少年がその場へと処刑囚へと歩を進めていく。
それだけのことなのに民衆は大きく盛り上がりを見せ処刑囚への罵倒も大きくなっていく。
そして死刑執行人…アルキアンが腰につけた鞘から剣を抜刀し構える。
一人の騎士が分厚い書物を持ち処刑囚の前に置きその場を去る。
アレは前の処刑囚も持っていた処刑される前に牢獄内で今まで侵した罪を懺悔する為に処刑囚自身に書かされたモノだ。
処刑中はそれを持ちその口を開けた。
「私の名前は…ディーセ…この国に混乱と破滅をもたらすという目的を達成のため集い率いた者だ。ここにこれまでしたことを示し神の赦しをこう。私は…」
その言葉を綴り次々に過去の栄光を語るかのように侵した罪を吐き出していく。
村を襲い行商人を襲い人を攫いそれを奴隷商人へと売りつける。
そうして得た利益で役職を買い捕まえた魔物を街に離し討伐部隊を操り知略があると思わせ参謀へと上り詰める。
ある時は敵軍を買いマッチポンプをしある時は民衆に嘘を広める。
「そしていつしか実権を持つ存在へと…金と力、発言力及び権力を持って王族を操り誰にも邪魔されない傀儡国家を作り出すことこそディーセの使命…だがこうなればもう待つ理由は無いであろう」
そうディーセが言い出すと天に顔を向け何かに祈るように手を掲げると…夕陽から神々しい光の粒子がディーセに向かって降り注いていく。
その異常な現象を見たアルキアンは構えた剣をディーセへと振り下げ首と身体をお別れさせようとするがいくら斬ってもその首は地面に落ちない。
まるでそれは神の祝福を得た異常者のように見えた。
「あぁ神よ…唯一神たる母なる光の女神様…下僕たる私に祝福を下さるのですね。その期待応えて見せましょう」
その言葉を最後にデューセの身体は完全に光に飲まれてゆき閃光がその場を覆った。
目を開けるとその場にいたディーセは先ほどとは違い羽根を生やし頭に輪をもつ正に天使以外何者でも無い存在へと成り上がっていた。
その場に一瞬の静寂が広まると共に汽笛の音に似た音があちこちから響いてくる。
誰もがその音を聞き気を取られ目を離すと共に民衆のあちこちで動きを見せる。
…民衆が殺された。
つんざくような悲鳴が広まり騎士が動き出し我先にと民衆は動く。
誰が転ぼうとも手を伸ばすことのない内乱が起こったことを自覚したのだ。
人を蹴り落としてでも逃げ出すそんな民衆の騒ぎは王城で見ていた貴族たちにも伝わり私の周囲にも騒ぎが起きる。
誰もが自分に被害が及ぶかもしれないからと「助けてくれ!」やら「許してくれ!」と騒ぎ立て逃げてゆく。
私はそんな光景を見ながらこの騒ぎを起こした原因を見る。
その元ディーセの周りにはいつの間にか白いローブを纏った集団に囲まれておりその囲まれた本人はここからでもわかるニヤケ顔を晒しながら堂々と腕組みをしている。
その正面に立つのはアルキアンただ一人…周りにいた騎士は暴動となった民衆を宥めるため動いている。
「今回の敵は宗教か…」
あの状況から見るに参謀だったディーセは宗教国家の信者だったというわけか。
そしてあの白いローブの集団は宗教の信仰者といった感じだろう。
…朝に見た黒いローブの集団は見えないが宗教の信仰者ではないのだろうか?
そうして一旦この場全体を見渡す。
この王城の広場には民衆と白いローブを羽織った信仰者が人質を取ったり騎士と戦闘していたりする。
民衆は大半が逃げ出したように見える…逃げ出した民衆の中に信仰者もいそうだからだろうか騎士が街に駆り出している姿も見える。
王族は…流石にもう逃げた後か。
「と…私もこのままここにいるべきじゃないか」
さっさと逃げるか信仰者の討伐をしなくては…あとはメインディッシュにディーセやっぱりアイツは私の手で殺さなければな。
アルキアンの手腕ではやはり心配だしね。
そう思い手すりに手をかけ外に出ようとした時だった…後ろから複数の足音が聞こえそちらの方へと顔を向ける。
そこには白いローブを羽織った信仰者が3人この場に現れた。
「その前に準備運動でもしますかね…」
私は腰から二本のナイフを取り出し構え…信仰者もそんな私を見て棍棒や杖、戦鎚を手に取る。
そうして信仰者棍棒を持った信仰者は雄叫びを上げながら無謀にも突っ込んでくる。
それを避け追撃を入れようとすると戦鎚を持つ信仰者がいつの間にかすぐ側まで来ており振り下げてくるが突っ込んできた棍棒を持った信仰者を掴み瞬間的に身体能力を強化し戦鎚にぶつける。
その瞬間信仰者の頭部の方から「グチャ」という生々しい音が聞こえたが…まぁ聞こえなかったフリでもしとこう。
その間に杖を持つ信仰者が呪文を唱えているがなんとこのナイフ…飛ぶんです。
二つのナイフを作動させナイフの刃が銃の弾のように弾き出され詠唱中の信仰者の首と心臓に深々と突き刺さる。
だがただでは死なないと意地を見せる信仰者は最後の最後で詠唱を終わらせ目に見えるほどの空間を歪ませた空気で作り出した風の刃を飛ばしてくるが…まぁそんな意識がほぼない状態で打ったらさぁ。
「ぐがッ…何故俺を…」
その刃は私の近くにいた戦鎚を持つ信仰者に当たりこれまた骨が折れる音を響かせて地に伏し絶命した。
…二人自分の仲間の攻撃によって死ぬとは哀れだなぁ。
「まぁ…準備運動にはならなかったか」
ほぼ私動いてないしな。
そんなことを呟きながらナイフに魔力を注ぎ飛んでいった刃を回収するのだった。
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