第28話

 露店通りに戻った俺達は、先程セレスティアが言っていたお店で食事をするべく歩いていた。


 「ここから結構遠いのか?」

 「そんなに細かく聞いてくる男はモテないわよ。そんなに遠くないから我慢して。」


 うーん。まだ機嫌は悪そうだな。

 意外とセレスティアは根に持つタイプなんだと新しい発見をし、これ以上言えば次は俺が標的にされると思い大人しくついていった。

 俺は空気が読める男なのさ。


 「なにしてんのよ。早くついてきて。」

 「あ、すんません。」


 ……どこか締まらないのは愛嬌として見逃してくれ。

 はぐれないように俺はセレスティアの後を追った。



 少し気まずい空気のたどり着いたのは、俺でも良く知っている店だった。

 到着して少し機嫌の良くなったセレスティアがこちらを振り向き、


 「ここの料理がとても美味しいのよ。さ、入りましょ。」

 「ここって、和み亭じゃん。」


 そう。セレスティアに連れてこられたのは、俺が宿泊していた和み亭だった。


 「あら? ここのお店を知っているの?」

 「知っているも何も、ここは俺が泊まっていた宿だよ。」

 「そうだったのね。それじゃ気軽に入れるわね。」


 そう言いセレスティアが店内へと入っていった。

 俺も続けて入ると店内から、


 「いらっしゃいませー! あ! お兄さんだ!」


 今日も元気の良いビスタちゃんの声が聞こえた。


 「おっす。ビスタちゃん元気にしてたかい?」

 「ビスタちゃんこんにちは。席は空いているかしら?」

 「大丈夫だよセレスお姉さん。おかあさーん! セレスお姉さんとアレクお兄さんがデートしに来てるよー!」

 「「違うから!」」


 俺とセレスティアが同時につっこむが、ビスタちゃんには聞こえていないようだ。

 店内を見渡すと、席が半分以上埋まっていたが皆食後の飲み物を飲んだり喋っている所でちょうど落ち着いた時間に来れたようだ。


 「あらあらいらっしゃい二人共。ビスタ、席に案内してくれる?」

 「はーい! ここの席にどうぞ!」


 案内された席に座ると、ビスタちゃんがテーブルに水とコップを置き、


 「何か注文しますかー?」

 「そうね。私は日替わりランチで。」

 「俺も同じので。」

 「わかりました! むふふ~仲良しなんだね!」

 「ビスタちゃん! 私達はそんな関係じゃないからね。」

 「内緒にしておいてって事だねお姉さん。まかせて! 私は口は堅いんだから。」


 そう言い残し、ビスタちゃんはスキップして厨房に向かっていく。

 はぁ。とため息をついているセレスティアに水の入ったコップを渡し、


 「子供なんだから別にいいじゃねえか。」

 「あなたとそんな風に見られるのが嫌なのよ私は。」

 「結構失礼なこと言うよなお前。」


 俺でも傷付く事はあるんだぞ?

 そんな事をしている内に、ビスタちゃんが料理を持って来た。


 「今日の日替わりランチは、豚の生姜焼き定食です。どうぞ召し上がれ。」


 食欲がそそる匂いを出しながら俺の前に置かれたのは、美味しそうな生姜焼きだった。

 セレスティアの前にも置かれると、二人共お腹が空いていたのか同時に、


 「「いただきます。」」


 そう言い食べ始めた。


 俺達は黙々と食べ、あっという間に平らげた。


 「あ〜やっぱりここの食事はいつ来ても美味しいわね。」

 「そりゃ間違いない。」


 俺とセレスティアは和み亭の食事に満足し食休みをしていた。

 しかし武器をどうしようか。さすがに素手は厳しいしな。

 俺が考えていると、セレスティアが一度咳き込み、


 「おほん。し、仕方ないから今回だけは私が用意してやろう。感謝する事ね。」

 「それはありがたいけど、どうしたんだ急に。」

 「深い意味はないわよ! いなたは感謝だけしてなさい!」


 少し顔を赤くしたセレスティアがそっぽを向いた。

 よく分からないが俺は頭を下げ、


 「とりあえず助かるよ。ありがとう。」

 「それでいいのよ。それじゃ用意するから私は先に帰るわ。」


 そう言い残しセレスティアはさっさと帰って行った。

 え? なんなの一体?

 取り残された俺は混乱しながら辺りを見渡した。

 すると、近くにいたビスタちゃんを見かけたので、


 「これってどんな状況なの?」


 と、尋ねた。すると、


 「うーん。分かんない! 私に分かるのはお兄さんのお支払いする代金だけだよ。」


 そう言い、伝票を渡してきた。

 伝票を見ると、二人分の定食代で2,000ゴルドと記入されていた。

 ……嘘だろ。

 ビスタちゃんを見ると、ニコニコしながら手を出している。あ、はい。分かりました。

 俺は財布からなけなしの1,000ゴルド札を二枚取り出しビスタちゃんに渡した。


 「お兄さんありがと! またいつでも食べに来てね。」

 「う、うん。ごちそうさま。」


 何がなんだか分からないまま支払いを済まし、和み亭から出た。

 もしかしてここの支払いって、元々俺の奢りだったの?

 いや、新しい剣の為だ。ここは支払っておくのが正解のはずだ!

 俺は無理矢理納得し、寮へと帰って行った。



 〜ジーニアスside〜


 コツコツコツ……。

 今は使われていない神殿のような造りの建物の中で、誰かの歩く音が響いている。


 「ジーニアス卿。」


 フードを被り歩いていると、突然隣から私を呼ぶ声が聞こえ立ち止まった。


 「ヴィラン卿。」


 私の隣に足音を立てず現れたのは、ヴィラン卿と呼ばれた少し腰の曲がった人物だった。


 「クククッ。今回の作戦は失敗したようですな。」

 「あんなもの。魔物を放っただけで作戦とは呼べませんよ。憎きソルジャー達の実力を調べただけです。」

 「そうでしたか。どうでしたかな? 星を喰い物にしている奴等は?」

 「あの程度なら問題ありませんな。あの方の許可があればすぐにでも滅ぼしてましたよ。」

 「それはそれは。」

 「まずはあの方に今日の結果を報告に行かねば。」


 私は報告の為に再び奥へと歩き出す。


 「私も報告を聞かせてもらいましょう。」


 ヴィラン卿も隣に立ち、ついてくるようだった。

 会話を続ければ続ける程ヴィラン卿が怪しく見えてくるが、これでも同じ志を持った同士なのだから丁重に扱わなければな。

 少し歩いた私は、目の前にある大きな扉を開け、中に入った。

 中に入ると、王が座るような玉座があり、そこにはあの方が座っていた。


 「閣下。昨日の作戦報告に来ました。」

 「ジーニアスか。聞かせてみろ。」


 地の底から響いてくるような威圧感のある声が広間に響いた。

 聞き慣れない人からすれば恐怖が溢れてくるような威圧感だが、慣れている私は特に恐怖をする訳でもなく跪いた。


 「はい。セントラル学園にて魔物を召喚し騒動を起こしましたが、対した騒動にはならず鎮圧されました。その際、同士のシルヴァを亡くしています。」

 「彼奴は可愛らしい獣人であったがそうか。今日が彼の寿命だったのだな。」

 「星に導かれた事でしょう。」

 「して、どうであった?」

 「現在のソルジャー達の実力は、以前に比べると落ちています。その気になればいつでもあの国は落とせるかと。」

 「そうかそうか。しかし、油断はするな。あの国のソルジャーというのは厄介な連中であるからな。」

 「次回はしっかりと準備をしてから向かいたいと思っております。」


 私の返事を聞いた閣下は満足したように頷き、


 「それならば良い。さて、次はヴィラン。貴様が動きソルジャー達の数を減らしてこい。」

 「クククッ。承りました閣下。」

 「くれぐれも我らペンタグラムの事はバレないようにするのだぞ。まだ表舞台に立つのは早い。理解したのなら下がるがよい。」

 「「ははっ!」」


 閣下から退出の言葉を聞き、私とヴィラン卿は玉座の間から退出した。

 さて、あの星の害悪共を滅ぼす計画でも考える事にしよう。

 ヴィラン卿と別れた私は、口元だけ笑いながら次なる作戦を立てるべく考え出した。



 〜レヴィside〜


 「では、今日現れた謎の組織の人物は、発見次第捕縛又は抹殺を行うという事を決定とし解散します。お疲れ様でした。」


 秘書のナターシャが進行していた緊急会議が終わった。

 会議の内容は、大演習の時に襲撃された件だ。

 何やら一年の担任であるロック教官の報告で演習場内で暴れていた賊は、クリスタルを体内に埋め込んでいる魔人だったらしい。

 魔人か。何度か戦った事はあるが個人差があるとはいえ確かめんどくさい相手だったな。

 私は昔を思い出し眉間に皺をよせる。

 私の表情を見た教官達は、黙って私の発言を待っている。

 指で軽く眉間を解してから周囲を見渡し、


 「相手が魔人だろうと人だろうと関係ない。この学園に手を出した事を後悔させてやれ。敵組織の情報が入り次第私に報告するように。」

 「「「はい。」」」

 「では皆の者、今日はご苦労であった。解散。」


 私の一声で会議が終わり教官達が退出していく。

 魔人が絡んでいるのなら、上にも報告せねばなるまいな。

 学園長室に戻った私は自分の席に座り、一緒に戻って来たナターシャの方を見て、


 「ナターシャ。王に報告をするから繋いでくれ。」

 「わかりました。」

 「後は面倒だが、他のパラディンにも伝えておく。彼奴らには手紙で充分だろう。後で認めるから郵便屋を呼んでおいてくれ。」

 「はい。緊急時の郵便屋でよろしいですか?」

 「それで頼む。」


 そう言うと私は手紙を書き始めた。

 携帯を使って連絡する事も考えたが、盗聴される恐れもある。

 それ以前に彼奴らは電話には出ないからな。

 全く腹立たしい。

 ナターシャが部屋を出ていった後、手紙を書きながら、


 「私も動かねばならんな。久しぶりに身体でも動かすとしようか。」


 そう呟きながら再び手紙を書くことに集中し始めた。

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