21話 市長レオナルド

 レーテについて建物に入ると、フードを外し、迷わずに鎧を着た番兵二人が立つ通路へと向かっていく。

「申し訳ありません。この先は関係者か、レオナルド様にお会いする予定の方以外はお通しできません」

「レオナルドに、レーテが帰ってきたと伝えて欲しい。余程忙しくない限り、会ってくれるはずなんだがね」

 番兵が顔を見合わせる。一人が通路の奥へと進んでいった。

「友達、って言ってたよな」

「一応友人さ」

「街のお偉いさんってのは、会いに来たってのに会えないもんなのか?」

「レオナルドは普段から忙しいらしくてね。向こうの予定が悪いと、顔を合わせないことも多かったからね」

 顔も合わせない友達、ね。

 残った番兵一人の視線が、オレとレーテを交互に見ている。なんだ、すっげえ居心地悪いぞ。

「レオナルドに会いに来るなんて、普段は仕事の相手くらいだろうからね。どう見ても、その関係に見えないから不思議なんだろうさ」

 番兵が目をそらす。

 お、向こうからもう一人が戻ってきやがった。

「お待たせいたしました、レーテ様。レオナルド様がお会いになられる、とのことです。どうぞ」

 戻ってきた番兵が頭を下げる。

 レーテが通路の奥へ向かうので、オレもついて行こうとしたら番兵二人が立ち塞ぎやがった。

「ゴーヴァンも連れて、レオナルドに会いたい。通してあげておくれ」

「ではお連れの方は、腰の剣を我々にお預けください」

「はあ? なんで剣置いてかなきゃならねえんだ」

「ゴーヴァン、ここは彼らの言うことを聞いておくれ。あまり待たせると、レオナルドにへそを曲げられる」

 大丈夫なんだろうな、本当に。

 ベルトから剣を外し、番兵の一人に渡す。盗られたりしねえだろうな。

「ではこちらへ」

 番兵の一人が通路の奥へ進んでいくと、レーテがその後に続く。

 本当に盗られたりしないだろうな。

 長い通路をしばらく進み、階段を登ってまた通路を進むと大きな扉の前で立ち止まる

 番兵が扉を二回叩く。

「レオナルド様、レーテ様をお連れしました」

 扉を開き、レーテが入っていくので、オレのその後に続いて入ると、扉はすぐに閉められた。

 部屋に入ると、黒い毛皮の猫種が机の向こうに座って、なにか手を動かしているのが目に入る。

「ただいま、でいいのかな。レオナルド」

「おかえり、レーテ」

「買い物を済ませたのでね、言われたとおりその報告に来たのさね」

 猫種の男はは手を止め、部屋の中にある低い椅子とテーブルの方を指差すと、レーテは椅子に腰掛けた。

 座ってろってことか? しっかし低い椅子だな、座りにくくねえのか?

 うわっ、なんだこりゃ柔らけえ! ケツが沈むから、なんだが尾の置き場所が落ち着かねえぞ。

 オレが落ち着かずに尾を右に左に揺らいてると、猫種の男は手に小さな鐘を持ちそれを鳴らす。

 俺達が入ってきた扉とは別の扉から、小綺麗な格好の男が出てきて、猫種の男に頭を下げる。

「彼女達になにか飲み物を。それと、しばらくこの部屋に人を通すな」

 小綺麗な男は頭を一度下げると、出てきた扉に戻っていく。

 しばらくすると戻ってきて、俺達の前に背の低い湯呑みと小さなツボを置き、独特な匂いの茶色い湯を注ぐと部屋から出て行ってしまった。

「何だこりゃ、薬湯か?」

「お茶というらしいね。飲んでみたらどうだかね」

 飲む、ねえ……苦っ! なんだこりゃ、本当に薬湯じゃねえか。

 レーテのやつ、分かってて飲ませやがったな。オレの反応見て、くすくす笑ってやがる。

「やっぱり渋かったかね? コレをお入れてお混ぜな」

 小さなツボの蓋を開け、中に入っている匙で白い粉を救う。今度は何だ?

 言われたとおりに何杯か粉を掬って、薬湯の中に入れて混ぜる。

 もう一度飲む……甘っ! 匂いは変わらねえが、味が蜜よりも甘くなりやがった。

「砂糖を入れすぎだよ、ゴーヴァン。まだ口をつけていないから、私の茶に二、三杯入れてお飲みね」

 楽しそうに笑いながら、互いの湯呑みを入れ替える。コイツ、分かってて何も言わなかったな。

 渡された湯呑みに壺の中の粉を二杯入れ、混ぜて飲む。お、甘くて美味くなった。

「さてレーテ」

 猫種の男が俺達の向かいの椅子に腰掛ける。

「出かけた時と服が違うが?」

「刺されて穴が空いたから代りの服に買い替えた」

「横の男は?」

「今回の買い物さね。なかなかの益荒男だろう」

 ヒゲを数回撫で、男は言葉を続ける。

「じゃあ、渡した金と他、一度返してくれるかい」

 レーテがテーブルの上に金と指輪やら首飾りやらを出していく。

 テーブルの上に出された物を見て、明らかに顔がひきつっていくのが分かった。

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