第20話  魔法使いの長

 前線では、トレヴィク・グレン騎士隊長や、アルベールの父ベルナールなどが、リヒトの開けた水のみちをどうしたものかと話し合っていた。水の路の大きさからいって、5人くらいは通れた。(水のみちでは大きい方)


「どうします、ベルナール殿。ディン族は人の精気を取る危険な魔族ですし、

 潜入して時間の経っているアルベール様のことが気になります」


 トレヴィクの言葉にベルナールは、


「アルが、飛び込んで行ってどうなろうが自己責任だ。それよりも、リヒャルト王子、城を多少……いや、もしかしたら破壊してしまっても構わないかね?」


 ベルナールは眼光鋭く、シードック帝国の世継ぎの王子を見て言った。


「壊れたものは直せばいいのです。それよりも失われた命はもう戻りません。」


 どうしても故国の動向が気になって、無理に前線について来たリヒャルト王子であった。


「シードックの民には、帝国の西側に避難せよと勧告してある。」


 援軍に駆け付けた、シードックの隣の古王国、ヴァーレン軍を指揮しているロナード・ドルス騎士隊長だ。


「ロイルの魔法使いの長、ここは少数精鋭の5人で王城を取り戻した方が良いのでは!?」


「私がおさとは? まあ、何でも良いですが、こちらにはまだユア・ストーンの切り札があります。私と、トレヴィク殿。ロナード殿も頼めるか? 後、二人の人選は任せる」


「承知した、ロイルの長」


 何か引っかかるベルナールである。


 前線の基地から、アルベールの作った泉の路を通って、ベルナール達が王城の広間に五人が出て来たのは、リヒトが莉乃と契約してすぐである。


「リヒト!大丈夫か?」


「師匠!自分の子の心配をしないのですか」


 ベルナールはリヒトの足元に転がっているアルベールを見つけ、大きな溜息をついた。


「調子だけは良いんだよね~魔族の餌にされたかな?」


「……らしいですね。」


 ベルナールは顔つきが変わって、


「さてと、僕の可愛い長男君を食べたのは、どの魔族さんですかね~?」


 <オルガって言う背の小さな方の子よ>


「水の乙女、そっちにいるの?」


 <ベルナールさん、油断ならないわ!>


「それは承知してるよ」


 ベルナールは不敵に笑った。


「まずは、アル君の敵を討たないと気が済まなくてね」


 オルガは、玉座の方に逃れようとしたが、ベルナールの火の魔法が行く手を阻む。


『やめて~』


『やめろ!オルガは女だ!火には俺たち以上に弱いんだ!』


「だから~?」


 オルガを囲っていた火の円は次第に小さくなり、終いにはオルガ自体を炎で焼き尽くしていった。


 莉乃はそんな場面を見るのは初めてである。

 本気で怒ったベルナールも怖いが、火で魔族と言えど人に近い者の死を目の当たりにしたのだ。

 ショックでリヒトの肩で震えていた。


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