掌 ~過去、今日、この先~

ののの

第1話

「・・・5、4、3、2、1、新年明けましておめでとうございます!」

テレビの中の人たちは、うれしそうにはしゃいでいる。チャンネルを変えても、芸能人や歌手があけましておめでとう、と同じことを口にする。

  また今年が終わっちゃったな。

ごろっとベッドに寝っころがる。新年になったという感じがまったくしない。

昔は母と一緒に騒いでいたけど、年をとるごとに新鮮感がなくなってきている。

  別につまんないってわけじゃないんだけど、なんか物足りない。一人だから?

両親二人そろって旅行に行っちゃったから、家にはわたし一人だけ。だから今年はわたし一人だけのハッピーニューイヤー。だから、家の中はテレビの音しか聞こえない。

  わたしも行っておけばよかったな・・・。

両親に旅行の話をされたとき、今年は初詣を友達と行く約束をしたから、断ったのだ。

  たまにはいいか。こうして静かに新年を迎えるのも。

ベッドの横にあるみかんを口にほうりこむ。

  今年も終わり、時間がたつのは早いものね

学校の先生とか先輩が気づいたら卒業だと言っていたけど、今その言葉の意味がすごくわかる。

  ほんとと早いわね。今年なにあったっけ?

思い返してみるけど、特にこれといって大したことやっていない気がする。

まぁ、何もないく、平和にすごすのも悪くわないわね。

と、ポジディブに考える。本当はちょっとむなしいけど。

「でも、来年は忙しくなるわ」

来年から、高校3年生。進路を決めなきゃいけない年。といっても、大学へ行くか行かないかを決めなきゃいけない。

  やだな。先のことなんてまだ考えられないわよ。

とは言っても、時間は過ぎるばかり。いいかげん進路を考えないといけない年になってきた。何にも考えないで生きるわけにはいけない。

んー。今考えなくていっか。

結局、先のばし。

「今考えることは年の始まりの宝くじよね」

毎年10枚買っている。ほとんど当たったことがないけど、それが毎年楽しみになってる。

  一等当たったら、受験なんかしないで一生遊んで暮らせるのにな。

そんなことを思いつつ、新聞のテレビ欄を見る。

―――あんまり面白そうなのやってないわね・・・ん?

ふと、新聞をとじるとき、ある記事に目がとまった。

「連続放火事件・・・」

最近ここらで起こってる事件だ。一ヶ月前くらい前にこの放火魔が現れて、たぶん被害が4件くらいのぼってるらしい。しかも、すべて被害にあっているのはこの街で、まだ犯人は捕まっていない。小学生はみんな集団下校したり、警察もパトロールを強化している。うちの学校では、先生が気をつけて帰れって言うくらいだけだけど。気をつけろって言われてもねぇ。

  この街も物騒になったわね。今まで、大きな犯罪なんて起こったことなんてなかったのに。

またみかんを口の中にほうりこむ。

  まぁ、うちは大丈夫でしょ。仮に次この街で放火が起こるとしても、そんなの一等の宝くじがあたるくらいの確率だし。

自分とは関係ない話だ。そもそも一等当たるくらいの運がないんだし。

今まで私が買った宝くじなんて、全部かすりもせずゴミ箱行きだ。

  今年は当たってほしいな。

そう思っていると、玄関のほうから何か音がした。ベッドから起き上がり、耳をすませる。

・・・・・・・

特に何も聞こえない。聞こえるのはテレビの音だけ。

  気のせい?でも、なんかくさい。

なにか焼け焦げたかのようなにおい。頭が吸い込むなと危険信号を出している。

「なにかしら?」

部屋を出る。すると、においが強くなる。それに、湯気のような煙がかすかに見える。

台所かしら?

下の階におりる。台所は一階のリビングの隣。火でもつけっぱなしにしたのかもしれない。

火なんて使ってないと思ったけど。

「!?」

目を疑う。

・・・なに、これ?

パチパチと炎がリビングを真っ赤に染めていた。

け、消さなきゃ!

一瞬なにがなんだかわからなかったけど、すぐに体が動いた。

玄関に向かう。

「わっ!」

玄関にももう火が回っている。消火器どころじゃない。

どうしよう!逃げ場がない。

「ごほっ、ごほっ!」

そう考えている間にも、炎はじわじわと広がっていく。

  こうなったら、窓から!

急いで駆け上がる。

・・・と、その時、

バキッ!

足場が、崩れた。

「わっ!」

ふわっと、足が宙に浮き、体が後ろへ傾く。

「ああっ!」

た、倒れる!

ドタンッ!

階段から転げ落ちた。

「いたた・・・」

  ついてないわね。

「ゴホッ、ゴホッ!」

煙がどんどん口に入ってくる。さっきより、煙が多くまっている気がする。

  こんなことになるんだったら、私も旅行に行けばよかったわ!

今になって後悔する。でも、もう遅い。

「ゴホッ、ゴホッ!」

あついし、苦しい・・・。

暑さと煙のせいで、頭がおかしくなりそう。

  はやく・・・にげな、きゃ。

よたよたと立ち上がろうとするが、

あれ?体が・・・。

足に力が入らず、ひざまずいてしまう。

ドンッ!

大きな爆発音。

「っ!」

爆風とともに、壁にたたきつけられる。

まさか、ガスに引火したの!?

壁に上半身をあずけるように、座りこむ。背中をうったせいか、激痛が走る。

「ゴホッ、ゴホッ!」

煙を吸いすぎたせいか、意識がぼんやりとしてきた。

だめ、気をしっか・・り。

最後の力を振り絞って、手に力を入れる。

「あれ?」

手に血がついている。それと同時に、胸のあたりから激痛が走った。

  なん、なの?

のどのおくから熱いものがこみ上げてきた。そっと、胸の痛いところを触ってみる。

あつく、かたく、とがったものの感触。

  刺さってる?

口の中に血の味が広がってきた。

  なに・・・これっ?

大きな木の破片だ。さっきの爆風で飛んできたんだ。

  うそ、でしょ?

木の破片は私の胸の真ん中に刺さっている。たぶん心臓にもろに当たっていると思う。

煙のせいで頭がもうろうとしてきた。もう、動けない。

  私、死ぬんだ・・・。

目の前が真っ白になってきた。炎がすぐそこまできてる。

  ほんと、ついてないわ・・・。

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