第44話 鹿王
ネイムドを倒した俺は、良質な魔力の影響で魔石の格が上がっている事に気がついた。
何度もゴブリンの時に進化を経験し、人間の魔力もゴブリンの魔力をも持つ狼の俺は、狼の魔石の質を変化させる事も可能な様だ。
仲間達との絆に魔力を注ぎ込む。大狼達は輝き始め、光りの粒子になると収縮して、真っ白な狼、白狼に変わっていた。更に五匹の眉間には一本の角が生えていた。
俺の与える影響で、普通の狼達とは別の進化を始めてしまった。大きさは狼と大狼の中間くらいに小さくなってしまったが、力強さ、スピード、魔力はネイムドクラスの狼の同じ程のレベルを持っている。
そして角の生えた狼は、俺の遊び心が生み出した理想が、現実の進化の道になってしまった。角狼の魔力は戦ったネイムドを越える程に感じられる。
ゴブサンやゴブゴロウも魔力の量が増えている。
ゴブイチに
魔法は、杖で練習しないと危ないし、難しいんだよなぁ。と、思った俺は杖が作れないか?考える。
大鹿の角は魔力の結晶の様な輝きに溢れていた。加工すれば杖は作れないだろうか?
俺は大鹿の大きな角を取り出して、角の中に意識を入れる。膨大な火のエレメントの陰を感じる。下手をすると辺り一面火の海して焼け焦げて死ねる。
俺は慎重に土のエレメントの魔力を混ぜていき、馴染ませる。馴染んだら、外側に土のエレメントをコーティングする様に覆ってから形を棒状へと変えていく。2メートル以上の赤い棒が出来上がる。
ゴブイチを呼んで、棒を握らせた。
ゴブイチ自身の魔法のイメージと重ねていった。棒が真っ直ぐに伸びていく、ゴブイチにあった長さ、太さ、大きを試行錯誤して決めた。不要な部分は切り離してゴブイチに確かめて貰う。
何か危険な感じがするので、鹿の骨にも魔力を通し加工して、棒を
骨と棒を馴染ませ、一体とすると、再度、ゴブイチに持たせて調整する。
そこには魔力が暴走しない様に真っ白くコーティングされた杖が出来上がっていた。真っ赤に輝く六角柱の頭は先端が尖り、柄の部分は真っ白な円柱の60センチ程度の杖が完成した。
ゴブイチにはまだ魔法は撃たないで、魔力を馴染ませる事を指示する。
ゴブイチのベルトの右に杖を入れる筒を用意して渡すと、ゴブイチは何度も筒から取り出して振り始めた。
まあ、馴染むならいいだろう。
ゴブリン魔法部隊の夢が叶うかもしれない。
残った火のエレメントの棒は、豆粒程に丸めて何個も作った。それを『魔球』の核にしてみると、燃えながら進み爆発する『
魔法はタメが必要なのか?魔力の起こりが感じられ、慣れると躱すのも容易いが、これならば、魔力の起こりも無く、当て易い、少量の魔力しか使わないので、ゴブサンにピッタリの武器になる。名前は『火球』でいいか?分かり易さで決めた。
ゴブゴロウにも考えたが、槍があるし、盾に仕込んだら、『火壁』になるかもしれないが、魔力で暴発して火の海になったら大変なので、保留。投げ槍を増やしておいた方が良い。サービスで投げ槍の一本に仕込んでみた。
びっくりドッキリサプライズだ。
粗方、準備も整ったし、奥に進む。
鹿エリアには大鹿がたまにいるかどうかで、ほとんどが通常の鹿の集団だけだった。俺達は難なく突破して、鹿エリアの中央、プールを目指す。
魔力の濃い森の奥に進むと、やがて森は林になり、草原になった。
草原には岩が均等に並び、円を描く。
狼エリアとほぼ同じ様子に俺は少しホッとした。多分、以降のボスエリアも同様なのだろう。対策が立て易い。
千里眼で見ると、大きな魔力が一つだけ見える。俺が狼エリアを解放した事で、称号の様なモノを得たのか?鹿のネイムドとその群れを退けた所為なのか?それとも別の理由があるのか分からないが、有難い。
俺は仲間を岩の手前で待機させ、一人でボスの待つ、決闘の場に向かう。
俺の見た目は、真っ白な子狼のまま、特徴は魔力の高まりで輝く眉間の角とややデカい鼻。しかし、人間の身体とゴブリンの魔石を持つ特異者だ。解放者としての実績もある。
仲間達もいる。鹿王だとしても、負ける訳にはいかない。
俺は美しくそこに有った。
鹿王も近づく程に、実力が分かった。
夢で見たそのモノでは無いにしても、気高く、
立っている姿は、ネイムドの倍、ゴブゴロウが見上げた鹿の二倍も大きな鹿だった。
大きさは力でもある。次元の違いが、近づく程に恐れを俺の中に生んでゆく。
白い艶やかな毛並みに覆われ、バランスの取れた角が掌の様に広がっていた。角から湧き出る魔力のオーラが景色を歪ませる程、溢れていた。
瞳はスッキリと迷い無く、俺を通り越している様で、過去も現在も未来までも俺の全てを見透かしている様だった。
勝てるのか?俺の中に勝利への疑惑が芽生えるが、そのイメージを端から燃やし消し去った。勝つのだ!
俺は雄叫びを上げる。
魔力が溢れ、炎となり俺の身体を焼く!毛が逆立ち、武者振るいする。完全に炎を制御すると、炎は俺を癒し始める。清々しい冷たさを感じると、炎はおさまり俺の力となった。
俺は爆破した様に飛び出し、鹿王に突貫する。
鹿王を捉えたと思ったが、その身体を擦り抜ける。鹿王は残像を残し、一瞬で消えた様に見えた。しかし、散歩する
少ししか動いていない鹿王は、魔力を高める。鹿王を中心にして炎が
俺は呻き声を上げ、
必死に丸い『
鹿王の周り30メートル四方は炎に巻かれ、熱と光で目も開けられなかった。
千里眼で鹿王の輝く強い魔力が感じられる。俺の魔力だって負けてはいない。いないのだが、炎の扱い、経験の差が大きく俺に立ちはだかる。俺も魔力を高め、『狼牙』を鹿王に向けて撃つ!まるで見えていたかの様に
辺りは変わり果て、草原は真っ黒になっていた。
目なんて使って見ていたら、こんな化け物相手に出来ない!!
鹿王の様子が変わる。魔力が身体の中心に集つていく、魔石が魔力で炙られて、弾けた。光の粒子になってゆく、炎のエレメントが鹿王自身に形作られ、炎が解放される。
まずい⁉︎まずい!!
『
ジョセ翁の『
炎になった鹿王は物凄い速さで追い縋ったが、知能は低下したのか?上手く、召喚した俺の分身に惑わさせてくれた。なんとかかんとか逃げ回っていると『火鹿』モードは終わり、命拾いする。俺も何度、分身を出したか分からん位、召喚した。
俺と鹿王はお互いかなりの魔力を消費したようだ。鹿王もあんな無敵モードの隠し玉を持っているなんて、制限時間が無ければ死んでた。
俺と鹿王は足を止め睨み合い、次で決着をつける事を悟る。
俺は鹿王に駆け出した。
鹿王は『
俺は千里眼で気付くと、
位置を定め鹿王の『
俺の角で突き刺す動きを感じ、鹿王は『
俺は丸い『
鹿王は『狼牙』を難なく躱す。俺は有りったけの魔力で、始めの『狼牙』のから更に『狼牙』を出し、鹿王を切り裂いた。
『狼牙』二段活用を決めた。
鹿王は腹部に深い傷を受けながらも、
美しく散っていった。
大きな魔石だけを残して。
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