第7話 字が書けないが何故か彼女が出来た?

 綺麗な銀髪のショートカットの受付嬢の所に並んでいた。年齢は18歳になるかならないかだろうか。綺麗系の整った優しい感じで、ブラッドの好みだ。


「ようこそギルドへ。本日のご要件は?」


 受付嬢は少しピクッとした。強面で野蛮そうなのが来たからだ。


「はい、ぼ、ぼ、冒険者になりたくて来ました。俺、先日迄兵士をやってて、これで退役になったんです。はい。」


 受付嬢はあっ!と思った。そう、間違いないと。大当たりが来たと。今迄碌でもない冒険者にばかり言い寄られていた。見たところ、女の子の従者を従え、服装などから大事に扱っている。見た目は怖いが、怖がらせないように喋っている。


「あのう、ひょっとしてブラッド様ですか?」


「あれ?俺を知っているの?」


「はい。有名ですわ。一度凱旋の時に見ました。そうなのですね。従者の方も登録をされるのですか?見た所奴隷のようですが、従者登録か冒険者としての登録を選ぶ事がで来ます」


「こいつは奴隷だが、奴隷としては扱わない。身の回りの世話はして貰うが、奴隷じゃない場合の登録はどうなる?」


「はい。それでしたら冒険者ですね。従者の場合、報酬が全て主人に入りますから」


「分前は7対3で頼む。俺の方で宿代や装備を買い与えるからだ」


「良いのですか?普通は3じゃなく1ですわよ」


「やる気を引き出す為だ。いずれ自身を買い戻させるが、のらりくらりとやられるよりは、高い金を与え、頑張る方がお互いの為になるからな」


「ブラッド様はボクのような奴隷にも優しくしてくれます。話し方もぶっきらぼうですが、まだ一度も叩かれていないんですよ!食事も同じのを注文してくれますし」


「あらお優しいのね。それではこちらの紙に書いてください」


「坊主、お前読み書きは出来るか?」


「はい。出来ます。」


「悪いが書いてくれ。俺にはこの国の文字の読み書きは出来ない」


「ブラッド様は読み書きができないのですか?」


「俺の出身国は文字が違う。奴隷になってからこの国の言葉を教えられなかったから読み書きが出来ず、母国の文字しか読み書きが出来ないんだ」


「そうですよね。最後に母国語で良いので署名をお願いします」


「じゃあボクが読んで書くので、答えてください」


 確認しなければならなかったのは魔法適正とスキルの有無だ。


 スキル 有

 火魔法

 魔法反射

 剣術(上級)

 回復術(上級)


 魔法適正 有


 勿論名前や性別を書くところがある。タミアはホッとした。もしも主人が全てを書く場合、隠せないからだ。


 タミアは受付嬢にそっと男の子と思われているから、出来れば女だとバラさないでとお願いした。自分の申込用紙に女だと書かざるを得なかったからだ。


 スキルを聞かれている時に、スキルを4つも言っており、怪訝そうに見ていた。


「あのう、スキル持ちって滅多に居ないのですよ。ましてや2つ持っている方はこの国にも今は居ないのですよ。ブラッド様が倒された敵総大将の聖騎士も2つ持ちで有名でしたが、2つを持っていると飛び抜けた能力を持っていると聞きます。訂正するなら今の内ですよ」  


「ああ、間違いない。何故持っているかはここでは話せないな。それにその聖騎士様とやらを俺が殺ったから、恩赦で奴隷から開放されたんだ」


「分かりました。規則ですのでスキルを検査します。この魔道具に手をかざして魔力を流してもらいます」


「その、もし俺がスキルを4つ持っていたらどうする?」 


「じゃあ貴方とお付き合いさせて貰いますわ。でも、スキルを2つ以上お持ちではなかったらどうしてくれるのでしょうか?」


「この場で腹を切って詫びる」


「その、こんな所で死なれたら困りますから、じゃあ私が見栄を張りました。アイリ様申し訳ございませんでした!と土下座するのはどうかしら?」


「分かった。ついでにこの財布を付けよう。金貨30枚程入れてある。じゃあ、俺が嘘を言っていなかったら俺と付き合う、俺が嘘を言っていたら土下座し、財布を渡す。これで良いんだな?」


 受付嬢は打算もあった。もし本当なら一気に彼氏候補にしたい。見た目も少し強面だが悪くないし、ぶっきらぼうだが女性にはやさしそうだ。結婚を賭けなかったのは、一度デートして、嫌なら何かと理由を付けて生理的に合わないので付き合えないから別れる等と言えばよい。もし本当ならば大騒ぎになる存在だ。どちらに転んでも損はない。


 タミアは内心ガッツポーズを取っていた。売り言葉に買い言葉で付き合う事を賭けたからだ。昨夜秘密を話してきた。加護持ちで、それも殺した相手の持っている加護を奪うのだと。嘘を言う理由もメリットも何もない。嘘をつけるほど器用な性格ではないし、しないだろうと。ただ、この大男が受付嬢と付き合う事になると確信したが、モヤモヤと嫉妬の感情があるので戸惑った。もし、万が一この男を好きになったらその時は彼の女の一人に収まれば良いと。


 その前に魔力量のチェックもする事になったが、測定不能だった。魔道具の故障かな?と思うが、スキルの確認をするのには魔道具に魔力を流さないといけない。少なくとも発動したのならば魔力持ちだと言う事が分かる。


「最終確認ですが、今なら撤回が出来ますが、宜しくて?」


「あんたこそ、今なら疑った事を一言ごめんと言えば笑って終わらせるぞ?」


「ふふふ。お互い意見を曲げないという事ですわね。さあ魔道具に魔力を込めてください!」


 そうして指示に従い、ブラッドが魔道具に魔力を流すと、魔道具から吐き出されたプレートにタミアが書いた通りのスキルが記載されており、本当に4つのスキルを持っている事が判った。


 手に持ったプレートを見て受付嬢は震えていた。


「す、す、す、す、スキルが、スキルが4つもあるなんて!本当だったのですね!わ、私の負けです。し、仕方がないから、ブラッド様のか、彼女にな、なって差し上げます」


「俺が嘘をついていない事が分かってくれて嬉しいよ。まあ、嫌なら先の条件は無かった事にしても良いんだぞ?いやいや食事を一緒にされても嬉しくないからな。取り敢えず冒険者への登録は問題ないのか?」


「は、はい。問題ないです。その、嫌じゃないですわ」


 タミアが割って入った。


「その、後ろが並んでいて視線が痛いので、ブラッド様が泊まっている宿にて夕食をするのはどうですか?森の精霊亭です」


 その受付嬢は頷き、急ぎ登録をしたが、余りの出来事に肝心なランクや依頼の受託について言い忘れていた。


 そうして取り敢えず、冒険者登録と、パーティー登録をしたのであった。

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