第19話「謁見」

アーチ状にできた高い天井に大理石の壁を彩るきらびやかな装飾、そしてどこまで続くんだろうと思うような長い廊下。

まさに写真や動画で見た北欧のお城という感じだ。

私は陽宝院君に連れられてダルウェイル国の国王のお城へとやってきた。

私にとっては、はじめてとなる国王様との謁見。

謁見の間に辿り着くと、巨人が飛び出てくるのではないかと思ってしまうほどの大きな扉が待っていた。

左右に立っていた近衛兵たちが私たちの姿を見るなりゆっくりとその扉を開きはじめた。

まばゆい光とともに扉の向こうから見えてきたのは一本の道のように長く真っ直ぐ敷かれた赤い絨毯。

その先に一段高くなったひな壇があり、その上には金の装飾があしらわれた高貴な椅子が置かれている。

中へと通された私たちはひな壇の前へと進み、膝をついて、かしづいた姿勢のまま頭を下げて待つことになった。

しばらくしてひな壇の奥の方から人がやってくる気配を感じた。

「面を上げよ!」との指示で顔を上げると、目の前にどっしりと椅子に座る国王様の姿。

国王様は陽宝院君から聞かされていたように白く立派な顎髭を伸ばし威厳のある風格を漂わせている。

国王様の迫力のある顔に凄まれた途端に、私は怖気付いてしまって言葉がでない。

「懲りずにまた来たのか。そなた陽宝院と言ったな」

「はっ!」

「それで今度は何ようじゃ」

「国王様におかれましては、ぜひお目にかけていただきたい献上品がございまして、本日お持ちいたしました」

陽宝院君が近くにいた近衛兵に目くばせを送ると、その近衛兵は合図を出して入口側を守る近衛兵たちに扉を開けさせる。

すると扉の向こうから白いシーツに覆われた大きな木箱が男6人がかりで運ばれてくる。

「エルムの森には、人を喰べるような凶暴なモンスターがウジャウジャおりまして駆除していましたら中から、なにやら

珍しい鉱物が取れました。これは森の主権者であらせられる国王様に見ていただかなくてはと思い、馳せ参じた次第です」

覆われたシーツが外されると黒い鉱物が箱からはみ出るほど山盛となって詰め込まれている。

ピアノブラック調の鉱物はまるで宝石のように眩い光沢を放っている。

「この鉱物からは通常の鉄よりも軽く強靭な鉄が取れます。これは兵たちの武器や鎧の強化のお役に立つはずです」

近衛兵たちは顔を見合わせ、次第に場内がざわつきはじめる。

だけど国王様は表情ひとつ変えずに凄みのある顔でこちらを見ている。

“こわっ!”

それでも陽宝院君は怯むことなく続ける。

「にわかに信じがたい話だと思いますが、そんな国王様にはぜひ、こちらを見ていただきたい」

陽宝院君が両手を広げると空中に5つの魔法陣が出現した。

その魔法陣の中心には人々の姿が映し出されている。

背もたれに向かって仰け反る国王様は「これは?」と返ってくる。

さすがの国王様もこれには驚いたようだ。

「ライブ配信にございます」

「⋯⋯ラ、ライブ⋯⋯はいしんだと?」

聞きなれない言葉にも戸惑っているようだ。

「私の右手にある魔法陣をご覧下さい」

魔法陣に映っているのは等間隔に並べられた大砲とそれを整備するウェルス王国の兵士たちだ。

「あれが噂の大砲か⁉︎」

国王様は身を乗り出して陽宝院君に確認する。

ウェルス王国が近隣の国々から恐れられているのは高い軍事力と技術力の高さによる武器の進歩だ。

この異世界では、大砲はウェルス王国がはじめて開発して、実践に投入されはじめた段階。

しばらくして大砲が轟音を立てて火を噴く。

別の魔法陣(モニター)には被弾したエルムの森が映し出されている。

森のあちこちに黒い煙が立ち昇っている。

「なんと凄まじい威力だ!」

「この程度にございます」

「は?」

強い破壊力を持つ大砲という武器に驚きを感じていた国王様は、たいしたことのないように言い放つ陽宝院君の言葉に耳を疑った。

そのとき、稲妻を帯びた一筋の光線がエルムの森側から放たれた。

さらに別の魔法陣(モニター)にはウェルス王国の砦に着弾する様子が映し出される。

攻撃を受けた砦は広範囲に広がる熱波によって瞬く間に火の海に包み込まれた。

「なんなんだこれは⁉︎」

「“レールガン“にございます」

「レールガン⁉︎ なんだそれは」

「電流⋯⋯すなわち稲妻から生まれる力を使った強力な武器にございます。

あれほどの力は従来の鉄を使った砲身では持ちません。こちらの鉱物から作りだした鉄だからこそできたこと。

ご興味持って頂けましたでしょうか?」

「あ⋯⋯あいわかった」

粒状の汗が国王様の顔から滴り落ちる。

先程と打って変ってあきらかに動揺が見える。

「せっかくですからこのまま一緒にウェルス王国を敗れる瞬間をご覧下さい」

そう言って陽宝院君は魔法陣のひとつを拡大させた。

魔法陣の映像には炎を背に歩いて来る紡木美桜さんの姿が映し出されている。


***

「退け!退け!」

隊を指揮していると見られる人物が味方の兵士たちに撤退の指示を出している。

兵士のひとりが目の前で「ゼスル様ー!」と叫んだ瞬間、その兵士の身体の節々から水飛沫あげながらバラバラになった。

リボン状に伸びる水流が宙を走る。

「これはいったいなんだ⁉︎」

「水よ」

紡木さんがゼスルという人物に歩み寄って行く。

「馬鹿な。水が剣のように人を斬れるはずが!」

「せっかくだからいいことを教えてあげる。水ってのはね。圧力を加えると剣よりよく斬れる刃物に変わるの」

そう言って紡木さんは両手の親指と人差し指の間から水を勢いよく吹き出させる。

これが彼女の能力。水を自在に操ることができる。

水を新体操のリボンのように操り、設置してあった大砲を乱切りにしてバラバラにする。

「これをウォーターカッターというの」

「ウソだ! ありえない。そんなものが水であるはずがない。化け物だ‼︎」

ゼスルという人物が叫んだ瞬間、彼の身体はバラバラになった。

「シャルホンス殿!」と、口髭をたくわえ鋭い目つきをした恰幅のいい人物が駆けつけて来る。

その人物を見た国王様が「あれはルイール・アルマン! ウェルス王国でも指折りの貴族。大物だ」

と驚く。

「美桜。この男は俺が倒す」と、鷲御門君がやって来る。

「凌凱」

「お前はあとで火を消すための余力を残しておけ」

鷲御門君は左目の紋章を輝かせると背中に出現した魔法陣の中から大剣を取り出す。

「おのれ、化け物供。このルイール・アルマンがまとめて貴様たちを叩き斬ってくれる!」

すると空を覆い尽くすようにたくさんの魔法陣が頭上に出現する。

鷲御門君が大剣を振り上げると魔法陣の中から一斉に飛び出してきた大剣がアルマンという人物を含めて

逃げ惑うウェルス兵たち全員の身体を真っ二つに斬り裂いた。


***

「いかがでしたでしょうか?」

「の、のぞみはなんだ?」

「我々を国王に従属させてください」

「従属⁉︎ まことか?」

「はっ」

「ならば、そなたたちにエルムの森を与える。相応の爵位もやろう」

国王様は陽宝院君にしてやられたと言わんばかりに答えた。

「ギールの領内までなら森の外に出るのもかまわん。そしてニュアルの与力として働いてほしい。

あの娘も可哀想な子でな。政(まつりごと)の都合であの者を妻としているが相手になってやれる者がおらん。

歳の近いそなたたちが側にいてやってほしい」

このとき国王様が夫というより娘を心配する優しい父親のような表情を見せたのが印象的だった。

「国王様。もうひとつお願いがございます」

「まだあるのか?」

「爵位は私の隣にいる月野木天音に与えて欲しいのです」

「は?」

「えー⁉︎ ちょっとどういうこと陽宝院君?」

「君を僕たちの王様にする大義名分さ。爵位が与えられればみんなも反対はしない」

陽宝院君がみんなに私を王様にしたいと推薦したときに紡木さんたちの反対もあって、王様を決めるという話は見送りとなっている。

陽宝院君は私を王様にすることをまだ諦めていなかったようだ。


***

王様との謁見が終わり、2人で帰路を歩く。

もう陽が暮れはじめている。

今回、なぜ私を国王様との謁見に連れてきたのか陽宝院君の目的がわかった気がした。

結局、爵位は陽宝院君に与えられた。

国王様が裏に何かあるのではと警戒しての判断だった。

陽宝院君はめでたく男爵となった。


***

「レールガンなんてよくハッタリかましたな」

まいったという表情で東坂君がレールガン砲を叩いて笑う。

「君の雷の能力が役に立った」

「こいつパワーに耐えられなくてバラバラになっちまった。しばらくは使えないぜ」

「博士になおしてもらうよ」

博士というのは理工学が得意の結城 護(ゆうき まもる)君のことだ。

「砲身が持っただけでも上出来だ」

3人で笑って今回の成功を喜び合う。

すると「月野木」と、背後から声かけられた。

振り返るとハルト君がそこにいた。

「今戻ったぜ」

ハルト君の姿に私たちは驚いた。

剣を背負ってゲームの駆け出し冒険者然とした格好をしていて私は思わず心の中で“異世界エンジョイしてるー‼︎”と叫んだ。


つづく






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