第58話
「ふぁぁぁ…」
そうあくびをしながら起き上がる。
…宿屋の受付嬢を助けて男性をギルドに運んだ後はめんどくさかった。
完全に気絶した男性は重かったしひきづって歩くことで顔面が擦れて血が出ていたから歩く道の後ろは血の道ができていたから周囲の人から奇怪な目で見られていたからメンタルがきつかったぜ。
まぁこれより大変だったのがギルドに入ってからだけど。
ギルドに入ったらまず心配された。
そして何故か説教されたし色々と事情聴取もされた。
そういえばあの時に俺がひきづった男性はクランの組員でもなんでもないただの冒険者だったらしい。
身元のわかった男性は目の前で縄で縛られ天井から吊るされた。
無表情で縛り天井に吊るし一発づつ拳を握り叩きつける女性ギルド職員にはとても恐怖を感じた。
そうして疲れ果てた俺は宿に帰り受付嬢に鍵をもらい、宿の主人に御礼を言われもてなしてくれると言われたんだが…。
まぁ疲れていたため断ってすぐ部屋に行って寝たんだが。
「さて、今日も冒険者活動でもしますかねぇ」
そう独り言を呟き立ち上がる。
目的地は冒険者ギルド。
そうしてギルドに行き依頼をこなして宿に行き寝る。
それがもう習慣になってしまった。
なんというか毎日毎日同じようなことをしているような気がするがその一日一日の内容は濃いような気がする。
まぁ…同じ日々が飽きないかと聞かれたら飽きないと断言できる。
同じようで同じではない。
そんな日々が続いていく。
そうして…そうして、私は6歳になった。
この街に来てからもう数ヶ月が経ちこの街そして冒険者という職業にも慣れてきた。
俺、いや私は私という一人称をしろと言われて怒られないよう私という一人称にした。
まぁ未だ気を緩めると俺という一人称が出てきてしまうんだがな。
あと変わったことといえば…そうだなぁ『ドラゴニア』がSランクに昇格したことかな?
あの時倒したナメクジは正式にSランクの魔物として認定されたその名も『統括蛞蝓帝グラーキル』。
各国に知らされ倒した個体の他にもいると研究者達が断定したことで国外にも伝わり広まった。
さまざまな魔物、魔獣、人を統括して帝国を支配したことからこの名がつけられたそうだ。
そんなことがありそのSランク級の魔物の討伐においての活躍者である『ドラゴニア』がSランクに昇格された。
ん?
私に何か褒美はあったのかって?
…私は別にこれといって欲しいものとかなかったから保留だ。
今の冒険者ランクはBに上がったしこのままいけば近いうちにAランクになることだって可能だと言われたからランクを上げてもらわなくてもいいと思ったための決断だ。
「にしてももう冬かぁ…寒いなぁ」
只今の季節は冬である。
日本で言うなら12月中旬。
外は銀世界でここからでも雪で遊ぶ子供の声が聞こえてくる。
冬は嫌いだ。
寝起きは寒いし火が出ている時でも寒い。
かといって夏も嫌いだ。
暑いし汗は出てくるし虫もどっからか湧いてくる。
まぁどちらも嫌いというわけだ。
早く春になって欲しいものだ。
「にしても今日は冷えるなぁ…暖房器具もこの世界にはないからこういう季節は本当に嫌いだよ私は」
そう言い私は何枚も重ねた布団を被る。
気分はさながら冬眠する熊の如く。
そうして私が布団の中でぬくぬくしていると自室のドアをノックされる。
「……………………………………………………」
おやすみなさい。
私は起きたくないのですよ。
だが現実は非常で私の理想を裏切ってくる。
ドアがいきなり開けられる音が鳴り響き冷たい風がその先から溢れ出してくる。
私は一層布団に包まりその風から逃れようとするがそれを阻止するかのように声をかけてくる人物が現れる。
「いつまで寝ているのですか!?ほら、今日も仕事でしょ?レナさん!」
そう言われて布団をやすやすと剥ぎ取られる。
この娘はメイという。
私があの時助けた宿の受付嬢だ。
そのせいか私はどうにも懐かれたらしく私にお節介をしてくる。
ちなみに俺という一人称を私に変えたのはこの娘が原因だ。
「うぅ…うとうとしていたのに目が覚めちゃったじゃないかぁメイ」
私は文句を言いつつ机の上に置いてある仮面をつけながら言う。
まぁこんな感じがいつもの日常になりつつある。
まだメイは私に対して文句を言っているが私はそんなことを無視して服を身につける。
それにしてもこの数ヶ月は本当に色々なことがあった。
その中でも思い出深いことといえば『宿半壊事件』だろうか?
あれはこの街に来て2ヶ月経った頃のことだ。
私がいつも通り魔術の研究にいそんしんでいる時だった。
この娘、メイが急にドアを開けて入ってきたことから始まった。
その時私が研究していた魔術は風系の魔術。
エアーカッターとは違う高威力低魔力で放つことができる魔術を研究していた。
そうして作り出した魔術を試行錯誤しながら紙に写して悩んでいる時急に開かれるドア、大声で私を呼ぶ声。
コミュ障になった私からしたらドッキリに近い行動でつい私は人に呼ばれたことにパニックになってしまいつい書いていた紙を持ちMPを流してしまった。
その結果部屋中に荒れ狂う風が発生して屋根を吹き飛ばし壁は崩れた。
そうしてこれが事件になった。
宿の主人にはメイのことについて謝られた。
メイの声は宿の外にまで聞こえ多くの通行人が突然の大声にびっくりしたらしい。
私はこの宿の修復代を半分負担して残りはメイの出世払いとなってこうして事件は収束した。
「さて、準備はできたし行くかぁ冒険者ギルド」
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