13.花開く巫女

 くっ!

 涼真は森の奥へ走り出そうとした。

 しかし、デュドネは右手を彩夏に向けて振り下ろし、光る鎖を放った。鎖は紫色に蛍光し、ウネウネと動きながら飛んでくると、彩夏の周りをクルクルと回ってしばりあげる。そして、グイッと彩夏だけ釣り上げたのだった。

「きゃぁ! 涼ちゃーん!」

「うわっ! 彩夏ぁ!」

 彩夏はそのまま近くの巨木に手足をしばりつけられ、はりつけのようにされてしまった。

「止めてぇ!」

 デュドネは必死にもがく彩夏に迫ると、アゴを手のひらで持ち上げ、いやらしい目でじっくりと品定めをする。

「うん、肌も瞳も合格だな……美しい。私のコレクションに加えてやろう」

「い、いやぁ!」

 彩夏は恐怖にガタガタと震えながら叫ぶ。

「うーん、いいね! 犯しがいのあるいい表情だ……クフフフ」

 そう言うと、デュドネは彩夏のボーダーのシャツをビリビリと破いた。

「いや――――!」

 彩夏は必死にあがくが、鎖ががっちりと手足を縛っていて身動きが取れない。

「うーん、エクセレント! いい声だ……」

 デュドネは恍惚とした表情を浮かべる。

「俺の彩夏に何すんだよ!」

 涼真はハッキングツールを右こぶしにつめるだけ詰め込み、青白く光らせてデュドネに向けて超高速で飛びかかった。

 目にも止まらぬ速さで放ったパンチ、しかし、デュドネは待ってたかのように左手でスッといなす。

 そして、代わりにカウンターを涼真におみまいする。

 さすが戦いなれた元管理者アドミニストレーターである。格の違う鮮やかな返しだった。


 ガスッ! という、鈍い音が森に響く。

 しかし、涼真はそれを額に展開したシールドで受け、辛うじて耐えた。

 大切な彩夏を穢されること、それは命にかけてでも止めねばならない。

 涼真はギリッと奥歯を鳴らすと、左こぶしを光らせてデュドネの顔面を狙った。

 うりゃぁ!

 うわっ!

 デュドネは予想外の涼真の健闘に驚き、スウェーで逃げたが、目の上をかすめ血が飛んだ。

 たまらずデュドネは距離を取る。

「くっ! ひよっこの分際で!」

 デュドネは余裕を失い、全身を光らせると涼真に突進した。

 そして、人間離れした連打でボコボコとパンチを打ち込む。

 必死にガードする涼真だったが、最後ボディに蹴りを叩きこまれ吹き飛んだ。


 ぐはぁ!

 涼真は口から血を吐きながら落ち葉を巻き上げ、ゴロゴロと転がっていく。

「あぁぁ! 涼ちゃーん!」

 彩夏の悲痛な叫びが森に響く。

 デュドネは肩で息をしながらニヤリと笑うと、

「君はこの娘がヒイヒイと可愛い声であえぐのを聞いてなさい」

 と、吐き捨てるように言って、彩夏の髪の毛をガシッとつかんだ。

「ひぃっ!」

 顔を歪める彩夏。

「これから信じられないような快感に沈めてやるからな……くふふふ」

 デュドネは彩夏の目をのぞき込むといやらしく言い放ち、破けた服のすき間から胸に手を伸ばす。

「や、やめてよぉ! うっうっうっ……」

 彩夏の嗚咽が森に響く。

「うーん、貧乳だな。胸は残念だ」

 デュドネがそう言った時だった。


 カチッ!


 彩夏の中で何かのスイッチが入った。

「え……? 何? 今なんて言ったの?」

 ゾワゾワと彩夏の心の奥底から黒い何かが湧き出し、漆黒のオーラが彩夏を包んでいく。巫女の血が開花したのだ。

「うわぁ! なんだこれは!?」

 オーラはデュドネにも広がり、まとわりついていく。

「ねぇ? もう一度言ってくれる?」

 彩夏の黒い瞳の奥に真紅の炎がゆらりと揺れた。

「ひ、貧乳……か? なんだよ! 本当のことじゃないか!」

 デュドネは必死に漆黒のオーラをはたき落とそうと頑張る。

 パーン!

 彩夏を縛っていた紫の鎖が砕けちった。

「へ?」

 何が起こったか分からないデュドネ。

「涼ちゃんはこの胸を『好きだ』って言ってくれたのよ!」

 彩夏はデュドネの胸ぐらをつかみ、凄む。

「わ、悪かった……」

 デュドネは必死にいろんなツールを起動し、彩夏を抑えようとするがことごとく起動に失敗し、対抗できずにいた。

「死ね!」

 彩夏は思いっきりデュドネの股間を蹴り上げた。

 グフッ!

 デュドネは声にならない叫びを上げながら地面に落ちていく。そして、股間を押さえたまま悶えながら落ち葉まみれになった。

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