第5話 オレの気持ち
そのまま母さんに肩を抱かれて、身体をさすられながら家に帰った。
「はやてっ!」
「お前…すげぇ顔してんぞ。」
「先に身体温めろ。」
「お風呂のがいいんじゃない?」
「はやて…見つかって良かった…。」
父さんが、安心したようにつぶやいてる。
いつもはいない、
どうやらオレは結構な時間を海で過ごしていたみたいだ。
母が、あまりにも遅いから
「はやて…何かあった…?」
母が心配そうに覗いてきた。
オレは、みんなの顔一人一人見た。
なんて言ったらいいんだろう。
なんて伝えたらいいんだろう。
どんな言い方しても傷つけてしまいそうで……やさしくて、大好きな家族なのに…。
すると、心が読めたみたいに、父さんがゆっくり、言い聞かせるように言った。
「はやて、なにも気にすることはない。 私たちは大丈夫だ。 それより、君が考えている事が知りたい。 わかりやすくなんて考えなくていい。 思うままに、伝えてくれ。」
穏やかで、やさしい父。
発する言葉はいつも、心を落ち着かせてくれる。
オレは、ゆっくり、ゆっくり口を開いた。
「商店の、おばちゃんが、黒沢を。 途中から来た、黒沢を見て、言ったんだ。」
たどたどしいながらも、オレは話した。
個人商店のおばちゃんが、オレの事を黒沢に話した事。
黒沢が帰りに真実か聞いた事。
黒沢が、ホントの家族じゃないから気持ちがわからないと言った事。
それにより、オレがホントの親を待つ気持ちがあったと分かった事。
だから、あまり友達も作ろうとしなかった事。
自覚したとたん、かなしくなった事。
「
嗚咽交じりに伝えてたけど、もう涙でしゃべれなくなった。
…そっか。と母が、そんなオレの背中に手を添えながら言う。
添えられてる手はあたたかい。
オレが落ち着くまで待ってから、母は口を開いた。
「…はやて。 まずね…血がつながってるから家族の気持ちがわかるわけじゃないと思うな。 つながっていようがつながってなかろうが、どれだけ大事に思ってて、どれだけ自分達の気持ちを伝え合ってるかだと思う。 気持ちを、どんな事をどんな風に考えるか、それを伝え合ってるから、相手の事が分かるんじゃないかな。 そうしたいって思う相手を、それをする事を、愛情って言うんだと思うな。」
いつもの母のしゃべり方より、ゆっくり、やさしく話してくれる。
「それに、血のつながった親の事は、気になって当たり前だよ。 特にはやては、記憶がない時に会えなくなってるから。 気になるのも、会いたいと思うのも当たり前。 それは責められるべき事じゃないし、責めて良い事でもない。 だって、当たり前だもの。 当たり前の事だから、はやてのその気持ちは大事にしていい。 そんなはやての事だって、母ちゃんは大好きだよ。」
聞きながら、静かに涙がオレのほほをつたう。
「でも、誤解しないでね。 血のつながった親に返したいわけじゃない。 はやてが帰りたいなら尊重しなきゃいけないけど、あなたの成長を見守りたい気持ちはある。 だから、もしその時が来たら、家と家族が二つできたと思ってくれると嬉しいな。」
「二つ…。」
オレは、母の言葉を繰り返して確認した。
「だから、はやては弱いわけじゃないし、それに弱かったとしてもいいんだよ。 何度も言うけど当たり前。 …というより、人間て元々弱い部分があるのが当たり前な生き物だからね。」
最後は、ふふっと笑いながら母は言った。
「あとは…そうだね、ホントの家族って話だけど…。… ホントの家族ってなんだろうね? …例えば、母さんと父さんは血がつながってない。 でも家族だ。 それは、愛情でつながってるから。 愛情があるから家族になってる。 じゃあ、どうして親子だと血のつながりだけが大事に思われちゃうんだろう。 …母ちゃんは、きっと親子だって、つながりは血だけじゃないと思う、愛情でのつながりもあると思うな。 それに、世の中には血がつながってても愛情ではつながってないような人達の話も聞く。 そんな話を聞くと逆に血がつながってるせいで、囚われちゃってる気すらする。 …そういう人達にも色んな事情があるんだろうから、簡単に否定はしたくないけど、絶対肯定はしたくない。 …母さんは、血のつながりより大事なものはあると思うな。」
またひとつ、涙がオレのほほをつたった。
「それに、この家に、母さんのところに来てくれたのは変わらない。 お腹から来るか、外から来るかの違いだ。 はやても、みんなも、母さんのところに来てくれた、大事な大事な子どもだよ。」
また、どんどん涙が出てきた。
我慢できずに、声が口から洩れる。
そんな口を押えてるオレを、母さんは抱きしめながら、
「はやて、うちに来てくれてありがとう。 生まれてきてくれて、ありがとう。 大好きだよ。」
と言った。
オレは止まらない涙と嗚咽を漏らしながら、
「で、でも、それ、オ、オレじゃなくても、いいんじゃ…。」
って言ったら、
「でも、はやてだよ。 他の誰でもなく、うちに来て、今ここにいて、母さんの大事な子どもなのは、はやてだ。」
と、しっかりと抱きしめながら母は言うから、もっと涙が出てきた。
◇◇
やっとオレの涙が止まった時には、鏡を見なくてもわかるぐらい目はパンパン、
オレ、自分の水分、5分の1は減った気がする。
そんな事を言ったら
10分の1で死ぬんだって、マジ?
色々話して、色々聞いて、すごくすっきりした気持ちになってる。
使い古された言い方だけど、生まれ変わったみたいに世界がキラキラしてる。
でも一つの、疑問が残った…。
「…じゃあ、
「…ふ、えっ…!?」
急にふられると思ってなかったのだろう、動揺し少し赤くなった顔で
だが、
「それさ、最初から分かんなかったんだけど、どうして血がつながってないから教えてもらえないと思ったんだ? その理由だと、お前だけ聞いてないっておかしいだろ?」
オレらも聞いてないし、と続けた。
「…え?」
「だって…。」と言いながら、みんなに理解を求める視線を向けるが、みんなも
え? なんで?
「だって、オレが、血がつながってないから…。」
そう言うと、みんな、呆気にとられた顔をしている。
え? え? オレ、血がつながってないんだよね?
オレも訳が分からず、みんなを見ていると、みんなが「え?」とか「マジか。」とか、「うそでしょ?」とか「言ってないの?」とか、戸惑った声を出してる。
ホントに訳が分からない、メダパニかけられた?
すると、父がコホンと一つ咳をして、それを合図の様にみんなが黙った。
そして、いつも以上にゆっくりと、オレに言ったんだ。
「はやて、私と母さんの血がつながってるのは、兄弟の中で、
…………………………………ハイ?
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