第9話 白い触手、黒い海

——

 深夜、街は静寂に包まれていた……


 「イガラアァァァァァァア!」


 その瞬間はその静寂は破られた

 激しい唸り声と共に10本の白い巨大な触手が地面を破壊し貫いて現れた


 「やっば、ちょっとこれは……やりすぎちゃったかも! てへっ!」


 その惨状を見た赤い髪の青年は首を掻いて言った



——

 「酷いな……」


 青い鎧は更地になり10個の巨大な穴の空いた街を見て言う


 「俺は穴の中を見てくる、お前は生存者を探せ」

 「分かった」


 赤い鎧は翼を広げ飛び立ち、巨大な穴の中へと入っていく


 「っと、生ぞ……くそが……」


 歩き出した青い鎧は小さなボロボロの靴が転がっているのに気が付いてそう呟いた



——

 1時間前


 「起きろ流牙ァ! 巨大触手が大暴れしたらしいから行くよぉ!」

 「ぐぇぇ!?」


 霊代はソファーに横になった流牙の腹に右脚を叩き込む


 「起こし方やばいっ……巨大触手?」

 「そう巨大触手! ほらほら急いっ……」

 「手刀!」


 立ち上がった流牙は霊代の首を叩き、気を失わせてソファーに寝かせる


 「ふぅ……行くか」


 流牙は青い上着を着てスタッフルームから出る


 「おっ流牙くん! 珈琲頼むよ」

 「すみません今は……霊代が起きたら頼んでください」

 「……行ってらっしゃい!」


 政則は流牙の肩を叩く


 「はい!」


 流牙は走り出した



——

 現在


 「どこまで続くんだこれ……」


 赤い鎧は穴の中を急降下で進んでいた

 普通の人間ではもう何も視界に映らない程に暗い


 「スピード上げるかっ……!」


 鎧が音速を超え……ようと瞬間


 「いがらぁぁい!」


 その声と共に穴の先から白い触手が迫る



——

 「おっ……ら……駄目か……」


 青い鎧は瓦礫を持ち上げ投げ飛ばすがその下は肉や砕けた骨が散らばってるだけだった


 「これは……」


 流牙はガラスの割れた写真立てを手に取る


 「早く……倒さないとな……」


 写真には2人の男女と小さな男の子が写っていた


 「俺の牙で……砕く……っ!?」

 「ぐれがぁぁあ!」


 1つの穴から巨大触手が1本姿を現し赤い鎧が吹き飛んで地面と衝突する


 「大丈夫か鷹弐!?」

 「あぁ問題ない……けどあいつやばい……!」


 赤い鎧は立ち上がり拳を構える


 「さっさと潰さないと日本くらい一瞬で更地になる!」

 「っ……行くぞ!」


 2人の鎧は駆け出す

 青い鎧は触手の出てきた穴の周囲を走る

 赤い鎧は翼を展開し暴れ狂う触手の周りを舞う


 「同時に最大威力のをぶちかまして本体を引きずり出すぞ!」

 「了かっ……」

 「イガルィァァウウ!」


 地底に潜む何かは触手を振り回し鎧を吹き飛ばそうとする


 「ゼァ!」

 「グレッ……ァァ!」


 青い鎧は地面を蹴り飛ばして触手を飛び越え赤い鎧は暴れる触手をかいくぐる


 「よし今なっ……」

 「イガガァァァア!」

 「るがぁぁあ!?」

 「流っづぁぁぁあ!」


 2つの触手が突然現れ跳ぶ青い鎧は殴り飛ばし宙を舞う赤い鎧は叩き落とす


 「まじかよ……!」


 地面に腕を突き刺しその場にとどまった青い鎧は3体の触手を見て鎧の下で汗を流す


 「グレァァァァ!」


 肘で空気を殴り空中に停止した赤い鎧はすぐに加速して触手へと突撃する


 「っ待て鷹弐!」

 「グレァァァァイ!」

 「イガギガガガァァァア!」


 3体の触手は飛び込んできた赤い鎧は押し潰し、弾き飛ばす


 「はっ……が……!」


 赤い鎧は地面に叩きつけられると鷹弐とホークリスに分離した


 「鷹弐!」

 「イガァ……」


 触手達は穴の奥底へと姿を消した


 「くそっ……今は退くしかなっ……なんだ!?」


 青い鎧が鷹弐は担いで逃げ出そうとすると突然大地が揺れ出し、空気はまるで命を失ったように冷たくなっていく


 「なにが来っ……な!?」


 突然10個の穴から黒い液体が勢い良く噴き出す

 そして10個の内の最も中央に近い穴から噴く黒い液体の中から人型の何かが現れる


 「今度はシャークルスかよ……!」


 現れたのは黒いアーマードシャークルスだった


 「こんにちは、命ノ 流牙……」

 「っ……?」


 青い鎧はその呼び方に微かな違和感を覚える


 「久しぶりだなそっちの苗字で呼ばれるのは……」

 「忘れていたのか?」


 地面に着地した黒い鮫の鎧は少し寂しそうに問いをかける


 「忘れるわけがない……」

 「そうか、そうかそうかそうか……!」


 黒い鮫の鎧は嬉しそうに頷く


 「さっきからなんなんだおまっ……」

 「ゼルガァ……!」

 「なっが……!?」


 青い鎧が言い切る前に黒い鮫の鎧は一瞬の内に青い鎧の懐に入り、彼の腹に拳を放つ


 「づっ……ゼァァィア!」


 青い鎧は鷹弐を投げ捨て、黒い鮫の鎧の拳によって吹き飛ばされる


 「怪我をさせないよう為吹き飛ばされる前に投げ捨てた、それも一瞬の内にその判断を……さすがは私のっ」

 「ゼァァァァァイ!」


 青い鎧は着地した瞬間に大地を蹴り、黒い鮫の鎧の立つ方向へと飛び上がる


 「どう来る流牙……!」

 「ゼァァァア!」


 風を蹴り方向を切りかえて着地し、地面を貫く


 「それで姿を隠した気になっているのか……残念だ!」


 黒い鮫の鎧は地面に右脚を叩き付けて砕く

 地面が砕けた事で青い鎧はその姿を現し……


 「シャークファングァァァァ!」


 コンクリートや鉄の破片、土埃を突っ切って黒い鮫の鎧に向かい右拳と共に青い2つの刃を放つ


 「そう来たか……素晴らしい!」

 「がぁぁっ……!」


 青い刃が衝突する寸前、黒い鮫の鎧は青い鎧の背後に一瞬で移動しその背中を踏み付ける

 青い鎧はその身体を地面にめり込ませる


 「な……でだ……!」

 「単純な力差、仕方のない事だ……」


 黒い鮫の鎧は青い鎧の頭を掴み、自分の方へと向けさせる


 「いいか流牙、生物にはそれぞれ圧倒的な力の差っていう物がある……地球で人間は知能によって他の生物との力の差を覆し頂点に君臨した……全ての世界で唯一の偉業だ……だかな、そんな人間でさえ覆す事が出来ない程大きな力の差、私とお前の間にはそれが存在している……」

 「くそっ……がぁ!」


 青い鎧は黒い鮫の鎧に少しでも傷を付けようともがくがその手や足は鎧には届かない


 「だから強くなれ……神の力を手に入れるんだ流牙……!」

 「神の力っ……なんだよそれ……!」

 「いずれ分かる……」

 「っ……待て!」


 鎧に離された青い鎧は立ち上がり、追いかけようとするがその手が届く前に黒い鮫の鎧は地面を黒い液体へと変化させその中に姿を消した


 「ずっ……はぁ……黒い……鎧……」


 青い鎧は地面に膝を付け……


 「強く……なるっ……」


 体勢を崩して倒れ、穴の中へと落ちて行く



——

 「霊代ちゃん起きないなぁ……もう勝手に入れちゃ……」

 「ホクァァア!」

 「なんだ……?」


 カウンター席に座ってスマホを見つめる政則はターンの扉の外からのホークリスの声に気が付き扉を開く


 「っ大丈夫かい!?」


 そこにはホークリスの背に倒れ背中や脚が抉れ右腕があらぬ方向に曲がった鷹弐がいた


 「おっきい鷹さん、とりあえず中に入っといて! 霊代ちゃん包帯とかっ……いない……?」


 政則がスタッフルームに駆け込むとそこに霊代の姿は無かった



——

 「なんなんだあいつら……場所も掴めない……!」


 どこかの廃工場、青い怪人は頭を抱える


 「おいドレッド!」


 青い怪人がドレッド、そう呼んだ相手は赤い怪人だった


 「なーんですかエルードちゃーん?」


 赤い怪人は小馬鹿にしたように青い怪人をエルード、そう呼んだ


 「お前が作ったんじゃないのかあの黒いアーマード!」


 青い怪人はそう言って赤い怪人に詰め寄る


 「そうやってすーぐ人を疑うんだから〜あーやだやだ」

 「ってめ!」

 「ほら、女の子がそんな言葉使いしちゃ駄目だろ〜?」


 青い怪人は怒りを露わに、赤い怪人は煽るようにしてまるで姉妹喧嘩のように言い合う


 「まぁ俺も忙しいんで、じゃあな」

 「待っ……クソったれが……!」


 赤い怪人は身体を塵に変え風と共に姿を消した



——

 19年前


 「父さんがしてるけんきゅー? てなんなんだ?」


 木の椅子に座って古びた本を読む神無に命ノ 流牙は質問を投げかける


 「研究がなんなのか……簡単に言うと……自分が好きだと思った事について魂を捧げて知ろうとすること……それが研究だ」


 神無は天井を見つめて言う


 「じゃあ父さんは何を知りたいの……?」

 「……父さんはな……」


 神無は流牙に微笑みかける……



——

 「っ!」


 青い鎧は暗闇の中で目を覚ました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る