第3話

 また。何日経ったのか。あれ以降ゆきさんは姿を現さなくなった。俺が何故生きているのか、それはゆきさんを抱いていた男が毎日3食、朝昼晩のご飯を運んでくれていたからだった。


 そんな生活を数週間過ごしていくうちに、徐々に頭痛が、脳が、そして身体が何かに蝕まれていくような感覚に襲われる。


 目を閉じれば映るのは、俺と謎の女性、ゆきさんが【松本駅】に居るというそれだけだった。なんなのか分からずただ目を閉じるのも怖くなり不眠が続いたある日のことだった。


「おはよう。りく君」

「ゆ、ゆきさん?」

「酷い顔してるね」

「お、俺は何歳なんですか」

「最終段階だね」

「へ?」

「よく聞いて。貴方は私の婚約者」

「え?」

「私は貴方の婚約者であり、貴方の研究をしているの」


 ゆきさんが急に何言っているのか分からないが、たしかに今俺の婚約者だと名乗った。それだけは脳か理解をした。俺はゆきさんに疑問を投げつけようと言葉を発した。


「あ、あの。俺は君の、いや」

「いいのよ。ゆっくりで」

「お、俺は誰なんだ」

「答えが出るまで鏡に向かって、ずっと自分は誰なのか問い続けて。そうしたら答えがわかる。そして今答えられることはひとつ。【貴方は私と結婚する】それだけ」


 ゆきさんは俺の目の前に、俺の顔面しか映らないほど小さな鏡を置いて、また俺を独りぼっちにした。


 俺はゆきさんに従おうと、婚約者だと言う彼女の願いのために、今日から鏡に【俺は誰なんだ】と問いかけた。


 鏡に映る自分の姿は醜く、目も当てられなかった。


「俺は誰なんだ」


 ☆☆☆


「ゆきさん。あれじゃ壊れちまいますよ」

「良いの。彼はこのまま研究する」

「でも」

「いいから」

「は、はい」


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