第3話 学園の寮に入って友だちが出来ました
その後が大変だった。
慌てた先生たちや警護の騎士たち、野次馬が飛んできた。
真っ青になった私は別室に連行されて、延々2時間、このような狭いところで障壁を展開してはいけないとお説教を食らった。
入試でお説教を食らうとはどういう事だ・・・・・
入試史上初めてらしい。
もう確実に終わった。
もう母がいなくなった後にハンスと二人で店をやっていくしか無い。その計画を立て始めた時だ。
絶対に入試は落ちただろうと思っていたのだが、何故か合格通知が我が家に届いたのだ。
受かった理由が判らなかった。
入試の様子をカートに話したら爆笑されて私はムッとした。
「酷い!こうなったのも元々、カートが『ポーション持って行ったら確実に受かる』って言ったのに、面接官が『これは母が作ったに違いない』と言って受け付けてくれなかったからじゃない」
私が怒って言うと
「ゴメンゴメン。リアのポーションがあまりにも素晴らしすぎたから、リアが作ったって判らなかったんだよ。君がそこまで優秀だとは思ってもいなかったよ」
笑いながらカートが謝ってくれたが、私は許せなかった。
「だから悪かったって。お詫びに月見草取りに行くのまた手伝ってあげるから、それで許して!」
私はカートのお願いには弱い。つい口調も優しくなったが、
「それだけじゃ嫌だ。王都で美味しいケーキの店が出来たって言ってだでしょ。そこにも連れて行ってくれなきゃ許さない」
「判りました。お姫様」
うやうやしくカートが頭を下げるのを見て、私は仕方無しに許した。
カートに連れて行ってもらったカフェのケーキはとても美味しかった。
そして、明日は入学式だ。1日前に私は寮に入るために学園に来ていた。
王立学園は全寮制で寮は学園の敷地内にあり、男女別、原則貴族平民別になっていた。
男性は女性の3倍いて女子寮は貴族平民同じ建物に入っていたが、貴族は基本最上階が充てられており、私達平民はその下だった。
受付でもらった私の部屋は2階の端の方だった。
部屋の扉に鍵を挿して開けようとした時に、隣の部屋の赤髪の女の子が顔を出した。
「こんにちは。隣の部屋のベッキー・ヨークよ」
女の子が手を差し出した。
「オーレリア・チェスターよ。宜しく」
私もその手を握り返す。
「夕食が18時からなの。一緒に行かない?」
「わかったわ。2時間後ね」
私は頷いた。
私はダンジョンに薬草採取とか冒険者みたいなことをしていたし、薬屋の客も冒険者とか男の人が大半だったので、同年代の女の子の友達がいなかった。学園に来れば同年代の女の子の友だちが欲しいと思っていたので、仲良く慣れたら良いなと思いながら部屋に入る。
部屋はそんなに広くはなかったが、シンプルな作りでベッドが上で下の机と一体化していた。
私は寝相がそんなによくないので、上から落ちたらどうしようと少し不安だったが、柵がしっかりしているみたいだし、問題はないだろう。
ロッカーには制服が2着きちんとかけてあった。
持ってきた衣服をロッカーとタンスに入れる。そんなに持ってきていないが、
大半は制服で過ごす予定なので、問題ないだろう。
足らない分はおいおい買い足せばよいかと思った。
18時前にノックの音がした。
ベッキーともうひとり、ベッキーの隣の子でエイミー・ガーランドが訪ねてきたのだ。
3人ともクラスは同じAクラスみたいだった。
そして、なんとベッキーの家はお貴族様で男爵家でヨーク商会の令嬢だったのだ。ヨーク商会は王都で手広く商売をしているみたいで、よく見ると来ている普段着の服装からして高価そうだった。ジャージ姿の私とはぜんぜん違う。
「凄いじゃない。男爵って。なんでお貴族様がこのフロアに居るの?」
私が聞くと。
「何言っているのよ。男爵家なんて貴族の下っ端で、500家もあるのよ。うちは領土もないし、3家しか無い公爵家や7家しか無い侯爵家ならいざしらず、男爵家なんて貴族の中でも底辺よ」
「そうは言うけど、人口の大半は私みたいな平民なんだから、男爵家って言うだけで凄いわよ。ねえ、エイミー」
「本当よ。うちは王宮魔導師の家だけど爵位なんて無いし」
エイミーの方は王宮魔術師の家系だとか。しがいない街の薬屋の我が家とは違うみたいだ。やっぱり王立学園ってそう言うハイレベルの人が来るところなのだ。私は少し居心地が悪くなった。
「それよりも、あなた、オーレリア。父から聞いたわよ。入試の時の騒ぎ」
「えっ、何々、何やらかしたの」
エイミーの父も試験官に呼ばれていたみたいで、私のやらかしたことを聞いていたみたいだ。
私が障壁で面接室を破壊した事を聞いてベッキーは爆笑していた。何もそこまで笑うこと無いのに。
私は少し不機嫌になったが、ベッキーとエイミーとは友達としてやっていけそうだと思った。
エイミーによると先生の間で私についた渾名が破壊女なんだとか。
私はそうつけたやつは殺すと密かに決心した。
食堂は男女同じで、凄まじく混んでいた。何しろ600人くらいの人がいるのだから。
定食が魚か肉で別れていて私達は肉定食を頼んでいた。
セルフ形式で、トレイを持って端の校舎のほうが見える席に陣取る。
「でも、Aクラスで良かったわ。今年は第二王子殿下がいらっしゃるからSクラスは女の争いでギスギスすると思ったから」
ベッキーが食べながら言う。
「えっ、どういう事」
私が聞くと、
「アリスター王子殿下が同級生なのは知っているでしょう」
「そうだっけ」
私はあんまり関心がないので、王子が同学年だとは知らなかった。
「本当にリアは世間知らずね」
「そんな事ないわよ」
ベッキーに言い返すが、二人は首を振って教えてくれた。
なんでも、今年は王族がいるのでSクラスに貴族を集めて、残りは成績順でAクラスからEクラスまで分けたそうだ。
「じゃあ、私の障壁が認められてAクラスになったのかな」
私は別の事で少し喜んで言った。Aクラスって事は平民で言えば一番上のクラスだ。
「まあ、障壁で教室壊せるのはあなたくらいだから」
ベッキーは容赦がない。
「あなた、学力も良かったはずよ。あなた帝国語完璧でしょ」
「えっ、なんで知っているかな」
「父に少し聞いたのよ。あの子は魔力の多さだけじゃなくて優秀だって」
「でも、あなた達には負けると思うけど」
何しろこの二人は一般入試でAクラスなのだから。
「でも、父からは怒られたの。Sクラスにならなかったからって」
「それは王子と仲良くなれってこと」
「そうよ。仲良くなって王家に食い込めって。それにまだアリスター王子殿下には婚約者がいないからお前も頑張れって、もううるさいのなんの」
ベッキーが愚痴った。
「ベッキーは可愛いしお貴族様だから可能性はあるわよ」
「無い無いって。貴族といっても底辺の男爵よ。成り上がり男爵家って言われているのに」
なんでも、ベッキーの家はベッキーの祖父の代に男爵位を買ったのだとか。貴族の地位が買えるなんて思ってもいなかった。
エイミーの言葉にベッキーは否定するが、男爵様はれっきとしたお貴族様だ。まあ私は王子には興味はないし、平民の私が王子の婚約者になる可能性はゼロだが、男爵家のベッキーには少しでもあるのだ。
「へえええ、で、その王子様ってどこにいるの」
私はきょろきょろ周りを見まわした。
「何見てるのよ。貴族様は貴族寮の3階に貴族専用食堂があるのよ。そこで食べているからここにはいないわ」
ベッキーが笑って言った。
そう言えば高価な服着ている人が少ないと思ったのだ。私みたいなジャージ姿の男もちらほらいる。流石に女の子はいないみたいだが。貴族なら普段着とは言えどももっと着飾っているはずだ。
「なんでベッキーはそっちの食堂に行かないの。王子様捕まえるなら絶対にそっちよね」
私が言うと
「そんなところに行ったらおちおち食事も楽しめないじゃない。こっちのほうがよっぽどマシだし楽よ」
ベッキーは平然と言いきった。
まあ、ブライト王国は800万人の農民が食料を作り、30万人の商人や20万人の私を含めた工人が支えている。兵士達も20万人がいてその家族も含めると140万人。全人口の大半を平民が支えているのだ。貴族と呼ばれるものは0.1%の1万人もおらず、貴族の家の数は千家もなく、男爵家500家、この中にベッキーの家も含まれているが、子爵家200家、伯爵家50家、一番上辺の侯爵家は7家、公爵家は3家しかない。凄まじいピラミッド社会なのだ。
最高峰の王族なんて10人もいない。その希少種の第二王子がこの学年にいるのだ。ちなみに第1王子は3年生におり、生徒会長をしているのだとか。
お貴族様からすると娘を王子様の婚約者にするということは凄いことなのだろう。将来的に王の義理の父となり外戚として力をふるえるかも知れないのだから。少なくとも何らかの恩恵はあるはずだ。皆が必死になるはずだ。
まあ、平民の私には関係ないが。
せっかく学園にいるのだから、第一王子は無理でも同学年の第二王子とは一度くらい話してみても良いかもと私は思った。冒険者の皆に自慢できるし。
それ以上に王子とこれから関わることになるなんて、この時は夢にも思っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます