第2話
黙って後ろについて行っていると、おもむろに女性社員はこちらを振り向き、ある方向に指を指し示した。
「あそこ行きつけなんだ。行こう」
「はい」
「あと敬語はやめてね?」
「すみません。無理です」
「……はぁ。分かった」
女性社員は肩を落としながら、店内へ入って行った。ひょこひょこと後ろについて店内へ俺も入ると、そこに広がるのは沢山の女性が居たこと、そしてそこから分かるのは店内はピンク一色で塗られた女性層を狙った店だということ。
「す、すみません帰ります」
「なんで?」
「男がいるべきでは無い場所というか」
「飲食店に男も女も関係ないでしょ?」
「それはそうですが……」
「……いいからおいで!」
俺は手を引っ張られ、半ば強引に席に座らされる。仕方なくご飯だけ食べようとメニュー表を見て、値段に驚愕した。
「あ、あのここ高すぎませんか」
「私の奢りだから気にしないで」
「えっそんな訳には!」
「いいから。無理やり連れてきたのは私だし」
「……分かりました」
俺は何も言えず、ただ言葉に甘えた。
料理を一通り頼み、届くまでの間俺は何を話していいかも分からず。
店内が女性一色になってしまっているせいで、身体が言うことを聞かず震えだしてしまった。
「大丈夫?」
「あ、いえ。はい」
「あのさ。私でよければ悩み聞くよ?」
「いえ大丈夫です」
「……会うの初めてだし、なんならなんで食事誘われたか分からないだろうけどさ」
「はい」
「私困ってる人とか虐められてる人、差別されてる人、あとトラウマを持っていて上手く人付き合い出来ない人を助けたいっていう、ただのお節介焼きなんだ」
「……」
俺は目の前にいるただのお節介焼きに、そしてお節介焼きなだけではなく人の気持ちにズカズカと入り込む失礼な女性に嫌気がさし、その場から逃げる形で店外へ出ようとしたが、ちょうど料理が運ばれてきてしまった。
「お客様。お待たせ致しました。こちら和牛のヒレステーキでございます」
「あ、どうも……」
じゅわーっといい匂いが立ち込め、ぐぅぅっと腹の音が鳴ってしまい、ここで帰るのも失礼なのではないかと思い黙って席に座る。
「ありがと。帰んないでくれて」
「いえ。すみません」
「ううん。ゆっくり食べよ」
目の前に女性がいるということを忘れようと食に夢中になっていた。
「あの。俺さん」
「あ、はい」
「ほんとにただのお節介焼きだし、嫌だったら言って」
「何がですか」
「俺さんって女性となんかあったの?」
「……」
「ゆっくりでいいんだけど」
「別に貴方にお話することでは無いですし」
俺は冷たく突き放すように、何とかして誤魔化そうと肉を頬張る。
するとそんな俺の頬に手を当てて言った。
「……私は悩んでる人を放っておけないの」
「いいですから」
俺は肉を食い終わったと同時に、女性社員の手に数万円握らせて店外へ逃げた。
一体なんの狙いがあるのか、また俺をバカにするためにご飯に誘ったんじゃないかと色々と不安がよぎってしまい、俺はその場で心臓がギュッと締め付けられ倒れてしまった。
「うぐぅぅっ」
薄れゆく意識の中、声が聞こえた。
「俺さん大丈夫ですか!?」
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