第4話 なにしやがんね?もう嫌やわ。わしおうち帰りたいねん。
だだっ広くてやたらアツい草原にいる。ここはアフリカのサバンナだ。
「お前には、野生で生き残る『スキル』を身に着けてもらう」
博士の言葉。ああうぜえ。
なんでこんなことしなきゃなんねーんだよ。てか何?野生で生きるスキルって?今から狩りでもしろってのか?
「お前にはこれから素っ裸で一週間生きのびてもらう」
いやいや頭おかしいでしょ。どうやって生きてけって言うんだよ。
「大丈夫だって。わしが見といてやるよ。なんかあったら助けてやるから。」
「もしあんたがウンコ言ってる間にライオンに襲われたら???」
「そん時はそん時だ。まあいいからつべこべ言わずにやってみい。」
ってなわけで、俺は今ここにいる。
あーー腹減った。なんか食わねえと。とりあえずその辺に生えていた草を食ってみる。
まっっっっっっっっず!!
ペッと吐き出して、しばらく舌を指でこすって洗い流す。マズ過ぎんだろこれ。てかなんだよ。こんなに広いくせに全然植物とか生えてねえし、見渡す限り動物はおろか虫一匹いない。いったいどうやって生きてけって言うんだ?
そうしているうちに、ほら日が暮れてきたじゃねえか。どうすんだ?どうすんだ?真っ暗になっちまう。いやん怖い。
「おいジジイ、火ぐらい寄越せよ」
返事がない。
仕方がねえからその辺にある石を二つ拾って、風に乗って流れてきた枯草を使って火を起こそうとした。とにかく焚き木だ、めいっぱい集めねえと。一晩中火を絶やさないでおく必要がある。どこかで読んだっけ。たしか動物は火を怖がるんだ。
かち、かち
火花一つ飛びやしない。次は木と木を頑張ってこすり合わせてみる。
ごしごしごしごしごし
ちょっと焦げ臭くなって来たぞ、イイ感じだ!なんて思ってると、ああいつの間にかおてんとさんが橙色になっちゃってるよ。どーすんだよ。どーすんの?
「おい、ジジイ!」
返事はない。
「死ねよクソジジイ!!」
悪態をついてみた。それでも返事がない。ウンコにでも行ってやがるのか。
しょうがねえからとりあえずどこかの木の下で今日は一晩過ごそう。一睡でもできたらラッキーだ。
なんて思って俺はそばにあったヤシの木の近くで寝っ転がった。で、そのまま寝入ってしまったのである。
夜。サバンナの夜は恐ろしい。ホントに、冗談抜きに、何一つ見えない。限界まで目をかっぴらいているのに目をつむっているような、なんか変な感じ。
音が聞こえた。
かさり。かさり。かさり。
それはどんどん近づいてくる。鳥肌が立った。わきの下を汗がツーと流れ落ちる。なんだ?猛獣か?
わからない。わからない。怖い。
かさり。かさり。かさり。
ぐるるるるるる・・・
ヤバイ!猛獣だ!!
突如俺の腕に猛烈な激痛が走った。俺は噛みついてきた何者かの頭を思いっきりぶん殴った。脂ぎったバリカタのたてがみの感触、やばい、ライオンだ!!
死に物狂い。あぎゃぎゃぎゃぎゃががががとかなんとか叫びながら、俺な無我夢中で奴の眼玉を潰した。一切の容赦はなかった。指先で生暖かい卵がぐしゃりとつぶれる感覚。生臭いにおいが漂ってくる。
きゃういん!!
ライオンは弱音を上げた。いける。いけるぞ。
俺はさっき火をつけようと思って拾った石を思いっきり声がする方に向かって投げつけた。
ごつん!
音がした。
がっがっがっ
荒い息が聞こえる。どうだ?殺ったか?
その時、月が出てきた。
光に飢えていた俺の網膜に映っていたのは、果たして一匹の大きなライオンであった。
ライオンは片目を潰しており、頭から血を流していた。本当に運のいいことに、さっきの石は彼の脳髄にクリティカルヒットしたらしい。こうなりゃ勝利は目前だ。俺はもう1個の石を掴むと潰れたほうの目の視角から奴に襲い掛かった。その時、雷が落ちた。ライオンは死に、そばのヤシの木はみるみるうちに燃えてゆく。
俺はその日、ライオンの焼肉という世にも珍しいものを食った。味は覚えていないが、とにかく助かったという安堵感から相当美味く感じたのだけは覚えている。
それから俺はだんだんサバンナに適応していった。餌を使ってネズミを罠にかけること、火を起こす方法、起こした火を絶やさずキープする方法、ヤシの葉を屋根にして家を作る方法、いろいろなスキルを身につけていった。
「スジがいいな。」
突如、天上から声がした。聴いたことのある、ウザったらしい声。
「おいクソジジイ。さっさと開放しやがれ。もう疲れたわ。」
ニヤリ、と笑った気がした。見えないが、たしかに博士はニヤリと笑ったのだ。
「しょうがねえなあ。」
言葉とともに、突然目の前が真っ白になった。
「え?なに?なに?なに?なに?」
す――っと気を失ってゆく。いったいなんなんだ?まずい。こんなところで寝ていてはライオンに喰われ・・・・
目を開けると、そこにはシャンデリアがあった。
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