傷病軍人奴隷を買う!〜買わされた奴隷はお姫様だった〜去勢された元戦奴は男を取り戻さんと足搔く!

鍵弓

第1話 プロローグ

 その大男は肩に9歳の女の子を乗せ、やはり9歳の女の子の手を引きながら、4人の戦士と3人の美少女を引き連れてワイバーンと対峙していた。


「トト様あっちからも来ます!」


 そう言ってから重力魔法をその女の子が掛け、皆でワイバーンをボコっていく。女性陣の顔はよく見えないが、戦士は今肩を並べて崖を下っている奴らだ。最近見る不思議な夢だ・・・


 そして今は敵に奇襲を掛けており、ブラッドは敵陣の奥深くに斬り込んでいた。戦奴としての残り4度の戦いが残っており、これが幾度目の戦いかもう覚えていない。母国にて徴兵され兵士となっていたが、国が滅ぼされ、その滅ぼした相手国の戦闘奴隷として戦いを生き抜いてきた。10戦、そう、10戦の戦いに参加し、毎回少なくとも敵兵を一人殺さなければならない。殺さなければ参加した扱いにならず、残りの回数が減らないのだ。


 ブラッドは現在24歳。身長180cmとこの世界ではかなり高い。青い髪のいかつい体育会系の顔で強者の雰囲気があり、中々女性は近付いてこれない。立派な軍馬に跨り、フルプレートアーマーを着込んでいる。ただ、指揮官を除くと周りの戦奴達は皆精々チェインメイル位で、革鎧が多かった。


 戦奴は最前線の死に兵として投入される。勿論将校を殺ろせば奴隷から開放される。しかも奴隷を買う買奴権を与えられ、その将校の階級次第では追加の報奨も貰える。総大将であれば一夫多妻権を与えられるのだが、戦奴隷には余り意味を成さない。何故ならば奴隷に成った時に去勢されているからだ。


 総大将は崖を背にした敵陣に、自殺行為としか思えない崖下りの突撃隊を編成し、それを戦奴にさせたのだ。殆どは崖を下っている最中に転倒し、転げ落ちて無駄死にしていった。出撃前に隣で晩飯を食ったライズと言う奴も目の前で転げ落ち、首の骨を折った。だが、もはや仲間の死に対して何も感じない。今は夜更けだ。月明かりを頼りに2千騎が駆けていた。本来自殺は拒否できるし、この任務はどう見ても自殺任務扱いになる。だが、奴隷ではない指揮官が一緒に崖を下る為、自殺任務ではないとなった。尤もその指揮官は崖下りの最中に転倒してあっさりと死んでいったが。


 敵兵4万に対し、こちらは2万だった。既に数の上で負けており、総大将は敵の将を直接狙いに行ったのだ。300騎程が崖下りに成功し、野営の天幕に火を放ち始めた。


 ブラッドには本来必要が無いのだが、一律にファイヤショットを放つ事の出来る簡易の魔道具を渡されていた。ブラッドは自前の魔法を放っていたが、この魔道具の恐ろしいところは、魔力のない者は生命力を糧に魔法を放つ事が出来る。命を削るので使い捨ての相手に使わせる魔道具なのだ。


 ブラッドがとある天幕に火を放とうとしていると、突如その天幕から1人の男が出て来てそいつと戦う事になった。相手は下着のみであり服を着ていない。寝ている所だったようで、騒ぎから慌てて外に出た為か裸足だったが、流石に剣だけは持っていた。


「何だ貴様らは?どうして本陣にいるのだ?」


「参る!」


 ブラッドは何だこいつ?何故下着のみだ?いくら本陣でも油断し過ぎだろうと思うも、ロングソードを振った。


 しかしあっさりと剣で逸らされ、剣を突いて反撃を繰り出してきた。

 何とか躱したが、ヘルムに掠りガキーンと乾いた音がした。


 強いぞ!ブラッドは背筋がぞくっとした。


 そうして斬り合いが始まり、10数合斬り結んでいた。


 互角というよりも相手の方が遥かに強かった。そして左手首を半ば切断されるように刺し貫かれた。しかし、怯まずそのまま剣をその左手で無理矢理掴んだというよりも、筋肉に力を入れて抜けなくし、その隙に至近距離からファイヤーボールを食らわせた。


 まさかのタイミングと油断もあったが、魔道具ではなく躱す事がまず出来ない至近距離から魔法が放たれた為に直撃し、相手に大火傷を負わせた。そして燃えながら膝をつき、倒れまいと何とか立とうと藻掻いている隙に一気にその首を刎ねた。

 本来の装備であれば勝てない相手だったが、ほぼ裸の相手だったから勝てた。


 首を刎ねた途端にその相手から何かが入ってきた。どうやらそいつはスキル持ちだったようで、ブラッドにそいつのスキルが移ったのだ。不思議な文字が頭に現れ、やがて体に取り込まれた。


 ブラッドには秘密がある。生まれ持った加護により、殺した相手がスキルを持っていたのならばそのスキルを奪う事が出来るのだ。


 そもそも加護持ちは100万人に1人、スキル持ちも1万人に1人と言われている。


 この戦いの開始時点でブラッドは2つのスキルを持っていた。炎の魔法のスキルと、魔法反射を持っていたのだ。正確には持っていた魔道士を以前の戦争で殺して奪ったのだ。今回得たのは剣術の最上位のスキルで剣聖とも言われる奴の根源たる剣術(上級)。それともう一つは回復術で、最上級のスキルだ。スキルを2つも持っているのは10万人とも100万人に1人とも言われている。


 ブラッドは思い出した。敵の総大将は聖騎士と言われていて、ツインスキルだ。今自分に入ってきたスキルの名前と同じスキルを持っていたと。そう、間違いなくこいつだと。確か俗称性騎士、マタル・バルだ。


 そして身に着けていた装備を奪った。死んだから見えるようになっていたが、腕に国宝級のアイテムであるストレージの腕輪があり、それを外すと自らに装着した。するとその腕輪は見えなくなったが、使い方は何故か分かる。


 急ぎ敵将が使っていた宝剣をストレージに入れ、天幕の中の物をストレージに入れていったが、奴が裸だった理由が分かった。呆れた事に女と情事の真最中だったからだ。女は殺されるとビクつき、恐怖から失禁していた。


 その性騎士の首をその女の前で己の剣に刺し、天幕から出て高々と掲げて叫んだ。


「総大将のマタル・バルを戦奴ブラッドが討ち取った!我らの勝利だ!」


 すると友軍が攻め入り、敵軍は敗走していった為にブラッドは生き残った。その後ブラッドも乱戦に巻き込まれたと言うか、総大将の首を刎ねた者として執拗に狙われ戦いまくる羽目になり、その最中に怪我をしていた左手を失い、やがて道端で意識をなくしたのであった。


 その後ブラッドは天幕の中で目覚めたが、首に違和感が有った。首輪が無いのだ。


 呻きつつ起きようとしたがうまく起きられなかった。左手がないからだ。傷は既に塞がっており痛みもない。また、鎧を脱がされ服を着ていた。


 目覚めてから周りを見たが、小さな台に置かれていたグラスには水が注がれており、それを一気に飲んだ。

 ブラッドは顎に手をやったが、一日は経過していない感じだった。


 目覚めたのが分かると、そこにいた衛生兵?が黙って天幕を出ていったが、少ししてから上機嫌な総大将が現れた。


「よくぞ敵の総大将たる聖騎士、いや性騎士を打ち破った!見事な戦いだったと聞いておるぞ。約定により既にそなたは奴隷から開放しておる。そなたには報奨として金貨1000枚が渡され、買奴所有権と市民権が送られる。それと一夫多妻権もだ。これで複数の奴隷を買う事が出来るぞ。この後どうするのだ?本来で有れば然るべき地位を与え指揮官に任命するのだが、その手では残念ながら傷病兵として除隊になる。ところで奴の持っていた宝剣等を知らぬか?」


「その、将軍殿、我軍は勝ったのでしょうか?」


「そうか、そなたは戦いの最中に怪我をして気絶しておったのだったな。そなたが敵将を討った事により敵は敗走し、我軍の大勝利じゃ!このまま相手国に攻め入る事になり、我が隊も朝食の後追撃に入る」


「それはおめでとうございます。その、剣は私が勝鬨を上げた後は、大将首を討った者として執拗に狙われ、必死に戦っている最中に気絶してしまいましたから、誰が持ち去ったのか迄は分かりません。気絶する前は持っていたのですが。それと身の振り方ですが、この体では大した事は出来ませんが、低級な魔物位は相手に出来るでしょう。ですから、ぼちぼちと冒険者でもしようかと思います」


「そうか。確かにそなたは自分の剣しか持っておらなんだそうだ。残念ながら敗走した敵が持っていったのであろう。確かストレージ持ちの筈だが、死体に無かったからそれも回収されたのだろうな。そなたは敵から奪った輜重隊の荷台に乗って行くが良い。主に傷病兵と死体を王都へ運ぶでな」


 そうしてブラッドは戦場を後にし、王都に傷病兵として名誉の凱旋を果たすのであった。

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