第55話 ツンデレザーハック


 ギルドの方針が決まり、帰ろうとした時、いきなりザーハックさんから決闘を挑まれてしまった。


 僕は思わず聞き返す。


「決闘ってなんでですか?」


 すると、ザーハックさんは、言葉が詰まっているのか、上手く話せていない。そして、声を荒げて言った。


「俺が勝ったら坊主は俺の言う事を聞いてもらう! 坊主が勝ったらその時は好きにしろ!」


 まるで、僕にメリットがないのですが。

 好きにしろって言われても……。


 多少脳筋な部分はあるけれど、今回はあまりにも緻密ちみつさに欠けている。


 それに、僕は戦う理由がないし。どうしようか。


 そんな事を思ってると、ヒロさんが僕の代わりに口を開く。


「ザーハックさん、そんな言い方はさすがにないんじゃないかな? 声のボリュームを下げて、優しく言わなきゃ他の人に迷惑だよ?」


 あ、そこですか。確かにそうなんだけどさ。



 ヒロさんの言葉を聞いたザーハックさんは、「すまない」とだけ言い、僕は掴まれ、ギルド会館にある、決闘場まで連れて行かれた。


 決闘場は、ルールやフィールドなど、様々なカスタマイズが自分たちで行うことができる。


 ギルド対抗戦と同じ仕組みなので、ここで死んでも本当に死ぬ事はない。


 何もない、殺風景な砂のフィールドに僕は立たされた。僕はザーハックさんに話しかける。


「何でこんな事までするんですか? 僕が用意していたお礼のお菓子がザーハックさんの分が残されていなかったからですか? 

 それならすみません、もう、ヘルプの人が来ていることなんて知らなくて……」


「そんな事ではない! いいか、ルールを言うぞ。

 今回のルールは、この的を自分の体のどこかに貼って、この的を守ることだ。

 破壊されたらそいつの負けだ。シンプルで分かりやすいだろ?」


 なるほど、いかにも、って感じのルールだな。分かりやすい。このルールなら、弱い僕にも勝機はある。


「そうですね。分かりました。では、始めましょう」


 なんで挑まれたは分からないが、やるしかなさそうだ。


 ザーハックさんの的は腹部のど真ん中にある。

 攻撃を誘っているのか。  

 

 それとも何かの作戦か。油断できない。相手が相手だし、そう簡単に勝てないだろうな。


「では、カウントダウンを開始する」


 ザーハックさんがそう言い、画面を操作すると、僕とザーハックさんの間に大きな文字で『10』の数字が現れて、カウントダウンが始まった。


 そして、0になり決闘が開始された。それと同時にザーハックさんは僕に向かってダッシュして攻撃を仕掛けてきた。


 右、左、右、左と、鎌を振りかざす。僕は何かの違和感を感じながらもそれらを躱していく。


「どうした坊主。避けてばかりでは、俺には勝てんぞ!」


「そうですね。ではいかせてもらいます!」


 僕は武器の鎌を弾き、剣で的を突き刺した。すると、的が、パリーンっと割れて、決闘終了の合図が鳴り響く。


「え? あれ? ん? え?」


 僕は何が起こったのか分からなかった。勝ったの? まあ、ザーハックさんの的が割れているから僕の勝ちなんだろうけど。


 なんか、あっけなく終わったので、勝利した実感が湧かない。


 そして、数秒経つと、僕たちはギルド会館へと戻された。ギルドのみんなが僕の所へと集まってきた。


 リーフィスさんが心配そうに僕に問いかける。


「トワさん大丈夫ですか? ザーハックさんに連れて行かれてましたが、乱暴な事されていませんか?」


「あぁ、大丈夫でした。そんな事はされてませんよ。ご心配おかけしました。ありがとうございます」


「ほっ。それなら良かったです」


 僕の言葉にリーフィスさんは安堵した様子だった。ザーハックさんが近づき、手を頭に当て、チラチラしながら何かを呟いている。


「あー。負けちまった。窓口の仕事も防衛警備団も、もうないしなぁ。これからどうすっかなぁ」


 まあ、勝ったのはいいけど、好きにしろってどういうことだろう。もう帰っていいのかな? 


「僕の勝ちですね。帰っても大丈夫ですか?」


 その言葉にザーハックさんは驚気を見せる。


「い、いや、坊主の勝ちだぞ? 約束通り好きにしていいんだぞ!」


「んー、なら帰ります! お世話になりました! また遊びに来ますね」


「あ、あぁ……!」


 別に変な事は言ってないけどな。どうかしたのかな? 明日も早いし帰って寝なきゃ。


 帰ろうとした時、カランッカランっとドアが開く音が聞こえる。そこには、書類を抱えたメルさんの姿があった。


 メルさんはザーハックさんを目視した後、笑顔で話しかけた。


「あら、ザーハックさん、トワさんたちのギルドに入れてもらえましたか?」


「あー。いやー」


 え? まさかギルドに入りたいがために、こんな回りくどい事を? でも、ギルドには興味ないって前言ってたし、嫌なのかと思ってた。


 それを聞いた、ヒロさんは口に手を当て、ニヤニヤしながら言った。


「まさか、ザーハックさん。ギルドに入れてもらうために、トワ君に決闘を申し込んで、わざと負けたんじゃあぁ?」


「あ、いや、違う! 違うと言ったら嘘になるが! いやただ、これから暇になるなぁって思っただけだ!」


 苦し紛れの言い訳をするザーハックさん。それを見たメルさんは不思議そうに話す。


「ザーハックさん、トワさんがギルドを作成した辺りから、『俺もギルドに入れてもらえるだろうか』って仰ってましたよね? 

 あと、この前の依頼の時も……」


「あー! メルさん! もういいだろう! もうやめてくれ! 分かった、俺が悪かった。

 そうだ。俺は、坊主のギルドに入れてもらいたかっただけだ!」


 メルさんの言葉を遮り、ザーハックさんが慌てて理由を話してくれた。


「ザーハックさんツンデレだ!」


 ヒロさんはそう言って、メルさんに近づき、耳に当てて、こそこそと何かを言い始めた。


 ヒロさんの事だ、後で教えてとか言っているのだろう。

 でも、ザーハックさんがそんな事を思っていてくれたなんて嬉しいな。


「では、僕が勝ったので、ザーハックさん。僕たちのギルドに加入してください」


「あ、あぁ、いいのか?」


「僕は構いませんよ。みんなはどうですか?」

「もちろんオッケーだよ!」

「わたくしも大丈夫です」

「もちろんっす!」

「よろしく頼みます」


 みんなが、言葉をかける中、リーフィスさんは頭を下げた。


「感謝する。これから迷惑をかけるがよろしく頼む」


 こうして、僕たちのギルド『永遠の絆』にザーハックさんが加わった。


 ザーハックさんは他の支部から、ヘルプが入る事になった事で、防衛警備団に戻ることになってたらしいのだが、若い者に任せていきたいとの事で断ってたらしい。

 

 ギルドに興味がなく、一人で旅に出ようと思っていたけど、僕たちのギルド活動を見て、ギルドに入ってみたいと思えてきたみたい。


 早く言ってくれたら良かったのに。僕たちのこれからの活動方針と明日の活動を伝えた後解散した。


 この件でザーハックさんは、ヒロさんにツンデレとイジられ続けるのであった。

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