好きになったイケメンは王子様でした~失恋から始まるシンデレラ物語・悪役令嬢もヒロインにも負けません
古里@3巻発売『王子に婚約破棄されたので
第1話 プロローグ 入学試験でやってしまいました
私の名前はオーレリア・チェスター、もうじき16歳になる。この国ブライトン王国は、16歳から18歳までの3年間、貴族は王立学園か王立騎士養成校か淑女学園に通うことになる。
貴族なら、よほどの事がない限りそうなる。
しかし、平民の私は決してそんなことはない。
そして、多くの人は当然平民なのだ。お貴族様なんて千人いたらやっと一人いるかいないかだ。
大半の平民は16歳の時には働いている。
そして、国民の大半は平民であり、物心ついた時には家の手伝いをさせられている。
私の実家は薬屋をやっており、私も物心ついた時から薬を作るのを手伝わされていた。今では大半のポーションは私が作っている。
母アリシアは、本人が言うには高名な薬剤師なのだが、最近は私から言わせればサボり気味で、大半のポーションは私が作っており、傷薬等は母の弟子のハンスが作っていた。
「さすが高名なアリシアさんが作ってくれただけあってよく効いた」
「もう、アリシアさんのポーションがなかったら死んでいたところでした」
冒険者とか怪我した兵士とかが喜んでお礼を言ってくるが、私から言わせれば笑止だった。
私が13歳になった時に
「あなたもこれで一人前になったからポーションくらい自分で作りなさい」
って母に言われて最初は喜んで作っていた。私はわりと単純作業が好きでコツコツ作るのも苦にならなかった。でも、それが母の作だと言われるのがなんとも癪だ。
母は私に作らせておいて最近は遊び放題なのだ。
勝手にダンジョンに潜るわ、男をひっかけてくるわ、病人を担いでくるわでその世話をするのは私達になってしまう。
おかげで、私のポーションを作る腕前は、母には劣るがそんぞょそこらの店のポーションには負けないと思える物を作れるようになった。料理なんかは母をはるかに超えて出来るようになった。
最も母は料理は焼くことしか出来ないし、こだわりもないから料理を作ることでは端から敵ではなかったのだが。物心ついた時から私が食事は作っていたし・・・・。
しかし、母の薬を作る腕前は素晴らしく、私はまだまだ及ばなかった。
母のポーションは大げさに言えば死人さえも生き返らせるが、私は腕一本の欠損を直すくらいしか出来ない。
この差はでかいとカートに愚痴ったら、腕一本の欠損を直せるだけでも凄いことだと褒められて、ちょっと嬉しかったのは秘密だ。
そう、そのカートに
「16歳になるなら、王立学園の入試を受けたらどうだ。リアなら必ず受かるさ」
とおだてられて、受けるだけは受けてみようと思ったのだ。
でも、王立学園は王国一の学問の砦、私なんか受かるわけはないと思っていた。
定員は240名。うち貴族の枠が80名だ。残りはたったの160名。
160名も受かるんだろうって、思うかも知れないが、何しろ同学年の平民の数は20万人もいるのだ。合格率は1250分の1だ。貴族は半分くらいは受かるみたいだが、平民には厳しい、それが身分社会なのだ。
カートによると「君のポーションは素晴らしいからそれを持っていけば一芸入試で受かるよ」
と言われたので、そうすることにした。入試科目は帝国語、数学、生物、化学、詩歌、歴史の6教科、後は魔力量と面接だ。
ある事に特化して素晴らしい実力を持っている者には、学園もその門戸を広げるらしい。
とても優れたものには1芸で受かるという制度があるみたいで、王子や公爵令嬢はその存在自体で合格が決まっているのではないかと勘ぐってしまいそうないい加減な入試制度だ。勉強では到底勝ち目はないと思ったので、私はカートの言ってくれたように一芸入試にかけようと思った。何しろ私の年でポーション作れるやつはまだほとんどいないみたいだし、カートが受かると言ってくれたのだから。
ちなみにカートは来年は王立学園の3年生になるそうで、在校生が言うのだから受かる可能性があるのだろうと私は思った。それにカートと一緒に学園に通える。そう思うと少し嬉しくなった。カートは今はまだ私の事が妹扱いだが、いずれは私も女らしくなってやるんだから。
飲んだくれていた母はそのカートの横で、もし駄目だったらその面接官の見る目がないので、ちゃぶ台返しの要領でその場で障壁を展開しろとかなんとか言っていた。
そんな事母じや無いんだから出来るわけ無いだろう。そもそもちゃぶ台返しってなんだ?
しかし、「このポーション、そんじょそこらの店では売っていないし、これだけで絶対に通るさ」という、カートの言葉を信じた私が間違っていた。
「チェスターさん、あなた、お母様が高名なアリシアさんですよね」
魔導師と思しき面接官のおじさんがポーションの蓋を開けて香りをかぎながら訳知り顔で言った。私は不吉な予感がした。
「はい、そうですけど」
「ズルはいけませんな。これは母上が作られたものですよね」
「いえ、母には一切手伝ってもらっていません」
私は必死に否定したが、3人の試験官は認めてくれなかった。
ええええ、そんな・・・・・・
私は焦りに焦った。
母はカートに騙されて、私が受かるのは当然と思っていたし、私が学園の寮に入れば店をしばらく閉めて諸国漫遊の旅に出ると早速計画を立てていたのだ。私が落ちたとしても見捨てて一人で行くのは確実だ。家には預金なんてものはほとんどなく、下手したら餓死して野垂れ死んでしまう。私は考えなしに次善の母のプランに従うことにした。
「では私のもう一つの得意技をお見せします。それなら文句ないですよね」
「どうぞ。どうぞ。今度はズルは無しですよ」
もうひとりのグリフィンと言う騎士の先生が馬鹿にしたように言った。
私はムッとしたが、ここは我慢だ。
「判りました。では」
私は障壁を母に言われたように最大出力で放出した。
「当然学園の先生は魔力も強いから最大出力で放出しても全然問題ないわよ」
と言う母のアドヴァイス通りに。
しかし、魔導師のおじさんも油断していたらしい。私の障壁に反応する前に、障壁に弾き飛ばされたのだ。私の障壁を何の防御もなく放出するとどうなるか。私は障壁の魔術だけは自信があり、いまだかつて破られたことはなかった。その障壁を最大出力で放出すると・・・・
一瞬にして面接室の壁が吹き飛び、廊下で待っている受験生を巻き込みながら、廊下の壁をも軽く突き破っていた。
面接室の壁は跡形もなく吹っ飛んでしまったのだった・・・・・
嘘ーーーーー
私は呆然と立ち尽くすしか無かった。
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