第17話  魔族の双子

『外が騒がしいぞ、何かあったか!?』


 扉の向こうから、低くて低い声が聞こえてきた。


『はい、閣下。人間の潜入がありました』


『ほう……命知らずな。ここへ連れて来よ』


『はっ』


 オルフェと呼ばれた魔族が、アルベールよりも細い身体なのに、軽々とアルベールを抱き上げ、扉の向こうの部屋に入って行った。

 莉乃は、恐る恐るアルベールの肩に隠れて、ついて行った。


 王の座る椅子には、莉乃の見たことのない種族がいた。

 身体中が鱗に覆われており、頭も鱗だった。

 それで、人型の格好をしていた。

 長い足元まで隠れる女性用のドレープのきいた服を着ていた。


 莉乃が見るに、この世界では珍重であろう、ガラスのグラスで紅い葡萄酒を飲んでいた。


『その者が侵入者か?』


『はい、閣下』


『若いな、人族にして、20代にもなっていないだろう。人の言葉に”怖いもの知らず”と言う言葉があるらしい。正にそれだな』


 閣下と呼ばれた魔族の王は倒れているアルベールから、少し視線を上げた。


『風と水に守護された者か……いにしえの戦いで精霊は肉体を失った。

 神が、人間を助ける存在になれと命じたからだ。この者は、古き神の血も混じっているようだ』


『どうしよう。さっき、思わず力を使ってしまいました』


 閣下の言葉にオルガは、自分の手を見て心配そうに言った。


『大事ない。それに精霊の力が、我らにとって、本当に恐ろしかったのは、はるか神代だ』


『安心いたしました。閣下』


 オルガは胸をなでおろした。


『それにしても……』


 ガーランド閣下は、莉乃と視線が合った。慌ててアルベールの腹側に潜り込もうとして、髪を掴まれた。


 <な、何で~!?>


『悪く思わないでくれ、これも我の力の一つだ』


<髪はやめてよ!痛いじゃないの!>


 閣下は、莉乃のことが見えて、聞こえて、掴むことが出来るらしい。


『おお、乙女に失礼だったな』


 と言って、解放してくれた。


『そなたは変わった精霊だな……見たこともない格好をしている。何の精霊だ?』


 莉乃はそっぽ向いた。


『オルフェ、この人間からもう少し、精気を抜いてやれ』


『はい』


 <ちょ、ちょ! ちょっと!! さっきも言ってたけどアルに何をしたの?>


『うるさいなぁ、オルガがやったように、こいつの精気をもらうだけだよ』


 オルフェと呼ばれた魔族がアルベールの手を取ろうとした。


 <精気を抜くって何~?>


 魔族は三匹揃って、笑い合った。

 莉乃は大分バカにされた気分だ。


『人族の生きていく力、そのものだよ』


 オルフェが再び、アルベールの手を取ろうとした。


 <私は、水の乙女よ! だから、アルには手を触れないで!>


 莉乃は叫んだ。

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