青い小鳥(黒のシャンタル外伝)<完結>

小椋夏己

ベルと青い小鳥

第二部連載中にお正月なのでちょっとしたよもやま話をと書いた短いお話です。

本編の間のちょっとしたやりとりの話です。

第一部のネタバレがちょこっと入るかも知れません、お気をつけて。

「青い小鳥」というキーワードに心当たりのない方、まだ第二部まで読み進んでいなくて「ネタバレが嫌な方」は後から読んでください。





――――――――――――――――――――――――


「なあ、おれ、ミーヤさんに頼みがあるんだ」

「はい?」


 まだまだやることは山積み、何がどうなるか分からないうちでのことではあるが、本当に少しだけ雰囲気が落ち着いた時、ベルがミーヤにふいにそう言った。


「なんでしょう、私にできることでしたら」

「うん、おれ、フェイに会いたいんだけど、会わせてもらっていいですか?」

「え?」


 ミーヤはベルの口からその名前が出てきたことに驚いた。


「あー驚かなくていいですって、あっちでこっちの話聞いた時にフェイのことも聞いてますから。だけど、ほら、今こんな格好でしょ? それでそんなところに行くわけにもいかないし」


 ベルは中の国から来た奥様の侍女という設定になっている。その侍女が、何の関係もないシャンタル宮の墓所に足を向けるのは変であろう。


「それで、ミーヤさんのところにいるって青い小鳥に会ってみたいんです。いいですか?」

「そうでしたか……」


 ミーヤはふっと薄く笑うと、


「ありがとうございます、きっとフェイもベルさんに会いたいと思います」


 ニッコリと笑ってそう言った。


「後で連れてきますね。エリス様のお部屋でいいでしょうか?」

「あ、そうだな、奥様もきっとフェイに会いたいよな。会ったことあるってか、助けてもらったんですよね?」

「ええ、そうなのです」

「すごいやつだよな、フェイって」


 ベルがそう言ってから、


「じゃあきっと、もうおれのことも知ってんだろうなあ。うーん」


 と、考え込むようにする。


「何かあるんですか?」

「え?」

「いえ、なんとなく困ったような顔をされているので」

「あー」


 ベルはそう言ってから軽く笑うと、


「あのね、あっちでトーヤにミーヤさんとフェイのこと聞いた時、おれ、ひどいこと言っちゃって」

「ひどいことですか?」

「うん」


 ベルがギュッと口を引き結んで頷いた。


「あっちでね、4人で西の戦場へ行くって話になってたんですよ」

「戦場へ、ですか」


 ミーヤが表情を固くする。


「そんな顔しないでくださいよ〜」


 ベルが困ったような顔でそう言う。


「いえ、そうだったのですよね。つい忘れてしまいます、ごめんなさい」

「いやいや。うん、まあそういうことでね、いい稼ぎになりそうだからってそっち向かってたら、ある町でいきなりトーヤが、自分とシャンタルは一緒に行けない、ここから東へ行くって言い出して、そんで、おまえらはどうするか自分らで決めろ、そう言われたんです」

「まあ」

「そんで、おれ、もうあったまきて! ざけんなよってトーヤのこと怒鳴りつけて、そんで、まあ色々聞くことになったんです、こっちの話とか」

「そうだったんですね」

「うん、でね、その日一晩、兄貴と一緒にずっと寝ずに長い長い話を聞いて、そんでその時にフェイのことも聞いたんだけど、そんでね、おれ、すんごいトーヤに怒られるようなこと言っちゃったんですよ」

「トーヤが怒るようなことを?」

 

 ミーヤの問いにベルが申し訳なさそうに首をすくめてそう言う。


「うん、あのね、おれはフェイの身代わりなんだろう、そう言っちゃったんです」


 ミーヤが何を言っていいのか分からぬように困った顔になる。


「トーヤがさ、なんか、すっごく二人のことを大事だって顔して話するもんで、それ見てたらなんてーのか、ムカついて、さびしくて、そんでつい」

「二人?」

「うん、ミーヤさんとフェイ」

 

 ミーヤが驚いた顔になる。


「それでさ、もしも、二人がトーヤと別れることがなかったら、おれと兄貴は、今こうしてトーヤとシャンタルといなかったかも知れない、そう思ったら、なんかなんか……」


 ベルがくっと一つ息を飲んでから続けた。


「そしたらさ、トーヤがすんげえ怒ったんだよ。おまえとフェイは髪の毛一本も似てねえ、そんなおまえをどうやったらフェイの身代わりにできるってんだ、できるはずがない、ってさ」

「まあ」


 ミーヤはトーヤのきつい言い方に胸が詰まるような気がした。


「そんで、兄貴がそりゃちょっとひどいんじゃねえかって言ったら、兄貴にも聞いとけって、そう言って、この世にいる人間はみんな違う人間、誰も誰の代わりになんかならねえ、おれはフェイの代わりにならないし、フェイもおれの代わりにならねえ、よく覚えとけバカ! ってそう言って怒られた」


 そう言ってベルが舌を出して首をすくめた。


 ミーヤは言葉が出なかった。


 トーヤが、そんな風にフェイと自分のことを、あちらに戻っても思ってくれていたと知ったからだ。


「そんでシャンタルに言われたのは、おれはおれがフェイの場所を取ってしまったようで申し訳なく思ったんだろう、そう言われてさ、それもあったんだよ。もしもフェイがトーヤのそばにいたらおれの場所はなかったってのと同じに、おれがいるからフェイがここにいない、そんな風に思ってたみたいで」

「…………」


 ミーヤがまた胸が熱くなった。


「フェイ、怒ってねえかな?」

「ええ、ええ、フェイはベルのことが大好きだと思いますよ。そんなに思ってくれたこと」

「うん、トーヤもそう言ってた」


 そう言ってベルはニッコリと笑った。


「ええ、ベルと会うのをきっと楽しみに待っていますよ。すぐに連れてきますね」


 ミーヤも満面の笑みでベルにそう言った。


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