17話 自動人形

 パキィと何かが砕ける音がした。

 音の元、男の手元のあたりを見ると、透明な石の欠片が散らばっている。

「ゴーヴァン、伏せろ!」

 女の声に反応し、その場で見を低くする。瞬間、頭の上を何かか横切っていく気配と、硬いもの通しがぶつかり合う音が響く。

 視線をそちらにやると、女の足が、鎧を着込んだ兵士に胸に食い込んでいた。

「クソっ、兵が潜んでやがったか!」

「いや、これは人じゃないね。自動人形か」

 部屋の中を素早く見回す。全部で四人か。鎧を着込んだ兵がこちらに剣を、槍を向ける。

「兵に何をしたか知らんが、自動人形には気づいていなかったみたいだな」

「絡繰仕掛けで動くゴーレムのようなものだと思っておくれね。ゴーレムはわかるかい」

「戦ったことはある。ゴーレムなら核を壊しゃいいんだろ」

 武器を構える鎧に切っ先を向ける。

 足元でニヤニヤと笑うこいつの顔に、一発食らわせてやりたいが、先にこいつらだ。

 剣持ったやつが二人、槍が二人か。

「ふっ!」

 足元の男はこの際は置いておく。

 槍を持った鎧の横に回り込み、脇に向けて付きを一撃。

 肉や骨を立つのとは違う感触が手に伝わる。剣を引き抜くが、血の一滴も流れ出てこなかった。

 刺された鎧は何事もなかったように、刺されていない方の腕で槍を突き出してくる。

「んなっ?」

「言ったろう、人形だって。壊すなら、バラバラにするしか無いさね」

 連続で繰り出される突きを躱しながら、女の方へ視線を送る。

 女は宙に飛ぶと、自分に向けて剣振りかぶった相手の肘を蹴り折っていた。

 オイオイ、あの体勢でって、どれだけの怪力だよ。

「鎧を着込んだだけで、十分核が狙いにくくなってるね。腕ごと頭を蹴り潰すつもりだったんだがね」

 切りかかってくる剣を受け流しながら、距離を取り直す。

 動き自体は単調だ、かわすことは難しくない。後はどこをどう、攻めるかだけだ。

 男は……よし、まだ逃げてねえな

 とは言え、早くコイツラをなんとかしねえといつ逃げられてもおかしくねえ。

「頭か胸」

「ああっ?」

「自動人形の造り手にもよるが、自動人形の核は大抵頭か胸だ」

 女は突き出された槍を抑え込み、相手の腹に蹴りを一撃。相手を蹴り飛ばし、奪った槍をこちらへ投げてよこす。

 槍を受け取り、一番近くにいた剣持ちの鎧の足を払う。体勢を崩した相手に体当りし押し倒し、首の隙間に剣を突き立てる。生身なら、コレで終わりのはずだ。

「どうだっ!」

 攻撃が来ない、頭が当たりか。

「首の中心に頭からの伝達系があるようだね。向こうで見せてもらったものと、同じ物か」

 女は一人で何かを納得すると、武器を失った一体に素早く飛びかかり、首をねじ切る。

「ぅげっ!」

「ひっ!」

 オレと男が同時に声を出す。

 怪力だとは思ってたが、ねじ切るってどれだけだよ。

「さあ、これで後二体、一人辺り一体だ。早く片付けようじゃないか」

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