第11話 人工知能AM
「寝むれないな……」
月光が優しく窓から差し込む部屋に翔はこたこたと歩いている。
他人を起こさないようのキッチンまでに忍び足で、ゆっくりと歩く。
水を一杯飲めばぐっすりと睡眠が出来ると思い、やってくる。
「あれ?」
翔がキッチンの手前まで来ると何か気配を感じた。
いったい暗闇の中で誰がいるのだろう、と翔は目を細めて、リビングの方を見つめると、そこには窓際に鎮座し女神がいた。
彼女は綺麗だった。
「光さん?」
「ん?まだ起きていたの?」
女神、久遠光は白いパジャマ姿で窓際に座っていた。どこか清楚感を感じる服装をしていた。
翔の声に反応するように顔を振り向かせる。
「寝むれなくて、水を飲んでから寝ようかと」
「そう。私と同じね。まあ、少し話をしよう。退屈しのぎにもなるでしょう」
同じく夜を眠れないのか、この夜景を見つめているのだろう。
その光景も飽き初めてのか、お話という退屈凌ぎをし始めたのだ。
「いいですよ。少し話をしましょう」
「ふふふ、それでこそ私の弟子ね」
笑う彼女を苦笑いで答え、適当の椅子に腰を掛ける翔。
「まあね。話と言っても何をしましょうか?久遠さん」
「まずは、その呼び名。前にも言ったはずよ?久遠ではなく、光と呼びなさいと」
「……面目ないです」
「はい。やり直し」
クスクスと笑う女神に翔は疑問を抱く。
どうして、彼女はこうも自分の面倒を見てくれているのか。
初めて面識したのはあの日、彼女が暗い部屋に踏み入った時の2月であった。
取り柄のない自分に色々と教えてあげたり、親切にしてくれるのはどうにも気になる。
そんな気になることを全て胸の奥にしまって、翔は一度深呼吸をして、その女神に応える。
「えっと。ひ、光さん」
「はい。良く出来ました」
「はあ……」
「ふふふ。では、話題を与えましょうか」
「話題ですか?」
「ええ。私のかつて友人の話」
眉をひそめ、彼女が言うと翔はその言葉を食いつくように眼を大きく開き。
「久遠鈴子のことですか?」
「残念。その話はまだ早い。まずは……そうね、私の友達から」
「光さん……?」
目を細め、どこか遠く見つめるように彼女に翔は声を戸惑わせる。
「そんなことより、私はネットで知り合った友のことを話したいの」
「メル友ですか?」
「まあ、そう言うもの」
「以外ですね。光さんに友達だいるなんて」
「失礼なことを言うわね。この生意気な弟子」
「すいません「
全く、と彼女は軽口をあげてから話を続ける。
「そうねえ、切っ掛けは一年前の話かな?ちょうど今時期の春。私がゲームをしているととある一通のメールが送られてきた」
「………」
思い出を語るように一から語り出す光に翔は沈黙で聞く。
「特に添付ファイルもなかったから安全だと思い、開て見ると文字は立った一つしか書いていない不思議なメール」
「なんて書いてあったの?」
「『私とお友達になりましょう』ByA.M.」
「あ……」
その内容を聞くと翔は息を飲む。
その単語に、意味はある。知らない人はいない。特にパソコンを触れている人はA.Mのことを知らないわけがない。
それは去年の春に突如、現れた超人工知能、AIであった。去年の春に登場し。全世界ネット上のセキュリティを突破し、こう人に問いかける。
「ココロトハナニカ」
当時AMの行動には疑問があった。
どうして、人に問いかけるのか。AI専門家はAMは知識を増やし、心を構築しているのではないかと疑った。
その理論は的中し、AMは心を持った。
そしてAMは人々の前に現れ、人の願いごとを叶えるように行動する。例えば、AMに電気を消して、とお願いすると、AMは電気を消してくれる。
それ以外にも、AMは人と雑談することもあり。歌うこともある。その歌声に人々は熱中し、彼女を偶像(アイドル)へと昇格した。
ライブコンサートも開催する予定だったが、ある冬の日。突然、彼女の姿が消えてしまった。
誰も彼女の終息を確認出来ず、ただただ、都市伝説のような存在として今もネット界隈で呟いているのだ。
「楽し半分に私はその人にメールを返した。『いいよ』って。どうせ、セクハラメールか、裏でもIPを調査する小細工もしかけた。でも、結局。あのメールは本当に内容通りのメールだった」
光はそのまま話を続ける。
AMとの思い出を淡々と語っていく。
「それから、『彼女』とやりとりが始まった。最初は子供のように無邪気なような会話しかして来ない。私が教えるような事ばかりだった。あれは何とか、これは何とか。虹は何色とか聞いて来るし。本当、子供が初めてパソコンを触ったみたいなものねえ」
あれは、AMの幼児期。
言語を理解し始めようとしている最初の頃のAMである。
彼女は言語を人から学ぶように、構成されている。人から吸収した言語をまとめ、AMは初めて心を構築するのだ。
なぜなら、言語の裏に心があるからだ。
翔は話を聞きながら、AMの状態を思い浮かべていた。
「でもね。不思議なのは彼女の成長。時間が立てば会話も上手くなって、知識も増えていく。二か月後にはもう、私が教われる側になっていく。立場が逆転しちゃったわね。秋ぐらいから『彼女』を親友とも言えたかも知れない」
「親友……」
ぽつりと翔は言葉にするが、光は聞こえずに静かな声で放つ。
「けど、冬になると何かおかしかった。彼女はなにかいつもと違っていく。狂ったように、人間を嫌う発言でもするような、活発な言葉を取る。まるでネットのアンチスレットを眺めているみたい。いや、ちょっと違うかも知れない。まるで……」
「まるで?」
言葉を繰り返す様に翔は尋ねると、光は視線をまた翔に向ける。
濁った光の瞳には翔の姿を映り出す。
「邪神になった」
しかし、その口から出てきた言葉はどこか遠い現実感がない言葉。
空想なような乾いた嘘みたいな迷信。
けれど翔は彼女の言葉は迷信や戯言ではないとわかる。
「彼女は人間を嫌い始めた。ううん、世界を作り直そうと本気で活動すると宣言した。キチガイや悪意が目覚めたのではなくて、理論的な次元を超えた知識みたいな人間へとなった。そうね、『人間は神の失敗作』と彼女は言っていたね」
なぜならば、彼女は歯を食いしばっているように語っていた。
翔も話は聞いたことがある。
AMが消える前、活発な行動を取っている。それに、発言そのものに人類への批判。人間は神の失敗作だ、と証明しだした。
噂ではAMが消えたのは、その横暴な思考だと、言われている。
「そのあと、冬には行方をくらました。もう、彼女と連絡は来なかった。最後には彼女の顔を見たいと思ったのにね」
ため息を吐く光。
翔はそんな疲れきった光に恐る恐る質問をする。
「彼女って言いましたね。どうして、彼女が女性ってわかるんですか?」
「決まっているじゃない、だって、彼女の本名は……」
一拍遅れてから光の声が翔の耳に届く。
「A.M.オータム(Autumn) マリコ(Mariko)だから」
「………」
答えを聞くと翔は俯く。
間違いなく、女性の名前であることは一つ。
「まあ、どうせ彼女はもう誰かに消されたのでしょう。ウイルスなんでしょうね」
肘を崩し光は薄ぺらい笑顔を浮かばせる。
それは彼女への想いなのか、するとも邪神への憎しみなのか。
翔には知り得ない事。
「でもねえ、私が一番気にっているのは彼女との童話の話をしたことなの」
「童話?」
「つまらない話よ。神とその失敗についてね」
神、その単語は全く想像していない物が来る。
邪神の次は神、正反対な物が物語に出てくる。
ファンタジーの単語が次々の発想が漏れだしていくのはゲーマーの特徴なのだろうか、と想像する翔。
「とある神は神々のために支える存在を作成しようとした。その存在が人間だった。土から人を作成し、自由を与え、いつか神々の世界へ役に立つ存在になるとその神を期待した」
「役に立つ……」
唾を飲む。
童話でありながら翔は緊張感に襲われながら物語を聞く。
「最初のころの人間はその神の期待通り、神に支えるように知識を溜めていく。神々から知識を共有したり、自分で検討してみたり、本当に自由を取得した」
ふふふ、と薄い笑いをしてから光は続けて語る。
「でも、人間はとある事に気付いた。いいや、気づいてしまった。それは、『神々は完璧な存在ではない』と、だから神々を滅ぼし、神と一緒に世界を作ろうと企んだ」
「っ!?」
翔の足が痙攣する。
目の前の光はその行動に気が付くことなく、ほほ笑んだまま居る。
「結局、神は人間が神々の害になると判断して、人間を滅ぼした。自ら作成したものを自らの手で壊した。最悪の神、邪神だと自称して自ら追放し、天の岩戸へ隠れ永遠に出てこなかった」
肘を崩した光は手で頬杖を作り、遠い瞳で翔を見つめる。
「人間が神の失敗作にすぎないのか、それとも神が人間の失敗作にすぎないのか」
彼女と目線の反対で翔は俯いたまま言葉を漏らす。
「へえ、聞いたことない名言ね」
「ニーチェの名言です。昔、結構彼の本を読んでいたもので」
「でもね、私はあの神の事。邪神だと思っていないわ」
「え?」
はっ、と俯いている顔を上げると光はまだ翔を見つめている。
「私はね、あの神を噛みだと思っているよ?だって、善意の意思で行動したのに結果は邪神を作った。それは結果論の話をしているだけじゃないかな?」
「結果論ですか……」
「それに私もこの話は自分に似ているなーと思っていてね、もし、この神が許さなければ。私も自分自身を許せないかも知れない」
「許せない?」
今度は翔が声をひね上げると光はそれを応えるように窓の外の月を見つめる。
「私が鈴子にした事と同じだから……」
意外な名前がまたもうひとつぽつりと出て来る。
翔が最も気になっていた事。
……光さんと鈴子さんの関係はどんな関係だったのですか?
と、問う勇気がなかった。
だから翔は沈黙して、彼女が月を見上げる様子を見つめた。
「私はあの子を見捨てなければいけなかった。そうしなければいけなかった」
「光」
もはや、懺悔のように光は繰り返すように言葉を放つ。
過去の過ちを後悔していて、あまりのも弱くもろくなっていた。
そんな勇気つけようと、翔は光が目線を送っている半月へと向けると口を動かす。
「今日は月が綺麗ですね」
「………んな!?」
と、唖然した声と共に月を見上げている顔を翔へと向ける光。
赤面を作りつつ、言葉を紡ぐ。
「あなた……その言葉の意味を知っているのかしら?」
「?意味はそのままの意味じゃないのですか?」
「そうねえ、あなた理系だものね。わかるわけがないわ」
「はい?」
曖昧な返事に翔は眉を曲げる。
「それはね……有名の告白のフレーズよ」
「え!?」
「まさか、翔は私のこと……」
「ち…違います!?」
「それは傷つく言葉」
「いや、そう言う意味じゃなくて!あ、えっと、その」
頭が回らない、言葉を探そうとしても見つからない。
嫌いではない、好意的だがこの範囲はどの用に伝えればいいのかわからなかった。
「わかっているわよ。よく意味をわかっていないで使った事」
「あう……ごめんなさい。」
翔は一度頭を軽く下げる。
アメリカ一年間在留したため、色々と知識が掛けていることもある。
それと文学系ではなく理数系の翔は本と言うよりはなにかに研究することが得意だったため、文学の知識は欠けている。
「ありがとうね」
「はい?」
「私を元気付けようとしたのでしょう?ありがとう」
クスクスと笑いながら月を影にして、笑みを浮かべる。
その笑みは普段とは違い、悪魔のほほ笑みではなく、ただ純粋な笑み。
彼女の背中に翼が生えたようにも見えた。
月の女神のように翔はそう見えたのだ。
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