第10話 探検って、わくわくする響きですわね!

『それにしても……』


 この状況はもしかしなくても、市井しせいの子供たちがやるという探検、なのではなくて?

 そう、これが……。


『探検って、わくわくする響きですわね!』


 誰にも見つからないように、というわけではないですけれど。

 先ほどから何人かの方の頭上を通っていますけれど、誰一人わたくしに気づくような方はいらっしゃいませんでしたもの。

 いっそ、普通に歩いているかのように振舞ってみようかしら?


『でもきっと、誰もわたくしの姿なんて見えませんものね』


 はぁ、と。小さくため息をついて、少しだけその寂しさや悲しさを吐き出してみます。

 いえ、リヒト様にはわたくしの姿だけでなく声も届くので、今の所そこまで困っているわけでも寂しいわけでもありませんけれど。

 それに他の方には見えないおかげで、こうしてお城の中を探検できるんですもの。ある意味利点とも言えますわ。


『先ほどからずっと動いていますけれど、全然疲れませんし。幽霊というのも、なかなかに便利ですわよね』


 そもそも歩いてすらいませんから、疲れる理由が分かりませんけれど。

 一体これ、どういう理由で浮いたまま動けるのかしら?わたくしには不思議でたまりませんわ。


「――――だが、いっそ……」

「シッ!こんなところで言うべきではないだろう!」

(あら?)


 なんだかどこからか、男性の声が聞こえてきました。しかも、声を潜めるように。


(これは、何か手掛かりになるかしら?)


 もしかしたらわたくしが幽霊になった理由かもしれませんし、リヒト様のお役に立てるようなことかもしれませんし。

 どちらにせよ、一度気になってしまったのです。立ち聞き……あ、いえ。浮き聞きをしてみましょうかしらね。


「だからってッ!!いい加減前の時のように退場してもらわないと困るだろう!?」

「そんなことは分かってる!だから今度の会合で話そうと言ってるんだ!」

「それじゃあ遅いと何度言えば分かるんだ!!」

「~~~~ッ!!いいから!!ここでその話題を出すなと言って――」

「そこで何をしているんですか?」


 なんだか聞いてはいけないような、怪しげな会話に気を取られていたわたくしは。後ろから聞こえてきた別の男性の声に、目の前の男性たちと同じように驚いてしまったのです。

 わたくしの姿は見えないと分かっていますけれど、つい反射的に振り返ってしまった先で。


「こんなところでコソコソと、一体何を話していたのか。私にも聞かせていただけませんかね?」


 薄い茶色の髪に…………あの、目……目が細すぎて、どこを向いていらっしゃるのかよく分からないのですが……。

 けれどしっかりとした足取りで歩いていらっしゃるその姿は、四十代くらいの男性に見受けられました。


「い、いえ、そのっ……」

「か、家庭内の愚痴ですので、バッタール宮中伯にお聞かせするような内容では……」


 あら、この目の細い方は、バッタール宮中伯と仰るのね。

 つまり、宮廷内で大きな権力を持つお方。確かに声をかけられては緊張するでしょうけれど……。


「なるほど?あなた方はわざわざこの場所に来てまで、家庭内の愚痴を話す必要があったのですか。ジェロシーア様が開かれている、ガーデンパーティーを抜け出してまで」

「そ、それは……」

「つ、妻も一緒ですので、あの場ではとても……」

「それにしては、遠くまで来たものですねぇ?」


 あぁ!ジェロシーア様ってどなたなのかしら!?そこが気になって仕方がないですわ!!

 それにどう考えても、家庭内の愚痴を言っているようには聞こえませんでしたもの。何か、良からぬことを企んでいるか、隠しているか、ですわね!


(つまり……)


『バッタール宮中伯!頑張って下さいませ!』


 わたくしには応援することしか出来ませんけれど、きっとないよりはマシですものね!

 なんでしたっけ?えーっと……。

 あぁ!そうですわ!!

 ふれー!ふれー!バッタール宮中伯!!ですわ!!








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