第19話
先輩は早足でどこかへ向かう。俺は置いていかれないように、早足で先輩の後ろをついて行く。
二時間歩いても目的地に着かなかったが、先輩の歩くスピードは全く衰えずに、同じペースを保っていた。俺はそれに必死に必死について行った。
すると先輩はおもむろに立ち止まり、とある公園の男子トイレへと入って行った。俺は訳もわからず、恐る恐るついて行くとトイレの中で誰かと話す先輩の後ろ姿が目に映った。
「先輩?」
「俺くん。今まで隠していてごめんね」
「え?」
先輩はトイレの個室に居た薄汚れた老人の反り勃ったモノを掴みながら言っていた。目の前に映る大好きで、そして愛している彼女が汚い老人のモノを握っている姿に、そしておもむろに加え始める姿に、俺はただただ涙を流しながら立ち尽くしてしまった。
これが妹の言う地獄なんだと思っていたが、更に俺に追い打ちをかけるように、後ろからホームレスのような男たちが先輩を囲むように現れた。
「……は?」
「俺くん。ごめんね」
有り得ない姿に、そして二度も女性が、しかも付き合っていたはずの女性が俺を裏切ることに俺はただただ何も言えずじまいで立ち尽くしてしまった。
「……」
「俺くん。私の身体使ってもいいよ?」
先輩はとろんとした瞳で俺を見つめながら言った。俺は何も言えず、何もすることも無く公衆トイレの外へ出ると、大勢の警察官が到着していた。
「君!」
「あ、はい」
「そこの公衆トイレでレイプがあると聞いたがそうなのか?!」
「……見てみれば分かりますよ」
俺は先輩を助ける気力も全く起きず、ただ警察に委ねた。
警察が公衆トイレから大勢の股間をモロだしにしたホームレスたちを連れ出し、そしてドロドロに汚れた先輩にタオルをかけて保護していた。
俺はその光景が【地獄】にしか見えず、【地獄】ではなく、もはや【絶望】とまでなっていた。
「俺くん……」
「君の彼氏なのかね?」
「……はい」
先輩は俺の顔を見ながら、警察の質問に答えていた。
一人の警察官が俺の元へ来ていた。
「彼氏くん、いいかな?」
「……何がですか」
「いや、君の彼女なんだよね?」
「……」
「ん?」
「いえ、はい」
「まぁ目の前であんなことが起きたんだ。ショックを受けるのも当たり前だね。まずは彼女の元へ」
「いいです。俺帰りますから」
「帰られたら困るんだ。色々と聞きたいことが……」
俺は警察官を振り切り、公園から逃げた。
数百メートルノンストップで走り続けた後に、ある交差点に差し掛かった時、妹が現れた。
「だから言ったでしょ。地獄を見るって」
「……」
「お兄ちゃんは私と結婚すればいいの」
「……」
「お兄ちゃん?」
「お前が仕組んだのか」
「え?」
「お前が全部仕組んだのかって聞いてんだよ!」
俺は妹の首を締め付けながら、妹がやった事にしようと、全て忘れようとした。
妹は苦しいはずなのにも関わらずニコッと笑い言った。
「仕組むって何……?」
俺はその言葉で首を絞めていた両手を離し、その場に膝から崩れ落ちた。
「お兄ちゃん。帰ろう?」
「……」
「お兄ちゃん」
これが俺の二人目に愛した彼女の話。
そしてこれからが本格的な地獄の始まりだった。
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