謎と不思議のスクールゾーン

バンチヨ

人食いの家

 小学校からの帰り道に薄暗い藪があって、そこには小さな家というか物置みたいなものが建っていた。僕はあまり気にせずにその前を通っていたのだが、ある日友達のユウジがこんなことを言い出した。

「あそこ、人をさらって食べる一族が住んでるらしいよ」

 当時小2くらいだった僕はそれを聞いた途端にやたらと怖くなり、一人のときには出来るだけ、絶対にその家に近付かないようにしていた。

 あるときには家の中からじいさんが出てきて、僕は咄嗟に「食われるッ!」と子どもながらに命の危険を感じて全速力で逃げたこともある。今思い返せばそれもただの農家のじいさんで、どう考えても人食いなんかじゃないのだが当時の僕にとってはそんなこと分かるはずもなくてめちゃくちゃ怖かった。


 その人食いの家だが、小学校を卒業するとそもそも近くを通ることもなくなり、高校に入ったら存在そのものを忘れてしまった。

 そして僕は大学に入って一人暮らしを始めるのだが、正月か何かで帰省したときにふと、この人食いの家のことを思い出してちょっと行ってみることにした。

 実家からは歩いて10分くらい。前はもっと掛かってたのになぁ、と大人になったことを感じつつ、人食いの家を目指す。

 そして、そこにあったのは……。


 コンビニだった。


 薄暗い藪は切り開かれ、恐ろしい人食いの家は24時間いつでも便利なコンビニへと姿を変えていたのだった。

 そう言えば母が近所にコンビニが出来た……という話をしていたが、まさかここだったとは、と僕は少々愕然とした。

 こうなると、人食いの一族はどこへ行ってしまったんだろう。まさかコンビニのオーナーへ転身したのだろうか。などと冗談めいたことを考えていると、そこに元凶たるユウジがチャリに跨って、たまたま通りがかった。彼とは中学卒業以来である。まぁ高校生の頃も連絡は取り合っていたし、電車でも時々顔を合わせたりはしていたがこうして会うのは久しぶりだ。互いに近況を話し合う。ユウジは地元の大学に通っていてまだこの近くの実家に住んでいるらしい。

 そして話もひと段落ついたところで、僕は思い切って人食いの家のことを話題に出してみた。

 するとユウジはちょっと呆れたような顔をして、それから明るく笑ってこう言った。

「ああ、あの話?まだ信じてたの?あれ冗談だよ。あそこはね、俺のじいちゃんが使ってた物置だったんだよ。でもじいちゃん、ちょっと前に腰やってもう農家引退してしまってね、ちょうど土地を探してた人がいたから貸してあげたら、なんかコンビニが出来てた」

 ……さすがに僕も小4くらいで話の真相には気付いていたが、こうも本人に呆気なく否定されると何とも言えない虚しさがこみあげてきた。


 ちなみにユウジはじいちゃんの跡を継ぐべく大学で農業のことを学んだようで、今は立派に野菜や米を育てている。

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