転生
第10話 ゴブリン
黄色く濁った光を放つ鋭い目、
隙間だらけの歯と大きな口、
緑色の皮膚にガリガリの手足、
細身の身体に釣り合ない腹と頭。
ゴブリンだ。
今そんな奴等が目の前にいる。弱い魔物なのだが、集団となると強靭な顎と握力で獲物を引き裂き、あっという間にバラバラにする。
更に不器用ながら武器も使用し、狩もする。未熟な冒険者にはなかなかの強敵だ。
頭が悪く「ギア」としか話せない。
周りには、なんだなんだと押し寄せてきたゴブリン達の喧騒に包まれている。
自分と目の合ったゴブリンが、
「ギァァ?」
と、尋ねて来るので、
「ぎぁ」
と答えて首を振る。爪先で軽く蹴って来るので、立ち上がると手を貸してくれた。左腕を痛がる素振りをすると、壁側に案内してくれ、
「ギア」
と言い、立ち去った。結構いい奴かも知れない。
「ぎあ」と礼をしてみた。
この格好ではまずいと思い、ローブで隠しながら靴とズボンとシャツを脱ぎ裸になる。流石にパンツとベルトは勘弁だ。
「ボン!!」と何が爆発した。
立ち上がり様子を見てみると、さっき倒したデカ鼻の杖を拾った馬鹿が、火の玉を打つ真似をして暴発させたようだ。杖を掲げたまま頭が吹き飛んでいた。
ジュル、自分が唾を飲み込んだ音がした。気配が変わる。先程の弛緩した空気から一変、戦場の緊張感が全体を包む。死んだ仲間も餌に違いない。餌はゴブリン同士平等!つまり早い者勝ちである。食べたい衝動はあるが、瞬く間に処理される姿に冷静さを取り戻せた。
次は?と考えると、のたうち回るゴブリンに目がいく、まだ死んではいない。いつの間にか?全員の視線が集まる。しかし手を出そうとはしない。何かルールというか?縛りというか?越えられない境界がそこにはあった。
そのラインを越えて来る者達がいた。おもむろに棍棒を振り上げ、躊躇いもなく振り落とす。仲間だった者が餌に変わる。周りのゴブリンは固まった様に動かない。異様に静かな食事会が始まる。肉を引きちぎる音、くちゃくちゃ咀嚼する音だけが洞窟に響く、それは絶対に逆らえないゴブリン達の鎖。上位種との壁であった。
二匹のホブゴブリン達の食事を固唾を呑んで見守る中、先程戦いで、ゴミ捨て場まで自分を吹っ飛ばしたホブゴブリンは、まだ諦めきれないのか?辺りを探し回っていた。
「ギア」
そのホブゴブリンに声を掛けられる。しまった⁉︎ローブを羽織ったままである。取り逃した獲物のローブを羽織っていれば気が付かない訳がない!
恐る恐る振り返れば、血走った目で、掴みかかるホブゴブリンが目の前にいた。
「ぎあ?」
ホブゴブリンは襟元を掴み、いきなりローブを剥ぎ取った。
そこにはガリガリの身体にブカブカのパンツだけを履いたゴブリンがいた。
思わず片足を上げ股間と両手で乳首を隠す姿に周りのゴブリン達が大爆笑した。
ホブゴブリンは口元を歪め馬鹿にした様な溜め息を吐くと、爪先で腹を軽く蹴ってローブを投げつけ去って行った。
仲間のゴブリン達に笑われる中、ローブを羽織り直した。緊張して肺に詰めていた空気を鼻から吐き出す。
そうして俺のゴブリン生活が始まった。
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