第46話 意志
鹿エリアのプール。
俺は澄んだ水底のオーブを見ていた。
その光は小さいながら強く輝いていた。
狼エリアのオーブが
俺の変なテンションで撃った
『
逆に鹿エリアのボスは、俺の災難を逃れ、無事だった為、強く、オーブも小さいが輝いている。
俺の見た中で一番大きなオーブは、やはりゴブリンの祭壇にあったオーブだ。全てを癒し、導くような力強い輝きを放っていた。
鹿エリアのプールで俺は何を感じ取れるのだろう。
オーブが浸った水に俺は手を入れてみる。
《…、…くくく…、解放を確認…、》
まだノイズが酷い状態だか、鹿エリアの解放は出来たようだ。
俺は改めて、魔石集めと、オーブからの情報を集めてみる事を目的とした。
では、次のエリアだが、蝙蝠となると飛んでる奴だよな、剣などでは届かない可能性もあるか?魔法も避けられたら嫌だな。
物理攻撃は弱そうだが、魔法のある世界だから油断は禁物。
まずは戦力の補強をするか、俺はゴブサンを呼んでゴブリンを集めるだけ集めてもらうよう指示を出す。
俺は自分の魔力が回復したのを確認した。
周りを見てると、やっと目覚めたマシューがゴブイチに遊んでもらっている。
ゴブゴロウは十匹の大狼達と訓練の真っ最中、残りの狼達はゴブサンに率いられ去って行った。
ゴブゴロウの狼達の中に角付きが一頭いる。その狼は『
マシューは目を覚ますとすぐに不自由する事無く歩き出した。俺を見る眼差しは鹿王のように、スッキリとしていながら、どこ見てるの?と感じがしている。不思議な奴だ。まだ角は無いが、魔法は撃てるようだ。火と土の魔法使えると思うが、試してくれないのでわからない。
マシューは果実を食べる。特に俺が魔力を込めた果実を好んで食べる。何処に入るのか?沢山の果実を食べる。鹿も胃袋が四つあるからなのか?いつの間にかモグモグと口を動かし、とても可愛い。果実は森のそこらじゅうにあるので、暇な時は見つけ次第、必ず取る様にしている。
マシューは食べ物を催促する時と食べる時と、寝る時は、いつも俺と一緒にいる。
後はゴブイチに遊んでもらったり、適当に過ごしていた。
ゴブイチはマシューが気に入った様子で、世話をしている。背丈が自分の腰辺りしかないマシューだが、なんとか抱っこ出来ないものか試行錯誤を繰り返している。マシューが嫌がるので成功はしていない。
ほのぼのとした時間を楽しむ。
俺はしっかりとその風景を記憶して、目を瞑る。
体内の魔石を感じる。
腹の底の魔力で魔石を
魔石は限界を越えると爆発した。
俺の身体は光の粒子になってゆく、
魔石の中に入り魔力を集める。
魔石に充分な魔力が溜まると、
光の粒子が形作られてゆく。
そそくさと、服を着て、左の腰に黒剣を
俺はゴブリンのジョエルに戻った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
ゴブサンは森を駆けていた。
眉間の間から角の生えた白狼に
樹々の隙間をスレスレに、鹿を飛び越え、茂みをブチ抜き、走る事一時間が
ゴブサンは慣れない強行軍の演習に内心へばっていたが、白狼達のスタミナには余裕がありそうなので、感心した。
目指すは、ゴブリンの集落、故郷の様なところだ。
ゆっくりした足取りで白狼達の集団が進む中、ゴブサンは少し昔の事を思い出していた。
ゴブサンは背の低いゴブリンだった。気がつくと集落で、寝泊まりするゴブリンの一員になっていた。狩りに参加出来なければ飢える事は
適当な時間にやって来るホブゴブリンは嫌な奴だが頼りになる。奴の目に留まろうとぴょんぴょん跳ねるが、体格のいい気合いの入ったゴブリン達に先を越されてしまった。
腹は減っているが、残っているのは弱者ばかりで当てには出来は無い、かといって一人で狩りに行っても死ぬだけだ。それならばここで死んでしまえばいい。誰かの餌になるのだから。水でも呑んで寝てしまおう。次の機会には必ず連れてってもらう。
なんだか騒がしく、気になって目を覚ますと、ゴブリンマジシャンの様な奴が俺達を連れて行くみたいだ。ゴブリンマジシャンがここに来る事などほとんど無い。そもそも見るのが初めてだった。しかし上位種は威圧を使うので、逆らえない奴という事は丸分かりだ。だがコイツは馬鹿なのか?覇気も何も感じ無い。本人はやってるつもりの様だが出鱈目であった。
どうするか戸惑うゴブリン達に、俺は
やはり馬鹿だ。自分の選んだゴブリンも分からない。頼りにならないが飯が食えればなんでもいい。なんとかして飯だ。後はどうととでもなれ!
目的も分からず十匹のゴブリンがダラダラついていく。
奴はジャングルの手前に差し掛かると紙を広げた。
俺達はなんでもいいから早くしろと思うが、一応奴は上位種なので逆らえない。
俺は初めて奴の顔をマジマジと見た。
赤ら顔にアンバランスなデカい鼻、不細工だった。
奴は紙をしまうと右手の先を指差した。
やっと動き出した俺達はもうウンザリしてついていく、しかし前は俺達だった。
お前が狩りをしろと思ったが、しぶしぶ従った。
俺は後方、ゴブリンマジシャンの更に後ろ、ギリギリ、ゴブリンマジシャンの目の届く範囲で歩いていた。
これはいよいよ当てにならない、俺は死なない様にあばよくば死んだゴブリンの手足の一本でも盗んでやろうかと考えていた。
その時、いきなり奴は背後からゴブリンを斬りつけた。唐突の乱行に唖然とするゴブリン達。俺は奴の背中を凝視した。仲間の表情も語っていた。コイツ絶対ヤバイ!!何が気に入らない⁉︎話してもいない⁉︎遅れてもいない⁉︎何故殺されなければならないのか⁉︎考えていてはダメだ!!
やらなきゃ殺れる。
俺達は前方に注意を向けながら、絶えず後ろの狂人の気配を探った。
それからのゴブリン集団は、誰も話さず、振り返らず、只、目的を達成するマシーンの様な、一匹の獣となる。
しかし、喰わせてくれた。更に休ませてもくれた。狩りは精度が上がり、危険も少なくなった。飴と鞭で俺達は強者になった。
そして少しの足の速さだけで選ばれた囮、俺は少しも怖くは無かった。何故ならばゴブシロウ、ゴブゴロウが待っている。横にはゴブニンがいる。奥にはゴブイチが控え、俺達の大将がいた。俺は名前を呼んで貰えたのだ。ゴブサンと。何を恐れる。名こそ全て、名前があるから俺なんだ。魂の重さを感じる。名前によって死が終わりでは無くなった。名前によって絆が深まった。名前によって頼れる仲間が出来た。俺は今から始まる未来があり、永遠に残る名があった。俺はゴブサン。
恐れ知らずで挑んだ。狼王戦。快調に進んだ皆んなの足が止まった時、ゴブニンと目が合った。
《お前だ。》
集団の声?ゴブイチの声?誰かの声が確かに聞こえた。
ゴブニンが狼の頭を踏み台に飛び去った。地震が来て治るとゴブリン達と目が合う。
《お前だ》
また声が聞こえる。わかる。一瞬で言わんとする事が俺達にはわかった。
ゴブリン達は名無しだが、通じた。今まで一緒にやって来て仲間だ。あと少しで名を貰えたであろうゴブリン達は迷い無く、最後の最後まで戦い死んでいった。
そしてゴブニンが死んだ。
狼王まで後少し、
ゴブシロウが下がる。
《お前だ》
また声だ。
ゴブシロウはもう走れなかった。一振り一振り、渾身の力で振り抜いて、敵を退け活路を開いたのだ。身体を張って、傷ついても前に出るのがゴブシロウの役目だった。ゴブイチもゴブゴロウも走れないのはわかっていた。しかし誰もそんな素振りなど微塵も見せなかった、ただ大将を前に進めるそれだけが俺達の役割。ゴブゴロウは狼達の的となり、俺達を行かせてくれた。最後の微笑みは最高にいい男だった。
俺達の大将はやってくれた。いつも大将は成し遂げる。道を開く。
俺は大将の俺達が見えない遥か遠くを見据える眼差しが好きだった。
そんな大将が、狼王を倒して以来、下を向いている。プールに腰掛け項垂れている。
わかっている大将が一番大変な事も、全てを背負わなけれはならない事も、でもそんな大将を俺は見たくない。
俺は大将に歩み寄る。
ゴブイチが殺すぞ、視線を飛ばした。
殺してみろと俺は無視する。
俺は大将を見て、
脛を軽く蹴った。
大将は俺を見る。
俺はただ微笑んだ。
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