第48話 演習
俺は森を歩きながら、ずっと蝙蝠の対策を考えていた。
奴等は風のエレメントに適性がある。空を自由に飛べるのは、風のエレメントの魔力によるモノか?元々の蝙蝠の能力か?
どちらも有り得るし、もしかして両方なのかも知れない。
しかし、それでは、風のエレメントの恩恵は弱い。蝙蝠エリアのボスは風のエレメントの魔力を存分に使い攻撃してくる可能性がある。
闇のエレメントはどうだろう。蝙蝠エリアの全体が闇の森と化している。ボスの支配エリアでは闇のエレメントの魔法が既に使われているのか。これは充分脅威だが、犠牲を出して体験出来たので、対策を考え易い。
千里眼で見た感じ、圧力の強い濃い魔力で覆われ、見にくくなっていた。しかし慣れると魔力の差が認識し易くなってきて、千里眼の使用は問題ない。
落ち着く事が何より大切だ。パニックにならず、闇の森に慣れる。視界は塞がれた状態だし、聴覚も影響があった。闇の森の中ではしなかった蝙蝠の羽根が、闇の森を出た瞬間ハッキリと聞こえた。聴覚に頼るのも危険だ。
千里眼、魔力を感知する練習。その中で戦える訓練が必要だ。集団で戦える様になる演習をしなければならない。
鹿エリアのプールに戻るとゴブサン達が帰って来た。
なんと二十匹のゴブリンを連れ出す事に成功した。
霧の大森林の
はじめて白狼を見たゴブリン達はびびって震えたりしたそうだが、白狼に乗せて、その乗り心地とスピードに更に驚いた様だ。
白狼十六匹の背に一匹づつ、角白狼四匹の背にはゴブサンと新入りを含めて六匹を乗せて帰って来た。ゴブリン達の顔付きもしっかりして、やる気が見える。
彼等は白狼ライダーとなり、戦術の可能性も広がる。
まずは以心伝心が使える様に絆を深める。ゴブリン達に俺との絆の気配を確かめ、魔力を通し太く強くする。ゴブリン達の魔力が満たされると完成だ。
そしてそのまま、俺の中にある土のエレメントの最小の輝きに意識を入れる。ゴブリン達と繋がったまま、世界を形作るエレメントの景色を見る。
千里眼を発動。
ゴブリン達の
そして俺は仲間達全員に千里眼を覚えさせた。視力以外の新しい感覚、魔力の見える景色を得た。それの他には、気配や絆の様な感覚もあるが、仲間達にはまだ必要を感じ無いので、保留しておく。
そして種族ごとに分け、稽古させる。
俺は勿論マシューと一緒だ。マシューを可愛がりながら親の様に気持ちになる。子ども達は可能性の塊である。大切にしなければならない。
俺の教育方針はトップダウン式だ。しかし全てを指示する訳ではない。ボトムアップ式だと経験させる時間が掛かるし、失敗かもしれない事を経験させるなど先輩の意味は無い。
科学的積み上げは大切だが、未知の分野には届かない可能性もある。前提となる積み上げたモノが間違えている事もある。
闇の森は未知の領域だ。時間の掛かるボトムアップ式でアレコレ指示しても間に合わず、混乱を深めるだけである。
だから俺は在り方を示す。
困難に立ち向かう姿を、
夢を掴む姿を、
俺じゃなくていい。ゴブリンならゴブイチが最高だ。
ゴブイチの立ち振る舞い、
組織での在り方を見て欲しい。
その美しさに感動して、
そう在りたいと夢見てほしい。
ゴブサンでも、ゴブゴロウでもいい。
そんな在り方に気付き憧れを抱いてほしい。
後は勝手に環境が育てる。体験が疑問を生み、先輩が見せたり、疑問に答えたりする。
はじめから指示し、答えを教えるボトムアップ式では先輩の範囲の答えしか覚える事が出来ないし、指示を待つマシーンの様な肉壁の魔物でいい。
体験して疑問を持つ事が大切なのだ。
アクティブラーニング。体験学習。
指示を待ち、答えを覚えるのではなく、場面により答えを導き出す。或いは、答えを自分で決める者を求めた。
正確がほしい訳ではない。自分の生死さえ通り越えて、自ら進む道を決める者。
俺は意識あるそんな仲間がほしいのだ。
マシューと遊びながらも親は妄想を楽しんでいた。勿論それだけではなく、装備の作成も行っていた。
お揃いの兜を用意した。控えめな白色の骨の兜。強度は俺の魔力で補ってある。耳は出せる仕様で、もう一つ仕掛けがついている。
新入りのゴブリン達の元へ行き、兜のサイズを調節しながら被せていく。ゴブサンの副官の様になっていたゴブリンには角付きの兜を被せている。
ゴブイチ達古参のゴブリンには今回は無しにした。二十一匹のゴブリンに配備して整列させる。
そして兜の
慌てない様、集団をまとめ、千里眼の発動をする。ゴブリン達は視力以外の魔力の景色に気付き落ち着きを取り戻す。稽古の継続をお願いして、狼達にも同様の事をする。狼達は手が器用ではないので、サンバイザーは土のエレメントで動かす。角があるので調整が大変だが、狼達は自分でなんとか出来る事が分かった。
視界を遮断した状態で、魔力の景色と仲間達の魔力が分かるまで慣れて貰う。稽古が出来る様になったら、ゴブリン達と狼達の模擬戦をする。自分の魔力の範囲で視点を自由に移動出来るので、慣れるまで大変だが、死角も減り、背後の様子も
ゴブイチ達古参は自分で目を瞑る。経験が豊かなので臨機応変に対応してもらう為だ。
模擬戦はゴブリン達がただの果実の実を投げ。狼達は躱し、接近する。当てられた狼は退場し後方からのやり直しだ。
何度か繰り返す内に角白狼はゴブリン達を飛び越える程の適性を見せた。
みんな千里眼の習得が出来た様だ。
いよいよ部隊の編成に取り掛かる。
ゴブイチに向いて頷くと、ゴブイチが編成をしていく、俺は編成をゴブイチに丸投げした。
だって俺、指揮するの苦手だから、
ボスとガチンコして勝つのが役目だし、ゴブイチのやりやすい編成にしてもらう。
俺に一匹の角白狼が来る。ゴブイチ、ゴブサン、ゴブゴロウにも角白狼がついた。ゴブサンの副官にも角白狼をつける様だ。
ゴブイチに三匹の白狼か来る。
ゴブサンとゴブゴロウに十匹づつ白狼をつける。
残りの一匹はゴブサンの副官に預けた。
ゴブサンとゴブゴロウに十匹づつのゴブリンをつけ、白狼に騎乗させる。
ゴブイチを中央に右にゴブサン、左にゴブゴロウ、副官を遊撃隊もしくは戦力の補強、サポートとする様だ。
俺とマシューはゴブイチに加わりながらも自由に動く、マシューはマスコット的な役割が自然に出来上がる。
合図で全員がサンバイザーを降ろす。ゴブイチ達古参は目を瞑り、狼エリアを目指して行軍する。副官は先に行き、索敵などが役割だ。後の者達はゆっくりと進んだ。
適当に狩りなどをして、千里眼を用いた戦いに慣れていく。
その間、俺は武器や防具を新たに作成するのだった。
マシューはなんのこっちゃ分からないまま素直に着いて来た。
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