第38話 命令に従ってみたものの ※宮廷魔法使い筆頭視点

 リカード王子から、ナディーン嬢の研究資料を解析せよと命令された。受け取った資料を確認してみると、理解不能な内容が多数あった。いや、ほぼ全て理解できないような内容だった。


 意味不明な理論を積み重ねて、意図が分からない実験内容と結果が記してあった。だけど、資料に書かれている通りに魔法を発動してみると、確かに効果を発揮する。それが本当に正しく発動しているのか、それすらも分からない。何故そうなるのか、原因や結果は分からないまま。


 つまり簡単に言うと、我々には理解することが不可能な研究資料だということ。


 そんな物を押し付けられて、解析するように命令されてしまった。何かしら結果を出すまでは、報告しに来るなとまで言われた。つまり、失敗することは許されない。無理だと言った瞬間に、処罰される。


 あらゆる手段を尽くして、成果を出さなければならなかった。


 宮廷魔法使いで集まり、何日間も議論し合った。そこで出た結論は、理解するのは不可能だということだった。だけど、この結果をリカード王子にそのまま正直に報告するわけにはいかない。王子は、成果を求めていた。


 そこで我々は、ナディーン嬢の研究資料から理解できる部分を抜き出して、捏造と改ざんで体裁をごまかした報告書を仕上げた。成果を偽装するため、新たに開発した魔法道具も用意した。


 様々な問題や欠陥などスルーして、リカード王子に成果を報告する。




「これが、ナディーン嬢の研究資料から判明した新たな魔法理論です」

「ふむ。ようやく解析が終わったのか」


 提出した資料と新たな魔法道具を確認しながら、満足そうな表情のリカード王子。とりあえず、これで面倒な仕事は片付いた。色々と問題はあるけれど、こうするしか方法はなかった。そう思っていたのに。


「それじゃあ、次はこの資料を解析せよ」

「なっ!?」


 新たな研究資料を押し付けられた。次は、これを解析しろと王子から命令される。内容を確認してみる。理解するのが困難だということは、すぐに分かった。


「引き続き、残りのナディーンの研究資料を解析しろ。王国発展のために魔法研究を進めてくれ」


 そう言って去っていくリカード王子の背中を、ただ呆然と見送るしかなかった。


 私には無理だ。私は、魔法の天才であるナディーン嬢とは違う。こんな事を続けることは出来ない。宮廷魔法使い筆頭なんて立場から、さっさと逃げるべきだ。


 こうして私は、今の立場から逃げ出すための準備を始めた。

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