第51話 ケヴィン

蝙蝠達は沈黙した。


全ての素材を回収し終わると、俺達は蝙蝠のボスの元に向かう。


探すのは簡単だ。魔力と闇の濃い、森の奥へ奥へと進んだ。


やがて、森が開け、切り立った崖が立ち塞がる。狼を召喚して左右に走らせると、ぐるりと森に囲まれた崖で、上の様子は分からなかった。しかしいくつかの穴が空いていて、どうやら蝙蝠達はその穴から出入りしている様だ。

一番大きな穴から侵入を試みる事にする。

穴の真下でゴブイチ達全員を待機させる。


穴は10メートルほどの高さにあり、誰も届きそうにない。俺は召喚した白狼の背に乗る。崖に土壁を水平に出し、足場にする。白狼は飛び上がり、一気に穴まで到着すると俺を降ろした。穴の高さは俺の背丈を余裕で越えていて、横も同じ程の丸い形をしている。ツルツルした光沢をしており、丈夫そうな壁や床だった。


俺はひとり内部に侵入する事にする。始めは下り、後はなだらかな上りとなり、ウネウネと蛇行を繰り返す道だった。俺は慎重に歩いていくが、近くに魔力は感じないので、今は敵がいないのだろう。


俺は目を閉じている。急な爆発などの光で目を傷つけない為だ。魔力の景色にはかなり慣れてきた。身体を動かすのにも問題はない。


魔力の景色の中に強烈な存在が現れてくる。蝙蝠のボスまであと少し、そんな気がするところで、俺は慎重に内部を探った。


緩い上りは終わり、そこは平な地面になっている。天井はかなり高く、30メートル位の直径の円柱の形をした空間だった。いくつもの穴があり、自由に出入りができる構造の様だ。床には魔法陣があり、天井の中央に強く魔力を感じる。


俺はゆっくりと魔法陣の中に足を踏み入れる。魔法陣の中にはプールも何も無い。俺が上を見上げると、頭上に魔力の高まりが感じられる。すると轟々と『風圧プレッシャー』が俺を押し潰そうと迫った。俺は『土壁ウォール』で半球を作り防き、奴の周りに魔法陣を描くと、魔力を暴発させる。

ドドドドドドドッ!!

爆音が鳴り響くが、一向に『風圧プレッシャー』はおさまらない。俺の作った魔法陣は掻き消され、ビシビシと『土壁ウォール』破壊しようとする衝撃が伝わる。俺は『土壁ウォール』を重ね掛けして、更に角を生やし、奴まで、最大限伸ばす。


ズドーン!


俺の角は天井に届き、円柱の空間を震わせた。


奴の魔力が広がる。天井一面が、奴の魔力で満ちる。直径30メートルはあろうか?天井全てが奴に思える。俺は『火玉ファイアボール』を無茶苦茶に打ってみたが、風の刃がその全てを切り裂いた。更に天井の至るところから『風刃エアカッター』が俺に襲いかかり、『土壁ウォール』を切り裂さこうとバチバチ当たった。更に天井が降りてくる。奴の魔力が迫って来た。


闇に包まれる。


まずいぞ、俺は奴の闇に飲み込まれ、四方八方から『風刃エアカッター』を浴びる。更にガツンと何が当たる。外側の『土壁ウォール』にヒビが入る。俺は必死に魔力を込めようとするが、二回目の体当たりによって、外側の『土壁ウォール』は破壊される。


俺は足元に土の魔法で穴を開け続ける。俺一人スッポリと収まる穴が出来ると、今ある丸い『土壁ウォール』の中にたっぷりと魔力で満たして、俺は下の穴に逃げ込み、頭の上を新たな『土壁ウォール』で塞ぐ。


奴は『風刃エアカッター』で攻撃しながら、『土壁ウォール』突っ込んで破壊した。


俺はタイミングを合わせ、丸い土壁の中の魔力を火のエレメントに変換して、爆発させる。


俺の頭上の地上は奴と共に闇を引き裂いて、渦を巻き、大炎上した。


俺は下から火のエレメントの広がりを感じて、更に魔石を込める。円柱の全体を魔力で包み、火のエレメントで炙ってゆく、魔力を限界まで高めた。


円柱の空間に火柱が上がり、闇を呑み込み、天井を焦がした。


やがて火のエレメントが消えてゆくと。


ドスンと音がして、魔石が地面に落ちる音がする。



俺は『土壁ウォール』解除して、新たに足元から土壁を出してゆき、地上へ戻った。穴は塞いでおいた。


魔力の景色は奴の魔力を映し出さなかった。


俺は魔石を回収して、プールを探す。天井が怪しそうなので、ゆっくりと土壁を出してゆき、天井まで登っていくと、逆さまに水面が揺らめいていた。


俺の魔力の爆発でもびくともしない不思議な、逆さまの不思議な、プールであった。


水底を覗くと確かにオーブがあった。

オーブは黒く、揺らめいて見える。


俺は腕を挙げて、水面に手を浸す。


《…、…くっ、…、解放…、マ…、

 かわ…、い…、》


俺の意識に刻み込まれるイメージ、俺は頭を振って現実に意識を戻す。


やはり解放という事しか、俺は読み取る事が出来なかった。進展がない事に落胆するが、エリアボスを倒す程度では、ダンジョンの奥、更に神のいる最深部の情報など得られないのかもしれない。


ふーと息を吐き、手を下ろす。


すると何かが近づいてくる足音がする。俺は魔力の景色に意識を向けるも微かな存在だった。


「いやいや助かった。蝙蝠の化け物をやっつけてくれたんだな?」


俺は目を開けてみると、円柱の空間に空いた穴の一つから、俺に話し掛ける人影が見えた。足元に階段を作り、通路を作り、人影に向かって俺が歩いていくと、人影は、目が見えないのか?穴の出口から落ちそうになる。


「ちょっと待て」


俺は声を出して、人影を止める。

足元の通路が人影の元まで繋がった。


「どうしたんだ⁉︎こんなところになんでいる?」


人影は男の冒険者の様だった。壁に手を当てて、探り探りここまで来た様だ。しかしもう一歩進むと下まで落ちて死んでいるところだ。


「蝙蝠のいる森で仲間とはぐれて迷子になったんだ。パニックになって走っちまって、頭を打ったらしい」


男は肩をすくめて、首を振る。


「気がついたら闇の中、動けなかった。でも、段々と動けるようになって、闇から落っこちたら、洞窟の中だったのさ、ワープしちゃったのかもな、ははは…。」


「目は見えないのか?」


「ああ、さっぱり。

頭を打ったのがいけなかった。

この森は神隠しや不思議な事がよく起こるんだ、生きてただけで儲けものさ」


「そうか」


「あんた魔法使いなんだろ?

凄い音がしていたぜ。

俺をニュルンまで連れてってくれないか?報酬は出せる。女が酒場をやってるんだ。絶対出せるから頼むよ!!お願いだ。」


俺は男の話に興味を持った。


「ニュルンのどこだ?」


「この森を抜けた先にあるキャンプの宿屋さ、一階が酒場で、俺の名前を出せばわかってくれるさ」


「お前の名前は?」


「俺はアベル。お前の名前も教えてくれよ」


「俺はじょ…、ケヴィンだ!」


「ケヴィンだな、覚えたぜ。ケヴィンさん助けください!この通りだ。」


頭を下げるアベルに俺は了解したと告げ、肩を貸して歩き出した。ボスいた円柱の空間の土壁は消して、ゴブイチの背中をマジックバックに手を入れて突く、頭を出してゴブイチに俺が無事にボスを始末した事を伝える。人間のキャンプまで、行ってみるので、鹿のエリアのプールで待っていてくれとお願いした。渋々ながらゴブイチは了解して退却する。マシューが俺に突撃して来るので慌てて、マジックバックから頭を引いて空間を閉じる。


アベルが何やってるのと聞いてくるので、荷物を整理していたと話す。


「ケヴィンはどこの出なんだ?」


「言わないといけない事か?」


「いや、ごめんよ。構わないさ、なんか話したい気分だったんだ」


「あゝ、分かるが、俺は苦手だ、それにまだ森にも着いて無い。魔物に襲われたくないだろ」


「すまなかった。」


「気にするな」


俺達は黙々と肩を組んで歩いた。

俺はアベルの身体を感じて、意識を入れてみる。目の神経がイカれているのを感じた。弱い魔力に合わせてみる。人間の波長を捉えてみる。俺の中のケヴィンの魔力を感じる。どうしたら人間になれるのか?魔物にはなれる。何が違うのか?弱い魔力?コイツら人間は魔力を元にしていない。魔石も無い。何が元になっている?


俺はアベルの身体の中に深く入る。記憶が流れ込んでくる。


記憶が遡って、生まれた瞬間、真っ白なに呑み込まれる。時間も空間もなく、ただ真っ白だった。

別次元。

俺は一粒になる。

星々の閃きが見えた。

無数の触手に星が吸われ、俺も引き寄せられて、やがて一つになった。


一つも、魔力のかげを感じる。

魔物のかげとは何が違う。


一つは動きがない様で動いていた。

やがてまた遡り、膨らむように離れてゆく、触手の先から放たれると星になる。一粒になると光そのもの、真っ白な世界になった。


やがて別次元。


記憶が流れ出す。時間が動き出す。

気がつくとアベルの体温を感じた。


人は魔物と全く違うはじまりを

ている。


俺はケヴィンの魔力を感じ、星を探した。星を見つけると魔力を込めるのではなく、光を見る。光が満ちる。

光が解放される力に魔力のかげを感じる。


魔力を放出させた。魔力を操作して、ケヴィンの身体を満たす。


ドクン。


ドクン。


鼓動を感じる。


生命の息吹がケヴィンにもあった。


光でケヴィンを包んで、別次元から魔力で引き込む。


俺の魔石を魔力で炙る。


俺は光の粒子になる。


ケヴィンに意識を入れて、光を放出する。


全てが真っ白になると、


俺はケヴィンになっていた。


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