第2話 リーフ亭、何それ美味しいの?

 翌朝、スマホに届いた一通のメールが私の人生を変える事になるなんて、この時は微塵も思っていなかった。


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件名:当選しました!

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本文:

おめでとうございます。

美味しいランチ&ケーキセット三千円相当が無料で食べられます!

クーポンは本日のみ有効。ぜひお越しください!

創作レストラン・リーフ亭

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 そういえば、貯金が心もとないのでとにかく少しでも食費は浮かせたいと、暇があればクーポンサイトでかたっぱしから応募をしていたような。


 リーフ亭……。聞いたことがないけど、多分応募したうちのどこかの店だろう。

 それにしても、今日しか有効じゃないクーポンって。期間限定し過ぎだよ。だけど、ランチで三千円、ケーキも食べれてしかも無料なんて行かなきゃ損でしょ!?

 ちょっと家からは遠いけど、地下鉄を乗り継いで三十分の場所で美味しいご飯にありつけるなら、選択肢は「行く」一択しかない。


 早速出かけるために身支度を整えると「リーフ亭」に向けて意気揚々と玄関を出る。

 クーポンサイトの情報では創作料理みたいだし、評価も良かったのできっとおいしいランチが食べられるはず。

 期待に胸を膨らませ、最寄り駅までやってきた私はスマホの地図を片手にリーフ亭を目指した。



「な・い!!!」



 いくら探しても、リーフ亭なんて言うお店どころかそんなお店があるような場所ではない。

 明らかなオフィス街。

 コンビニくらいしか食べ物を扱っている店なんて無いように思える。グルメサイトに載っている外観は、なぜかぼやけていて鮮明に写っていない。色も形も、似たようなビルやお店は近くに見当たらない。



「全然見当たらない、リーフ亭ってどこにあるの?」



 一時間近く同じ場所をウロウロして疲れきっていた私は、地図アプリがこの場所と指し示している場所にある植え込みの木によりかかって、ため息をついた。


 ふと見ると、オフィス街には似合わない可愛らしい子猫が私の目の前を横切っていく。

 猫の種類は詳しくないけれど、きれいなシルバーグレーのモフモフの毛並みが高級感を漂わせている。

「うはぁ子猫、和むなあ」とぼんやり見ていると、子猫が私の方を見て立ち止まり、しばらく進んでまた私の方を見てくる。

 その姿は、まるで「一緒についてきて!」と言っているみたいに見えた。私はその仕草に胸を撃ち抜かれ、ふらふらと子猫の後を追いかけた。


 子猫は何度も確かめるように私の方を向きながら、絶妙な距離を保って先へ進んでいく。

 路地とも言えないような細いビルとビルの隙間を縫うように歩き、子猫が立ち止まった場所には「リーフ亭」と書かれた看板があった。



「えっ!? リーフ亭!?」



 スマホアプリに投稿されているぼやけた写真と見比べると、なるほど同じ外観だ。どこをどう歩いたかよくわからないが、子猫の案内で目的地にたどり着いてしまった。



「子猫ちゃん、ありがと……あれ?」



 お礼を言おうと周りを見ても、子猫の姿はそこになかった。

 代わりにそこに居たのは、見とれてしまうほど素敵な男の子だった。シルバーの髪に長いまつげと憂いを帯びたようなブルーグレーの瞳。ボーイのような白いシャツに黒いベスト、黒いパンツとタイにエプロン姿だ。

 絵画から出てきたように整った顔は、イケメンにそこまで興味がない私でも目を奪われてしまう程に美しい。

 一瞬、時が止まったように感じた。



「お姉さん、うちのお客だろ? 入るの? 入らないの?」



 見た目とは違うぶっきらぼうな言葉遣いに、はっと我に返る。



「え、ええ。実は抽選でクーポンが当たったので」



 スマホで当選画面を見せると、男の子が店内に案内してくれる。お店のアプローチを歩きながら子猫を探してみたものの、見当たらなかった。



「凄く可愛い子猫だったなあ。ちょっとモフりたかったなあ」



 ぼそっと呟き、お店の扉を男の子に続いて入る。



「オーナー、客だぜ! クーポン当選者!」



 男の子はまたぶっきらぼうに店内に向かって声を挙げる。この美しい容姿からは想像もつかないくらいの乱暴な言葉遣いにあっけにとられてしまう。

 店内には、自分たちの他に人が居ない。

 こんなにしっかりした外観で、わくわくするような店構えなのに客が居ない。



「あの、今日はイベントか何かですか?」



 ランチ時に人が居ない飲食店なんて珍しいし、一日だけの限定クーポンだったことから、もしかしたら特別なイベントかな?と私が考えたのも仕方がないと思う。



「あ? なんで?」


「いえ、他のお客がいないので。限定クーポン客の招待イベントか何かかと」


「はぁ、うちはいつも閑古鳥こんなだよ」


「え!? サイトに載ってるお料理はとても美味しそうなのに!?」


「まあな、オーナーのメシは美味いよ。腕に間違いはねぇから、安心して食ってけ。せっかくたどり着いたんだからな!」



 少年は得意げに笑っている。天使のような笑みに見とれていると、カウンターの奥から、長身の男性が顔を覗かせた。

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